2024年10月28日月曜日

ロバの耳通信「ガーディアン」「カイト KITE」

「ガーディアン」(12年 独)原題:Schutzengel

題名は守護天使の意味。武器商人の殺人現場を目撃したために追われる少女を守るはみだし刑事。このパターンは多いけれど、この映画の見どころは何といっても銃撃戦のスゴさ。ヘッドフォンで大きめの音で聞くと、臨場感が楽しめる。特に、小銃の装填音、発射音やどこかに当たったときの衝撃音などが楽しめるのだが、ほかの映画でなかなか聞けないのが、耳のそばで撃ったときのキーンという耳鳴り音がなんともその気にさせる。
この映画、たぶん何回目かになるのだろうが、ついまた見てしまうのが主演の刑事役ティル・シュヴァイガーの活躍と銃撃戦の大音響を楽しむため。ティル・シュヴァイガーは昔から結構ファンで、「ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア」(97年 独)、「Uボート 最後の決断」(04年 米)とか、近年では、スパイの時計屋を演じた「アトミック・ブロンド」(17年 米)もドイツ人らしい気難しい役に合っていてとても良かった。

「カイト KITE」(14年 米)

原作は日本のエロアニメ「A KITE](98年 梅津泰臣監督)だそうな。両親を殺された少女サワが刑事だった父の元相棒アカイから暗殺技術を教わり、犯人捜しをする。近未来の設定で、組織の生業が少女売買というところは目新しい感じはするが、探す宿敵の組織のボスは一番間近にいた、というまあよくある話。R15指定の割には、ソレらしいシーンもないが、どうもアタマを吹っ飛ばされたりとかのバイオレンスシーンのためか。(期待して損した)

少女サワ役がオリビア・ハッセーの実娘インディア・アイズリー。これが、まったくイケていない。セリフ回しは吹き替えなので何とも言えないが、表情も動きも役者とは思えないくらい。なにより、主役なのに、美しくも可愛くもない。致命的。アカイ役がサミュエル・L・ジャクソンなのだが、こっちも冴えないいつものワンパターン。演出も音楽なんかもぜんぜんイケない、C級映画。ここまで絶望すると、原作を追っかける気にもならず、撃沈。

2024年10月20日日曜日

ロバの耳通信「ひかりをすくう」「レイクサイド」「少年と少女のポルカ」

「ひかりをすくう」(09年 橋本紡 光文社文庫)


パニック障害のイラストレーターが仕事を辞め、哲ちゃんと一緒に住んでた都心のアパートから郊外に脱出。貯金でつなぎながら、近所の女子高生の英語の家庭教師をやったり、子猫を買い始めたり、哲ちゃんの前の奥さんと闘ったりで新しい暮らしになじんでゆく。
持病アリ、収入ナシの不安があったら、自分ならとてもこうは行かないだろうと思うけれども、まあ、こういう暮らしにあこがれる。なにより二人が「仲良し」なのがいい。
ワタシもカミさんも、その気になって一歩を踏み出せば、この物語ほどうまくはゆかないにしても、背負うものの少ない、もっと気楽な暮らしができる筈なのだが。



「レイクサイド」(06年 東野圭吾 文春文庫)

長く東野圭吾を読んできたけれど、こういう感覚は初めてかな。「ハズレ」。東野先生でも面白くない作品があるなだ、と。
有名私立中学受験のための合宿に集まった4組の家族。”妻は言った。「あたしが殺したのよ」”で始まる、湖畔の別荘地で起きた殺人事件。で「レイクサイド」、題名の付け方から安易~。
タネ明かしまで読めば、ああ、そういうことだったのかと思いがけない展開にオドロキはあったから謎解きミステリー小説としては良くできているのだろうが、ええっ、そんなのあるわけないだろうと失笑してしまうスジ。期待して読み始めたのに、つまらない小説、しかも面白いことでは裏切られたことのない文春文庫に、ただでさえ少ない残された時間を使ってしまったことに後悔。

「少年と少女のポルカ」( 00年 藤野千夜 講談社文庫)

裏表紙の芥川賞作家、海燕新人賞のツリに欺かれた感。単に私の嗜好に合わなかっただけなのだろう。
表題作は、いまはフツーになったLGBTの高校生の恋愛話。
海燕新人賞になった方は予備校生と同級生の物語に若い感性を期待して読み始めたのだが。突き出した元気さも感じ取れない、臆病な文章にすぐに飽きた。
漫画の原作みたいだなと思っていたら、著者は漫画雑誌の編集者だったと。デビューが早すぎたのかな。

2024年10月10日木曜日

ロバの耳通信「ウツボカズラの夢」「星々の舟」

「ウツボカズラの夢」(11年 乃南アサ 双葉文庫)

乃南アサ。今まで何度も手に取った作家なのに、ちゃんと読んだことがあまりなかったような気がする。直木賞を獲っている「凍える牙」(08年 新潮文庫)さえ途中で何度も放り出しながらようやく読み終えた記憶がある。

「ウツボカズラの夢」は、母親の死去と父親の再婚で居場所のなくなった高校を卒業したばかりの娘ミフユが親類のおばさんを頼って上京。おばさんの家もバラバラな家族。居候からいつの間にかお手伝いさんのになり、おばさんのダンナと関係を持ち、おばさんが家出したあとはおばさんの息子と仲良くなり、結局そこの嫁に収まってしまう。著者はどうも、ミフユを食虫植物のウツボカズラに例えたのだと思ったのだが、解説(大矢博子)の”ウツボカズラは誰か”の問いに、考えこんでしまった。本当のウツボカズラが誰だったかは解説の最後に書かれていて、あーそうだったのかと思わず膝を叩いてしまった。
面白かったよ、「ほぼ初めての」乃南アサ。


「星々の舟」(06年 村上由佳 文春文庫)

直木賞受賞作の短編連作。巻頭の「雪虫」が特にいい。禁断の兄妹愛、妻子ある男ばかりを愛してしまう女、兵隊と慰安婦の恋。
物語のホネになっているのが形こそ違うがすべて男女の恋物語。男女の愛は生きる目的の要素になるとは思う。しかし、それがすべてだと並べられると食傷してしまう。
禁断の兄妹愛だけに、あるいは、個々の恋物語だけにしてくれれば、その情感により感動できたのではないか。共感はしても、究極と感じられる重い恋物語を次々に受け入れることなんて、私の年齢ではムリだと実感。村上由佳は私には刺激が強すぎるのか、それとも連作にヤラレたのか。