2025年12月15日月曜日

ロバの耳通信「月の満ち欠け」「天空への回廊」

「月の満ち欠け」(17年 佐藤正午 岩波書店)

佐藤正午を「アンダーリポート/ブルー」(15年 小学館文庫)で初めて知って面白さに目覚め、続けて読むことになったのがこの「月の満ち欠け」。リーンカーネーション<生まれ変わり>を題材にした、ミステリー。新しいカタチの恋愛小説ーと言ってもいいだろう。
登場人物は多くはないが、誰かは誰かの生まれ変わりだとか、誰かは誰かの友達だとか、私は元々人の名前と顔がなかなか覚えられないタチ(一種の病気らしい)だから、えらい苦労して読み進めた。あげく、哲彦をアキヒト、哲をアキラと読ませたりの判じ物みたいなところがあるから余計に迷い込んでしまった。とはいえ、読みやすい文章だし、スジを多少違えても小さな物語は完成度が高く、それぞれ十分に楽しめた。

一旦読み終わって、先に読み終えていたカミさんの解説をフンフンとわかったふりをして聞き、もう一度最初から読まなければキチンとこの作品の良さをちゃんとわかることができないと思うのだが、佐藤の作品は手探りが本領だから、スジを全部わかってしまうと感動が半減することを前読の「アンダーリポート/ブルー」で経験済み。さて、どうしたものか。

「天空への回廊」(04年 笹本稜平 光文社文庫)

エベレスト山頂近くに落ちたアメリカの人工衛星の回収作業に中国、ロシアまで加わり、人工衛星は実は核兵器だった。と、山岳サバイバル+スパイものでエンターテインメント要素たっぷりの小説なのだが、何せ長い。日本人登山家をヒーローにしたのはいいが、登場人物が多すぎ。それらの性格描写や動きまで丁寧に描き込んでいるから、長い。文庫版650ページの後半はそれなりに盛り上がるから楽しいのだが、この長さ、また読みたいという気になれない。
気に入った本は、時間をおいてまた読むことが多い。初回はストーリーに追われながら性急さを楽しみ、二度目は主人公の行動だけでなく環境や季節などを意識しながら、じっくり読み解く。そうして、牛が反芻するように味わうのが常で、何度も読んだ本も多いのだが、「天空への回廊」は、ただジェットコースターで飛びゆく風景のようにスピード感あるストーリー展開を楽しんで、終わり。もっと長い本やシリーズものを何度も読むこともあるから、長さへの抵抗だけではないのだろう。つきつめれば、ワタシの「好みじゃない」ということか。何度も書くけど、面白かったんだけどね。