2023年10月20日金曜日

ロバの耳通信「不祥事」「父からの手紙」

「不祥事」(16年 池井戸潤 実業之日本社文庫)

テレビドラマの「半沢直樹」(13年 日曜劇場 堺雅人主演)がとても面白くて、タイトルバックに原作が池井戸潤の「オレたちバブル入行組」「オレたち花のバブル組」とあったから、いつか読もうと狙っていて、たまたま図書館で見つけたのが、この「不祥事」。表紙が今風でいい。

元銀行員の池井戸自身が、銀行を舞台に”読者に漫画のように面白がってもらえる”目的で書いたと言っているエンターテインメント小説。ただ、コミカルがあまり好きじゃないワタシがそのことを知らずに読み始め、銀行員の主人公花咲舞の、ステレオタイプが過ぎる人物象が鼻につきはしたが、勧善懲悪の痛快感は100%。”漫画”だと割り切ればそれもアリかと、満足。「花咲舞が黙ってない」で漫画連載化(14年~)、テレビドラマ化(14年)もされたと。

文章は切れが良く読みやすかったから、吉川英治文学新人賞受賞作「鉄の骨」(10年)、阿部寛主演のテレビドラマ化で話題にもなった直木賞受賞作「下町ロケット」(11年)を読んで見ることに。

「父からの手紙」(06年 小杉健治 光文社文庫)

約10年前に妻子を置いて出奔した父から、子供たち毎年届く手紙。婚約者が死体で発見され、弟が殺人罪で逮捕された娘が、”隠された父の驚くべき真実”を求め父捜しに。面白いスジなんだけどなぁ。

先に読んだカミさんの”良かったよ”からはじまって、オビ広告の”涙が止まらない”とか、解説の”魂の叫び”やら、書評の”感涙”やら、”胸が締め付けられ”とか、やたら情緒をかきたてる言葉が並んでいたが、ワタシの読後感は「作り過ぎ」。出だしでワタシを引き付けたが、400ページのストーリー展開にはメリハリが感じられず、せっかくの題材をくどくど書きすぎてダメにした感。

ワタシだけの勝手な想像だが、この小説は先にあらすじがキチンと整理され、全体量をあらかじめ決め、サブストーリーや登場人物のの感情を織り込んだのではないか。つまりは、書き手が自らの感情に囚われることもなく、「予定通りに」書きあげたのではないか。だから、暴走も論理の破綻も感じられない。勢いとかホトバシリが伝わってこない残念さを感じてしまうのだ。前半は純文学にも感じられる文章の丁寧さに比べ、後半は謎解きミステリーを意識した文章にも戸惑ってしまった。ほかの作品を読む意欲はないかな。

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