破綻寸前の日本政府が窮余の策として強行採決した”七十歳死亡法案”が2年後に施行され
ることになった。新法は寿命の足切り、70歳になると安楽死させられるというとんでもない法律だが日本救済のアイデアとしては説得力があった。どうせ長生きできないのなら今のうちにという享楽主義の蔓延など、死を前提にした人々の心境の変化が興味深い。
この小説の主人公は、ワガママな義母の介護に疲れ果てている主婦。新法のおかげであと2年で、このワガママの世話をしなくていいのだと喜んだものの、あと2年がガマンできない。引きこもりの息子、寄り付かない娘、何より能天気の夫とその兄妹たち。全員、敵。登場人物のすべてがステレオタイプに描かれてはいるものの、イマの日本の家庭の縮図。著者の垣谷はそれを最後まで描き切れず、ハッピーエンドにしてしまったのがかえすがえすも残念。長生きなんかしたくないと多くの年寄りが思っている「本音」を垣谷はホントは理解していないんじゃないか、そんな気がした。
「君たちに明日はない」(07年 垣根涼介 新潮文庫)リストラ請負人を描いた痛快無比のエンターテインメント小説。あとがきで、垣根自身が”小説は、魅力的な人間像を描くことが重要”と述べているが、登場人物の全員がイキイキと描かれ、文句ない面白さだ。続編(「借金取りの王子」)もあり、テレビドラマ化されているというが、本作を超えているだろうか。テレビドラマの方は、配役を見たら、動画サイトで探す気にもならなかった。小説のイメージとゼンゼンちがう・・。案の定、話題にもならなかったらしい。
垣根には会社員の経験があるという。(首を)切られる側か切る側かの立場に立ったことがあるのかもしれない。管理職としての会社の見方や、企業再生屋の説明なども的を得ている。若い会社員にも読んでほしい気がする。
