深夜バスの運転手として働く男には都会の暮らしに疲れ実家に帰ってきた息子とコスプレアイドルに夢中の娘、姑との諍いのため別れた妻がいて、前妻には新しい家庭があり、男も新しい伴侶を持つことを考えている。騙しも、殺しもない。普段ミステリー小説やノワール映画に明け暮れているから、こういう小説はちょっと退屈なのかなと不安もあったが、父と息子、父と娘、前妻と子どもたちの「どこにでもあるような話」ではあるけれど、ときどきウルウルしながら500ページを一気読み。カミさんは、元妻とまた一緒になるというラストが良かったと。ワタシは、男は前妻や小料理屋の女将のどちらとも撚りを戻さないというラストが良いと思ったのだが、伊吹は別のラストを準備していた。
「ミッドナイト・バス」(18年 邦画)
主演のバス運転手役原田泰造、その妻役山本未來も、音楽(川井郁子)も良かったが、とても重要な役柄だと思える小料理屋の女将役の小西真奈美がゼンゼンそれらしくなく、つまらなかった。製作スタッフもよく工夫したなと感心したのが、娘とその相手の両親を入れての会食シーン。原作にあった突然3人が玄関先に立つところで、このマザコンボーイフレンドと両親の態度に辟易感を感じているのに、映画では会食場所に向かうエレベータが騒々しい中国人たちに囲まれて辟易するシーン、そのあとのレストランでも騒々しい中国人に囲まれて、大事な食事会がワヤになってしまうところ。マザコンの母への憎々しさ倍増。
製作が新潟日報社で、公開も新潟千行ということでローカル色が強かったが、カメラワークが自然で信濃川と万代橋の風景も楽しめた。とはいえ、映画が原作を超えることのハードルの高さを感じた。
「虚の王」(03年 馳星周 光文社文庫)
馳のノワール小説は好きでずっと読んできた。この「虚(うつろ)の王」は、その中でも最も失望した一冊になってしまった。魅力的な4人のキャラでもっともっとノアールにしてほしかった。どうせ最後に殺してしまうんなら主人公を隆弘じゃなく、「最初から」極悪英司にすればよかったのにと残念でならない。美少女希生(のぞみ)にも、女教師潤子にももっと汚れて欲しかった。「不夜城」「漂流街」「夜光虫」(97年~99年)の、ページをめくるのが惜しくなるような興奮がなつかしく、恋しい。600ページも読み進めてきて、本当に面白かったのがラストページだけなんて酷いよ。いくらワタシが速読だったって、600ページを読み終えるのに何日使ったとおもっているんだよ。
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