2025年5月30日金曜日

ロバの耳通信「来る」「ヴァイブレータ」

「来る」(18年 邦画)

キャスティングを見て、かなり期待していた。原作「ぼぎわんが、来る」(澤村伊智 角川ホラー文庫) が、第22回日本ホラー小説大賞を受賞、マンガもチラ見だが結構怖そうだったし。
能天気男役で子育てブログを書くことに生きがいを感じている妻夫木聡も、育児ノイローゼで段々狂って行く母親役の黒木華も怖かったが、もっと怖いはずの「アレ」とか「それ」が、なかなか来ない。ボスキャラがなかなか出てこないのにシビレを切らしそうになったら、大巫女役松たか子が日本中の霊媒師(代表柴田理恵)やら韓国の祈祷師まで呼んでお祓いをしたから、おお最後に来るかと期待していたのに、なんだこりゃの感。血反吐のゲロシーンばかりのCGも飽きるばかり。大巫女の妹でキャバ嬢役の小松菜奈がメッチャ良かった、うん個人的に気に入ったというだけれど。ウラをかえせば、ほかに大した見るところもなかったということか。


「ヴァイブレータ」(03年 邦画)

古い映画なのに、昨日封切だったよと言われてもゼンゼン違和感なし。R15だけど、ゼンゼンいやらしくなくて、寺島しのぶが「いつもの」いい感じ。少し前に息子とテレビに出ていたけど、この映画の頃とあんまり変わらない。年をとらないのか、早くから老けていたのか。

疲れてしまったルポライターの女と長距離トラックの運転手。ロードムービーなんて言葉があるかどうか、ともかくふたりはハレでも雨でもないくらいの距離感を持ち、旅を続ける。見栄とか気取りとか、そんなヨソユキの言葉じゃない会話が、それでも出会いから少しずつ距離を縮めてゆくに従い微妙に変化してゆくのが分かり、いつのまにかどちらにも共感している自分に気付いた。

どこかの薄暗い大衆食堂で、向き合ってそうウマそうでもなく、フツーにメシを食ってる彼らがうらやましい。ワタシには持病があり先行きの不安もあるが、まあ平凡な暮らしができている。だからそう感じるのかもしれないが、こういう旅暮らしもちょっと憧れてしまう。まあ、3日くらいで飽きてしまうかな、根性ないし。題のバイブレータの意味はよく分からない。ググったら、トラックの振動とかココロが揺れるとか、まあ、いろいろ書いてあったけど、題なんてどうでもいいかと。
映画評は良くなかったが、好きだね、この映画。


2025年5月20日火曜日

ロバの耳通信「最愛の大地」「タイガーランド」

「最愛の大地」(11年 米)原題 In the Land of Blood and Honey

アンジェリーナ・ジョリーの初監督・脚本ということで話題になった”恋愛映画”。交際していたセルビア警察官とムスリムの女画家がボスニア・ヘルツェゴビナ紛争でセルビア将校とムスリム勢力という敵味方の関係に。見終わって、これアノ映画と同じスジじゃないかと。ナチ将校ダーク・ボガードとユダヤ女シャーロット・ランブリングの「愛の嵐」(74年 イタリア)Il Portiere di notte だ。倒錯の愛はいつでも後をひく。

結局「最愛の大地」も、盗作騒ぎやら人権問題で映画界を騒がせ、アンジェリーナの名前だけで鳴り物入りで公開されたもののヒットしなかったのは暗すぎる話だったせいか。アンジェリーナは嫌いだが、この映画、個人的にはカメラワークも音楽も良かったし、なにより何を考えているのかわからないムスリムの女画家を演じた女優に、「愛の嵐」のユダヤ女シャーロット・ランブリングと似た不可解な女の何かを感じ、忘れられない映画になった。

「タイガーランド」(00年 米)

タイガーランドはベトナム戦争時代の米軍の訓練施設。新兵の訓練施設の最終ステージにあたり、ベトナムのジャングルを再現していて米兵とベトコンに分かれた模擬戦をやる。それまでの訓練で疲労や不平、不満が溜まっているからつい本気になってしまう。
コリン・ファレルが飄々とした新兵になってまとめ役に。ほぼ無名の役者ばかりだから、ほとんどこれはコリン・ファレルのための映画。あんまり変わってないな。
実際の戦闘シーンはないが、お決まりの古参軍曹による新兵のシゴキやら新兵同志のイジメやらが延々。まごうことなき反戦映画。厭戦といってもいいか。

60年代の終わり。私はノンポリだったから、学内を練り歩くベトナム反戦のデモにも集会にも参加せず。ずっと後になって、それらに参加しなかったことで失ったもののことを考えた。停学になることも、怪我をすることもなかった代わり、何か大きなものを失ったような気がしたが、いまもそれが何かわからない。相変わらず、今もノンポリのままだ。

2025年5月10日土曜日

ロバの耳通信「ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書」「ブレイン・ゲーム」

「ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書」(17年 米)原題 The Post

監督がスティーブン・スピルバーグ、主演がメリル・ストリーブ、トム・ハンクスと揃えば面白さを保証されたもの、にも拘わらずこの映画、初見。ひとこと感想、いやー、面白かった。
ベトナム戦争の調査レポート「ペンタゴン・ペーパーズ」をマクナマラ司法長官に握りつぶされた軍事アナリストがレポートをニューヨークタイムスに持ち込み、発表したニューヨーク・タイムズに司法の手が伸びる。ニューヨーク・タイムズに遅れをとったワシントン・ポストの編集長(トム・ハンクス)はアナリストから同じレポートを入手し、訴追覚悟で大々的に暴露した。メリル・ストリーブはワシントン・ポストの社主の役。親から引き継いだ会社をつぶすかどうかの瀬戸際に立たされるも、編集長支持の結論を出す。
日本の司法制度との違いをまざまざと感じるのが、記事掲載日に司法省より編集長への記事差し止めの電話、翌々日には最高裁判所による公聴会と決定とアクションが早い。しかも、レポートを最高機密文書として隠そうとする政府に対し、報道の自由を理由に記事の掲載を最高裁が適法と裁定するなど、ちょっと格好良すぎのウソ臭さもあるが、経緯はおおむね事実にのっとっているだろうから、映画の説得力もある。まあ、この映画が70年代か80年代なら大いに評価されるだろうが、当事者たちのほとんどが死んだり、引退している17年の公開じゃあ、ただのサクセス・ストーリーかな。
ワシントン・ポストは13年にAmazon創始者のジェフ・ベゾスに売却され、”スローガンを「Democracy Dies in Darkness(暗闇の中では民主主義は死んでしまう)」とすることを発表”(wiki)したりしているから、案外この映画、ワシントン・ポストのキャンペーン映画かなと。まあ、面白かったから文句はないけれど、時期的にはちょっと後味が・・。

「ブレイン・ゲーム」(15年 米)原題 Solace

アンソニー・ホプキンスのファンで、だいたいは同じ映画を2、3回は見ている。サンソニー・ホプキンス主演の映画のなかでも、この「ブレイン・ゲーム」は、味わい深い優れた作品だと思う。脚本も、音楽もいい。特に気に入っているのはフラッシュバックのシーン。ホプキンスがFBIに委託された、預言者の役だから、未来に起きることをフラッシュバックで見せるのだが、数秒の映像が実に迫力があり、何度みてもドキッとするほど。あと、FBI女性捜査官役のオーストラリア女優のアビー・コーニッシュがいい。ブロンドの美しい髪を束ねた制服姿は見てるだけで萌える。
この映画、アンソニー・ホプキンスを雇うFBI捜査官の役で準主役ジェフリー・ディーン・モーガンが末期がんの捜査員という難しい役で出ていていい味をだしているのだが、一年ほど前まで夢中になってみていた「ウォーキング・デッド」(10年~ 米テレビドラマ)では、極悪の親玉の役だったから、その役柄の落差に頭が混乱。ポスターではホプキンスと並んで、コリン・ファレルが出張っているが、連続殺人犯という重要な役柄ながら、後半にちょろっと、いつものトボケ顔。彼はミスキャストだと思うよ。
原題のSolace「癒し」の意。ここで明かさなくても、映画を見れば納得。