2023年8月30日水曜日

ロバの耳通信「アンキャニー不気味の谷」「メッセージマン」

「アンキャニー不気味の谷」(15年 米)原題 Ancanny

まだまだ知らないことが多いことに気付く。長く生きてきたのに、まったく知らない言葉に出会った。この映画の題名だ。劇中でも紹介されるが、日本のロボット工学者の森政弘が70年に提唱した説「不気味の谷現象」からきている。ロボットを進化させ、人間に近くしてゆくとあるところで進化したロボットに突然、不気味さや嫌悪を感じ、その後の進化でより人間に近くなるとそれが好意にかわるということらしい。
あちこちで、人間に似せたロボットを見るようになってワタシが感じている一種の気味悪さは、ロボットがさらに進化する前兆なのかと、一層気味悪くなる。

映画は、国の研究機関で働くロボット工学の研究者と彼のロボットのもとにインタビューに来た女性雑誌記者との三角関係のもつれを描いたものだが、映画の後半はとっておきの種明かしを次々に見せられ次はどうなるんだとさらなる「不気味」期待のドキドキが収まらず。とんでもないラストのあとにタイトルバックが流れ、一息ついたところでダメ出しのシーンでもう一度「不気味」を感じることになった。


「メッセージマン」(18年 インドネシア・オーストラリア)

アクションまたはオバケのイメージのインドネシア映画ということでちょっと舐めていたのに、半端ないスピード感にすっかり参ってしまった。「ジョン・ウイック」+「ミッション・インポッシブル」の造りなのだが、脚本もしっかりしていて手抜き感ゼロ。耐えに耐えていたスーパー・ヒーローが悪の本拠地に乗り込み、負傷しながらも敵を一掃のスジは珍しくもないが、インドネシアの貧しい島を舞台にした少年と隠遁生活をするヒーローの交流やそれを踏みにじる海賊の登場など、人情モノの設定が良かった。製作スタッフも配役も全く知らない映画だったが、映画は娯楽ーのキホンをきっちり守った予想外の面白さに脱帽。続編を心待ちにしたい。

2023年8月20日日曜日

ロバの耳通信「ザ・レポート」

 「ザ・レポート」(19年 米)原題:The Report

9.11テロの捜査でCIAがテロリスト容疑者を尋問。その記録の一部がなくなっていたことに気付いた民主党上院議員がスタッフに調査を命じた<このとりかかりのところがやや曖昧>。新任スタッフ(アダム・ドライヴァーが好演)が約5年にわたりCIAの活動内容を精査し、CIAによる酷い拷問に何の成果もないどころか、それを続けていたことを調べ上げ報告する。上院議員はこれを公表しようとするが、共和党など相対する政権に妨害を受け、墨塗りだらけの報告書でしか公表できなくなり、同時に調査スタッフはCIAの陰謀で刑務所行きを宣告されそうになる。結局、民主党上院議員やほかの議員たちの頑張りにより、CIAの悪行が暴かれる。


CIAの悪行に知らんふりをした当時の政局メンバーたちも実名で語られ、最後は暴露されて報告書は公開され、ムショ送りされそうになった調査スタッフも無事だったという結末が出来過ぎの感はある。もっとも、事実が明らかにされず、調査スタッフも刑務所に送られるか暗殺されてすべて闇の中、の結末のほうがより強い問題提起にはなるだろうが、暗いばかりの作品だと世間に受け入れられないし興行収入も期待できないだろうからこういう終わり方にするしかなかったのか。

映画の中で繰り返しメッセージとして伝えられるのが、テロリストがどんな酷いことをアメリカ国民にしたとしても、CIAがその捜査中に拷問など非人道的行為があったという暗黒歴史を明らかににし、こういうことを繰り返さないことを肝に銘じておかないとアメリカの国際的な信用、政府に対する国民の信頼を失ってしまうーということ。きれいごと好きのアメリカのメッセージ映画らしく、格好良すぎの感もある。それにしても、明かさない真実が多すぎると思う、アメリカに限らずどこの国でも。権力者の悪行など証拠なんてないけれど、プンプン悪臭は感じてしまう毎日。鼻がマヒするまでの間ではあるが。

実話をもとに作られたという映画。アメリカ公開のあとは日本も含め公開されていないため話題にはなっていないようだが、必見の映画だと強く思う。

2023年8月10日木曜日

ロバの耳通信「死霊館のシスター」「メタルヘッド」

「死霊館のシスター」(18年 米)原題The Nun

なんて安っぽい題だなーと舐めていたら、とんでもなく面白い映画だった。スジはルーマニアの修道院で起きた変死事件を調査するために神父と修道女が派遣され、悪魔祓いを行う、とそれだけの話なのだが安っぽいB級怪談映画とかとは大きく違い、筋立てがキチンとされているためワケ不明で突然オバケがでてきたりはしない。どこかの修道院か古い教会を借り切ってのロケも手抜きがなく、CGもよくできていて感心。
映画で学ぶことは多い。映画のなかで”しゅうせいせいがん”ー吹替なのでこう聞こえる言葉が何度か出てきて戸惑っていたら、修道女が悪魔と本格的に戦うために「終生誓願」の儀式を神父に依頼するところで、ああそういうことなのかと理解。
修道女役のタイッサ・ファーミガがあまりにもピッタシだったのこれも調べたら両親はウクライナからの移民だと。普通に可愛いとかキレイ以上の魅力があった。
あまりに面白かったのでwikiでチェックしたら、「死霊館シリーズ」(13年~)のひとつらしい。題名だけを見てバカにして悪かったと反省して、このシリーズ見てみよう。

「メタルヘッド」(11年 米)原題 Hesher

古い映画。見終わって、長い間映画館やネットやDVDと付き合ってきた筈なのに、こんないい映画、なんで今まで知らなかったんだと口惜しかった。雨の日のヒマツブシにたまたま覗いたGyaoで発見。最高に良かった。

自動車事故で母を失った少年と放浪人Hesher(ジョセフ・ゴードン=レヴィット)の出会いと別れ。少年の父は妻を失くした喪失感から抜け出せずテレビと精神安定剤に頼る暮らし。優しい祖母は痴呆気味でベッド生活。たまたま知り合ったHesherは少年と父、祖母の暮らす家に勝手に居候。少年を虐めから救ってくれたスーパーのレジのおばさん(ナタリー・ポートマン)に思いを寄せる少年だが、尋ねたおばさんの家でおばさんとHesherのベッドシーンを目撃。この映画のキャッチコピー”最悪の人生にファック・ユー!”そのもの。祖母の葬儀でも大暴れのHesherがハチャメチャだが、こんなに哀しくて、愛情に満ち溢れた映画はない。ラストシーンは泣くよ。

ジョセフ・ゴードン=レヴィット(「LOOPER/ルーパー」(12年 米)、「スノーデン」(16年 米)もナタリー・ポートマン(「レオン」(94年 仏米)、「ブラックスワン」(10年 米)ほか)ふたりとも大ファンだから、余計にこの映画への思い入れも強くなってしまったかも。少年を演じたデヴィン・ブロシューが良かった。