2025年7月10日木曜日

ロバの耳通信「ケープタウン」「TAKING CHACE/戦場のおくりびと」「ディファイアンス」

「ケープタウン」(13年 仏)

ケープタウンで殺人の捜査をする刑事フォレスト・ウィテカーとオーランド・ブルームが同僚や母を殺されながら麻薬カルテルと闘う。その麻薬は黒人撲滅のために開発されたもので、摂取により自殺や殺人を誘発するという。オーランド・ブルームはアル中で、別れた妻との間に年頃の息子がいて金が要る、フォレスト・ウィテカーは現地の下層階級ズールー族の出身という設定、幼い頃に犬をけしかけらたため男性器を失っていて、それでも売春婦のところへ通う。誰にでもある、心の闇。埃まみれのバラック、灯りは店の前だけ、角を曲がると暗闇、どこもそうだ。画面を見ていて、次に起きる怖いことが、もっと怖く、血生臭い。ナタやナイフも怖いが、表情も変えずそれを使う途方もないワルたちが心底ゾッとする。ケープタウンの闇をこうあからさまに描いていいのか。映画の底辺に、現地人の貧しさを同情しながら、未開人を馬鹿にし、そのくせ心底怖がっている自分と同じたくさんの観客の眼を感じる。少なくとも、二度見る映画ではない。

「TAKING CHACE/戦場のおくりびと」(09年 米)

イラク戦争のさなか、デスクワークに逃げ込んだという意識から罪悪感に苦しめられていたアメリカ海兵隊中佐(ケビン・ベーコン)が、亡くなった若い兵士の遺体を家族の元に送り届ける役を自ら引き受ける。戦死した兵士を家族の元に返す時は、必ず随行者が必要という決まりがあるらしい。

遺体が集められた軍の基地での納棺から家族のいる町の葬儀社までの道のりでは、随行者も含め航空会社や霊柩車での移動時に敬意を持って対応される。その厳格で決まりだらけの道行の一切を終え、自宅に戻った中佐が家族と抱き合うシーンが印象的だ。戦闘シーンも死亡シーンもないが、これは反戦映画であり、同時に国威高揚映画だ。ケビン・ベーコンが名優だと改めて、知る。

アメリカ国内で飛行機に乗ると、軍服を着た兵隊はエコノミークラスでもファーストクラスより優先搭乗案内される。それくらい国のために戦う兵士たちは、アメリカでは優遇される。奨学金制度や就業支援制度など多数の優遇制度がある。実態との乖離も指摘されてはいるようだが、どこかの国で、今はほとんど戦死者はいないものの、災害支援での事故死や過労死の話も聞く。国は彼らにどれくらい報いているだろうか。

前に見た映画で、兵士の死亡連絡は正装した軍人が家族の家を訪れるという決まりがあることを知った。第二次世界大戦中に留守家族が家の前に黒い車が止まり、中から正装した軍人(通常2名)が玄関口に歩いてくるのを見て、母親が息子の戦死を知るというシーンを見て、電報一本で戦死公報が届けられたどこかの国とはえらい違うなと感じたものだった。

「ディファイアンス」(08年 米)原題 Defiance

第二次世界大戦時のベラルーシのビエルスキ兄弟によるユダヤ人救出劇を描いている。原作は「ディファイアンス ヒトラーと闘った3兄弟」(09年 ネハマ・テク 武田ランダムハウスジャパン)。主役が英007俳優ダニエル・クレイグだし、よくあるアメリカ軍の大活躍でもないから、ハリウッド作品なのにとちょっと不思議な感じ。ナチスに蹂躙されながらも、ユダヤ人の見識の高さというかワガママを描いているから、誰かがこの映画で何かを訴えたかったのか、とか政治的背景も考えてみるのだが、思いつかない。