2023年3月20日月曜日

ロバの耳通信「真相」「生きるぼくら」「夜届く 猫丸先輩の推測」

「真相」 (06年 横山秀夫 双葉文庫)

今までに読んだ警察小説とはかなり違う短編集。「真相」10年前に殺された自慢の息子は実は万引き犯、一緒に万引きしていて先に逃げたのが実は娘の婚約者だったという真相。やりきれんなー、確かに。「18番ホール」18番ホールの予定の場所に埋めたひき逃げ死体を隠すには、村長になってゴルフ場の主導権を握らねばと、”己の人生を丸ごと、深い穴に埋めてしまいたかった”村長候補。「不眠」職を失い、不眠症治療の治験に通う男がチクったトルコ嬢殺しの男もリストラ組。実は容疑者の男の息子が真犯人だった。治験の収入で失業保険を切られることにビクビクしながら不眠症に悩む男。などなど、落とし所のない困難に途方に暮れる主人公たち。とても他人事とは思えない。

冤罪の報道などを聞く度に、犯罪者になる、ならないがほんの紙一枚の差だと思うし、また悪意のネット情報などについて聞くと、平穏ではいられない。どれも寝汗の原因となりそうな”心底、怖い”物語ばかり。読み終わって、ああ、これは自分や家族の話ではなかったと息をつくも、胸騒ぎのような不安は消えない。犯罪者になる、被害者になる、どっちも嫌だ。

「生きるぼくら」 (15年 原田マハ 徳間文庫)

 母ひとり子ひとりのひきこもりの青年が母親に家出され途方に暮れてしまう。母親が残した”年賀状の中に、あなたの助けになるひとがいる”という書置きをもとに、奥蓼科にすむ幼い頃に一緒にすごしたことのある祖母を訪ね、そこで異母兄弟の娘をはじめいろいろの人たちと力を合わせ、ボケの始まった祖母の自然稲作を手伝うという物語。大自然の中で自分を取り戻すという、物語ならありそうな話なのだが、自然のものを食べること、額に汗すること、人々に囲まれて生きることなど、ふだんの暮らしで忘れかけていた感覚を反芻させる著者の文章の力に負け、涙してしまった。押しつけがましいことが書いてないから、困難にメゲ途方に暮れたときに読むと力をもらえる本。

だれか映画にしてくれないかな。うん、あんまりメジャーな俳優たちとかじゃなく、明るいイナカの風景のなかで、感動に泣きたい。

「夜届く 猫丸先輩の推測」(18年 倉知淳 創元推理文庫)

6編の短編集。表題と同じ巻頭短編では、心当たりがない”病気、至急連絡されたし”という差出人不明の電報に主人公が右往左往し、妄想の世界に入り込む。謎解き物語ではあるが、著者が作った答えさえコジツケ。著者の独りよがりのユーモアはちっとも面白くなかった、というのがワタシの個人的な感想。よって、巻頭一編だけで放棄。

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