2024年12月30日月曜日

ロバの耳通信「桜大の不思議の森」「うつくしい人」「あなたの人生、片付けます」「ひかりの魔女」

「桜大の不思議の森」(12年 香月日輪 徳間文庫)


13歳の桜大(おうた)は”不思議”に満ちた黒沼村でなんでも知ってる”センセイ”たくさんの友達と暮らしている。そこには”禁忌の場所”があったり、”森の妖精”もいる。全編フシギなのに優しさにあふれた物語。

イナカからトカイへ出てきたワレワレはイナカがいつも懐かしくていい思い出ばかりのものではないことも知ってるけれども、懐かしさを感じるところがたくさん。

「妖怪アパートの幽雅な日常」(11年 講談社文庫)でデビュー以来”不思議”を題材に書いてきたこの作家、51歳の若さで亡くなっているから、もうこの優しい”不思議”には会えないのだ。

「うつくしい人」(11年 西加奈子 幻冬舎文庫)

同じ著者の「サラバ!」(17年 小学館文庫)では、書評が良い割にはどうもついて行けなかった思い出があったのだが、この「うつくしい人」の表紙のイラストが気に入ったのと、裏表紙の釣りに惹かれた。他人の目が気になってビクビク暮らしをしていたアラサーの女性が、退職を機に離島のホテル滞在することに。変わったバーテンダーや客のドイツ人との出会いとエピソードは、いかにも作り事じみていて気に入らなかったが、このアラサーのホテル暮らしの解放感と閉塞感という正反対の感覚は、ホテル暮らしが長かったワタシには共感できた。「うつくしい人」は、学生時代の同級生や、”重い”姉のことか。西加奈子、ちょっと見直したかな。

「あなたの人生、片付けます」(16年 垣谷美雨 双葉文庫)

断捨離コンサルタントが、片付けられない人たちの指導をする。”部屋を片付けられない人間は、心に問題がある”というのがこのコンサルのウリ文句。うん、よく理解できる。そのノリで、困った人たちの”心の問題”を、バッサ、バッサと片付ける。カミさんから、読んでと渡された意味も十分わかっているが、片付けなんかで悩むより、「飛ぶ鳥跡を濁しっぱなし」にしようかととも思ってみたりする。



「ひかりの魔女」(16年 山本甲士 双葉文庫)

さまざまな家族の抱える問題を一気に片付けることができるセンセイとよばれているウチのおばあちゃん。スーパーおばあちゃんを銭形平次や大岡越前のようなヒーローにするためのストーリーがわざとらしいのがちょっと気になったが、まあ、面白いからいいか。




2024年12月20日金曜日

ロバの耳通信「スタンド」「リベンジ Revenge」

「スタンド」(16年 米・台湾・ベトナム)

戦後のベトナムのジャングルで放置設された地雷を踏んでしまったことに気付いた兄弟が、ジャングルのなかで一歩もうごくことができないまま、両親との折り合いが良くなかった境遇や、ドロップアウトし軍隊にはいったことなどを語り合う会話劇。あげくは、兄は地雷をなんとかしようと足元を探っているあいだに毒蛇に咬まれ、自暴自棄で足を外して爆死。残された弟も思い切って足を上げたら、地雷だとおもっていた足の下のものが車のホイールキャップだったというオチ。緊張感のあとはなんともやりきれない結末。
兄弟の間で語られた物語は、酒を飲みながら語られる言葉少なめの会話や生きることをあきらめたハナシだけだから、なんとも盛り上りには欠ける。

地雷を踏んでしまい動けなくなるというシチュエーションも、前にもいくつかあったから(「トラップ」(14年 仏)、「ALONE/アローン」(18年 米)など)そう目新しくもなく、緊張感も半端だったかな。

「リベンジ Revenge」(17年 仏)

ヤラれた女がヤッた男たちに復讐をするというよくあるスジなのだが、女性監督らしくヤラしいシーンはほとんどなく、徹底的の男たちにヤリ返す。崖から突き落とされ、背中に杭が刺さり腹から突き出たところで、ああこの後は悪魔と取引をして生き返り男たちに復讐するかと想像していたら、ちょっと違っていて、男から預かっていた興奮剤で痛みを紛らわし、自分で背中からの杭を取り出しビールの缶を焼いて血止めしてスーパーヒロインの誕生。ナイスバディーのイタリア女優マティルダ・ラッツが血だらけになりながら男たちをひとりずつ血まみれに。ここまで徹底的にやってくれると、残ったのは爽快感。
マティルダ・ラッツ姉さん、鈴木光司原作の傑作「リング」(98年 邦画)のハリウッドリメイク版3作目「リング リバース」(17年 米)でも主演張って、メッチャ怖がらせてくれたけれど、そのあと見ないな。どうしてるのかな。

2024年12月10日火曜日

ロバの耳通信「原発サイバートラップ」「それでも、警官は微笑う」

「原発サイバートラップ」(18年 一田和樹 集英社文庫)

韓国の原発がハッキングされ、世界中のサイバーセキュリティー会社が対応に乗り出すが、ウラがあったというのがスジ。著者はIT企業の経験者だと。書下ろしの発表は16年だというが、今日、明日おきてもおかしくないサイバーパニックものだ。毎日ネットを使い、セキュリティーソフトにそれなりの安心料を支払ってはいるがどういう仕組みかも全くわかっていない。そういう不安を焚きつけられるような小説。わからないことばかりだから面白かったというより、思い切り怖かった。


「それでも、警官は微笑う」(06年 日明恩(たちもりめぐみ)講談社文庫)

著者の名前が覚えられない。文字を見てもヨミを思い出せない。「それでも、警官は微笑う」は刑事モノなのが、武本刑事(強面先輩)、潮崎刑事(御曹司の相棒)、宮田麻取捜査官の際立ったキャラは楽しい。掛け合い漫才のような会話もなんともほほえましい。しかし、刑事モノに謎解きやハードボイルドを好みとする私には、なんだか歯応えがなくて受け入れられない。

この作品はメフィスト賞を受賞しているし、武本&潮崎シリーズとしてもう2作品も好評らしいが、女流作家が頭だけで刑事モノを書くとこうなるのかという浅薄さが鼻につき(偏見!)、途中で放棄してしまった。

通っている図書館は、キホン2週間+延長2週間という長い貸し出し期間があるし、もともと速読なので普段は文庫本一冊くらいは半日でチャッチャ片を付けるのだが、コレはいけなかった。いちばん捗る就寝前を当てたのだが、しおりの代わりに挟んだポストイットは遅々として前に進まない。そのうち浮気をして読み始めたほかの本のほうが面白くて置いてきぼり。
で、覚えられない著者名の本を次に手に取る機会はないような気がする。単にいつもの「相性が合わないらしい」というだけ。日明さん、ごめんなさい。