2023年10月30日月曜日

ロバの耳通信「ノア 約束の舟」「修道士は沈黙する」

 「ノア 約束の舟」(14年 米)原題: Noah

封切りの際、ポスターだけをチラ見して、ラッセル・クロウがやるノアなら、「例の」叙事詩風大作かなと期待も薄く見ることもなかったのだが、AmazonPrimeで画質のキレイなのをサブスクで見れるということで。ワキにジェニファー・コネリー、レイ・ウィンストン、エマ・ワトソン、アンソニー・ホプキンスと豪華メンバーを揃えれば、映画会社もモトを取るためにチカラを入れざるを得ないのだろうが、まあ良かったほうかな。

ノアの次男(ハム)を演じたローガン・ラーマンが凄かった。演技なのか天性なのかはよくわからないが、無邪気と邪気、笑顔と嘲笑。天使と悪魔の表情が、そうあの中国雑技団の百面相のようにクルリと変わる。ちょっとした拍子に、ゾッとするような狡猾さが見えるなんて、もっともニガテなタイプだけど、役者としては凄いヒトなんだろうな。

まあ、この作品、のプラス面で言えばCGの出来がよく楽しめたこと。従前の方舟にみんなをのせて万歳という能天気宗教モノじゃなく、人間の悪と善をしっかり考えさせるストーリー展開は単なる宗教映画のワクを超えていたこと。マイナスは”見張りの天使”というロボット風のものがあまりにも酷いキャラだったこと。2時間半の長編だが、迫力ある映像の連続は中々。2度見したいのは、怖いもの見たさのローガン・ラーマンか。


「修道士は沈黙する」(16年 伊・仏)原題:Le confessioni

G8財務相会議の前夜、会議の中心人物である国際通貨基金の専務理事ロシェの死体が発見される。ロシェは自分の誕生会に招待していたイタリア人修道士(トニ・セルビッロ)に告解していたらしい。財務相会議では弱小国を切り捨て、主要国だけ生き残るというような弱小国に非道な経済改革案が事前から周知・検討されていたから、会議メンバーは告解の中身を知りたがるも修道士は殺人の疑いをかけられても沈黙を通したため、会議メンバーは互いに疑心暗鬼となり、結局その改革案はお流れになるーといった短いストーリーにもかかわらず、韻を踏むように宗教的な暗示があちこちで用いられ、推理小説のような面白さを堪能した。

映画の半分は、会議メンバーによる世界経済の裏操作の議論、半分は修道士によるバイブルを引用した警句の連続で、経済にもバイブルについての知識がないワタシにはやや難解さも感じられたが、闇の中を手探りで進むような、一種のお化け屋敷ツアーのように、人間のエゴが次から次へ曝け出され、消えてゆくサマは、やっぱり楽しかった。2度見でさらに楽しめそうな予感。

どうでも良いことでもあるのだが、オレがオレがのイタリア蔵相(実質イタリア映画だからしょうがない)、二刀流の発展家のカナダ女性蔵相、口の立つフランス蔵相やらの中で最も存在感のなかったのが日本の蔵相。矮小で言葉はボソボソ。ま、こんなものだろう。



2023年10月20日金曜日

ロバの耳通信「不祥事」「父からの手紙」

「不祥事」(16年 池井戸潤 実業之日本社文庫)

テレビドラマの「半沢直樹」(13年 日曜劇場 堺雅人主演)がとても面白くて、タイトルバックに原作が池井戸潤の「オレたちバブル入行組」「オレたち花のバブル組」とあったから、いつか読もうと狙っていて、たまたま図書館で見つけたのが、この「不祥事」。表紙が今風でいい。

元銀行員の池井戸自身が、銀行を舞台に”読者に漫画のように面白がってもらえる”目的で書いたと言っているエンターテインメント小説。ただ、コミカルがあまり好きじゃないワタシがそのことを知らずに読み始め、銀行員の主人公花咲舞の、ステレオタイプが過ぎる人物象が鼻につきはしたが、勧善懲悪の痛快感は100%。”漫画”だと割り切ればそれもアリかと、満足。「花咲舞が黙ってない」で漫画連載化(14年~)、テレビドラマ化(14年)もされたと。

文章は切れが良く読みやすかったから、吉川英治文学新人賞受賞作「鉄の骨」(10年)、阿部寛主演のテレビドラマ化で話題にもなった直木賞受賞作「下町ロケット」(11年)を読んで見ることに。

「父からの手紙」(06年 小杉健治 光文社文庫)

約10年前に妻子を置いて出奔した父から、子供たち毎年届く手紙。婚約者が死体で発見され、弟が殺人罪で逮捕された娘が、”隠された父の驚くべき真実”を求め父捜しに。面白いスジなんだけどなぁ。

先に読んだカミさんの”良かったよ”からはじまって、オビ広告の”涙が止まらない”とか、解説の”魂の叫び”やら、書評の”感涙”やら、”胸が締め付けられ”とか、やたら情緒をかきたてる言葉が並んでいたが、ワタシの読後感は「作り過ぎ」。出だしでワタシを引き付けたが、400ページのストーリー展開にはメリハリが感じられず、せっかくの題材をくどくど書きすぎてダメにした感。

ワタシだけの勝手な想像だが、この小説は先にあらすじがキチンと整理され、全体量をあらかじめ決め、サブストーリーや登場人物のの感情を織り込んだのではないか。つまりは、書き手が自らの感情に囚われることもなく、「予定通りに」書きあげたのではないか。だから、暴走も論理の破綻も感じられない。勢いとかホトバシリが伝わってこない残念さを感じてしまうのだ。前半は純文学にも感じられる文章の丁寧さに比べ、後半は謎解きミステリーを意識した文章にも戸惑ってしまった。ほかの作品を読む意欲はないかな。

2023年10月10日火曜日

ロバの耳通信 「ビギニング」「リヴォルト」「死の谷間」

 「ビギニング」(14年 オーストラリア)原題:Terminus

宇宙生物が人間の病気を治すというスジはどこかにもあったような気がする。胡散臭い科学省の役人とか、宇宙生物とかがあまりにもチャッチイので、ただでさえ現実感のないSFが、よけいにつまらないものに。B級にも入らないこの映画のラストの数秒、コンクリートミキサーのような容器に入って核戦争から脱した若い二人が外に出た時、緑多き新しい世界だった、というところ「だけ」が気に入った。ずっと暗い話ばかりだったから、新しい世界をもう少し見せてくれたら、もっとよかったのにと残念。

原題と邦題が逆の意味を持つもの珍しいが、終わりはなにかの始まり、ということにしておこう。

「リヴォルト」(17年 英・南ア)原題;Revolt

ポスターの釣りには堂々と”「第9地区」X「インディペンデイス・デイ」”と、面白い作品をパクってミックスしたものだと、断りがあった。米兵士とフランス軍女医がアフリカのコンゴで地球外ロボットと戦うって、ハナシ盛り過ぎだろう。CGの出来も良く、ドンパチもの好きだから映画そのものは結構面白かったし、個人的な趣味では女医役のベレニス・マーローが気に入ったからまあ、いいかと。

「死の谷間」(15年 アイスランドほか)原題:Z for Zachariah

核汚染の地球で周囲の山のせいで汚染から守られている谷。そこにひとりで暮らす若い女。被爆し、女に助けられ一緒に暮らし始めた男は働き者の黒人。もうひとりその谷に行き着いたふたり目の男はイケメンの白人。ひとり暮らしは平穏、ふたりは出会いと喜び。3人になると嫉妬と戦い。アダムふたりとイブの物語の結末。なんだかね、結局はイブだけになってしまうのか。苦味の残った映画だった。

原題の Zachariahは預言者の意味もあるが、Aはアダム、Bはベンジャミン…、最後Zはザカリアだと。意味不明だが聖書からきているらしく、原作には解説が書いてあるらしい<Google>。