2024年7月30日火曜日

ロバの耳通信「スカーフェイス」「GO」

「スカーフェイス 警視庁特別捜査第三係・淵神律子」(18年 富樫倫太郎 講談社文庫)

富樫倫太郎のミステリー小説は何冊か読んできたがあまり好きじゃない。レトリックが好きじゃないし、こねくり回したストーリーの謎解きをするのは疲れるし、達成感も感じられない。
それでも読み始めたのは、書棚の主のように長く読まな
いままに放置の本だったし、コロナ騒ぎで紙の本が枯渇し始めていたという理由。電子本はかなり貯めてあるのだが、眠る前にフトンにはいって仰向けで読むことのできる利便性は、文庫本にかなう物はない。「スカーフェイス」(傷のある顔)という名前も、ツリのハードボイルド感、好きな警察小説、しかも女刑事モノであること、読みやすい印刷文字の講談社文庫と結構アドバンテージがあった筈なのだが。

連続殺人の犯人捜しの550ページの文庫本に数日費やした。やっぱり作りすぎ。やっとこさ読み終えた感。事実は小説よりも奇なりとか言うが、”奇なり”も過ぎると作り物感に疲れてしまった。ここまでトリックを組み立てて読者を最後のページまで引き付けたのはエライと思うが、真犯人と犯行の動機を明かされても不自然さに、そりゃ、ないだろーと読み終えた爽快感ゼロ。
やっぱり、相性が悪かった富樫倫太郎。

「GO」(03年 金城一紀  講談社文庫)

著者が在日韓国人である自身の友人たち家族を、悪ぶることも善人ぶることもなくイキイキと描いていて好感が持てた。登場人物がみんな愛すべきいいヤツなのがいい。良家のお嬢さんである桜井との恋物語がいい。良い話すぎて、カミさんいわく、”こういうのって、東大出のお父さんからの反対とかでうまくゆかないんだよねー”と。ウチなんか、両家ともビンボーニンの家族だったし、お互いイナカの出身だから揉めなかったけど、カミさんの危惧はわかる気がする。とはいえ、良い作品だった、久しぶりに。

直木賞受賞作だと、読み終わって知った。映画化(01年 邦画)もされているらしい。主人公の杉原役が窪塚洋介はいいけど、桜井役が柴咲コウだと。なんだかイメージ違うよね、とカミさんも同意見。

2024年7月20日土曜日

ロバの耳通信「軽蔑」「空母いぶき」

「軽蔑」(11年 邦画)

高良健吾と鈴木杏がチンピラとトップレスバーの踊り子、映画のキャッチコピーは「世界は二人を、愛さなかった。」とあるが、私的には「死ぬまで愛した」がいいかな。高良健吾は映画やテレビで良く知っていたが、鈴木杏の顔と名前が初めて一致し、メッチャ好きになったのがこの映画。
ストリッパーの役なのに踊りはヘタだし、ずん胴のペチャパイはなのだが表情がいい。厚化粧も起き抜けのスッピンのどっちもいい。戸惑い顔も泣き顔もいい。カラミのシーンが多すぎだが、時間に追われるようなカケオチなんてこんなものだろうと密かに憧れたりして。

チンピラと踊り子の逃避行、女の腕の中で男が息絶えるラストなんて、使い古されたストーリー(原作は中上健次 99年集英社文庫ほか)なのだが、二人とも役にピッタリ。べた褒めの映画評ほど、緑魔子とか根岸季衣とかほかの配役が良かったとも思わなかったけれど、鈴木杏は良かった。

「空母いぶき」(19年 邦画)
 
原作は同名の漫画(14年~ かわぐちかいじ ビッグコミック)。東亜連邦の侵略を受けた初島に日本の軽空母「いぶき」(航空機搭載型護衛艦)艦隊が救助に向かうというミリタリーもの。
主演が「いぶき」の艦長と副艦長役の西島秀俊と佐々木蔵之介。表情が乏しく、セリフ棒読み。ふたりとも、明らかにミスキャストだって。内閣総理大臣にいつもの難しい表情の佐藤浩市とか、新聞記者に可愛いだけの本田翼、オカシイだけの小倉久寛、明るいコンビニ店長に中井貴一とか、邦画特有の賑やかな友情出演歓迎キャスティングをしたばっかりに、意味のないサブストーリーは増えるわ、お涙頂戴のクサイ芝居が続くわで、映画への集中度が削がれた。

戦争放棄条文とか自衛権だとか、どっちつかずの演説口調の長いセリフにも辟易。ミリタリーものはドキュメント風にしてくれた方がずっと楽しめる筈。いくら日本の自衛隊が優秀だからって、テキの魚雷やミサイルはコッチに当たらないって、大東亜戦争の進軍ニュース映画のノリ。うーん、エンターテインメントでも反戦でも国威高揚でもない映画、時間のムダだった。かわぐちかいじの漫画だけでやめといたほうがいいよ、ゼッタイ。


2024年7月10日水曜日

ロバの耳通信「グレイハウンド」「イーオン・フラックス」「オールド・ガード」

「グレイハウンド」(20年 米)原題:Greyhound

第二次世界大戦中のアメリカ海軍の護送船団の旗艦の駆逐艦グレイハウンドとドイツ軍潜水Uボートの戦闘描いた戦争映画。C・S・フォレスターの小説「駆逐艦キーリング」をもとにトム・ハンクスが自ら脚本を書き、グレイハウンドの艦長役を演じた。艦長としての初めての商船団の護送任務に緊張するトム・ハンクスのシリアスな演技が光っていた。トム・ハンクスの映画でハズレたことがないが、この映画も彼の代表作になったのではないか。
駆逐艦と潜水艦の映画は、潜水艦側からの作品が多かったような気がするが、この「グレイハウンド」は駆逐艦が潜水艦とどう戦ったかの詳細が迫真の演技の中で紹介され、駆逐艦が主役というあまりなじみのない戦争映画として興味深いものになった。

wikiによればこの映画、今年のハリウッドの目玉作品として6月公開の予定だったが、コロナ感染拡大のため放映権を手放したソニー・ピクチャーズからアップルTV+が約7千万ドルで買い取り配信しているとあった。さらにコロナが長引けば、映画もダメになるのか。

雨の中、外にも出られず、コロナのせいでアーカイブとおもしろ動画の紹介ばかりの番組を見ながらカミさんと<最近のテレビが面白くなくなったね>と。テレビも同じ運命か。

「イーオン・フラックス」(05年 米)原題:Æon Flux

コミックが原作らしいが、スジが良くわからない。ポスターに惹かれて昔、DVDを見た記憶がある。どんなスジだったか思い出せず、今回、ネットでまた見たが、今回もスジが全くわからない。

ウイルスにより、人類のほとんどが死滅。残された人々が、外界と遮断されたユートピアを作るが、そこにも主流派と反主流派がいて云々。SF物語でももうすこし論理的じゃないと、頭がついて行かない。主演のシャーリーズ・セロンがスーパーヒロインとなって活躍。
シャーリーズ・セロンが好きじゃないワタシには何も残らない退屈映画。また、見るんじゃなかった。

「オールド・ガード」(20年 米)原題:The Old Guard

新作だし、Netflix期待で見たシャーリーズ・セロン主演のこれもやっぱりコミック(グラフィックノベル)の映画化。死なない傭兵たちが正義のために戦うという、なんとも子供じみたスジ。死なない傭兵たちを捕まえて不死の特効薬を作ろうとする製薬会社のCEOが悪役。傭兵隊長のシャーリーズ・セロンがいつものごとくムダに動いて大活躍。うーん、やっぱりつまらない。
主役以外のキャスティングはいいのに、惜しい。原作者のグレッグ・ルッカ(「守護者」(13年 講談社文庫)ほか)は大好きな作家なのに。

もう、女優辞めなよシャーリーズ・セロン。