2025年9月30日火曜日

ロバの耳通信「追憶の森」「エイプリル・ソルジャーズ ナチス・北欧大侵略」

「追憶の森」(16年 米)

妻(ナオミ・ワッツ)を失ったアメリカ人(マシュー・マコノヒー)が自殺するために青木ヶ原を訪れ、そこで謎の男(渡辺謙)と出会うというただそれだけの物語。ヒネリは、アメリカ人は自らの浮気のため妻とは不仲だったのが、妻のガン治療からの回復とその後の交通事故で妻を失っていた。謎の男はどうも、森の精とか死んだ妻の霊だったかとか曖昧のまま。
映画の中の青木ヶ原は明るく、川もある。アメリカ国内のどこかの森でロケしたらしく、陰鬱で暗い溶岩だらけの本当の青木ヶ原のイメージじゃないし、アメリカ人がなんで日本まで自殺に来るんだ?ナオミ・ワッツのヒステリー女ぶりはゾッとする迫真の演技だし、アメリカ女ってのはだいたいそんなものだと想像するが、ナオミの怒った顔は怖い。マシュー・マコノヒーは有名な俳優らしいが、この映画ではダイコン。渡辺謙は好きな役者だが、存在感がない。幽霊みたいな役だから、まあ、いいのか。

題名もポスターもスピリュチアル感いっぱいだが、実際のところは男が森の中をウロウロするだけの映画。保証する、時間の損。

「エイプリル・ソルジャーズ ナチス・北欧大侵略」(15年 デンマーク)

なんだかおかしな邦題だが、原題は9.April。第二次世界大戦でドイツ軍にデンマーク国境が破られた「記念日」らしい。だいたい戦争映画といえば、行け行けドンドンの勝ち戦か哀しい負け戦のどちらかだろう。この映画、ドイツ侵攻から数日で降伏を決めたデンマークの前線にいた自転車部隊の、螳螂の戦いを描いたもの。新兵を含む若者だけの兵隊たちとそれを率いる少尉(ピルー・アスペック)の物語。これが中学生と担任の先生のイメージ。雑談しながら射撃訓練、自転車のタイヤを交換する訓練など淡々と描かれる。それを監督する将校はコーヒーやブランデーを飲みながら。おいおいこんなのありかよ。
戦争シーンはあるが、ほぼ小銃や機関銃だけで、一方的にドイツ軍の機甲部隊に追いつめられ、あっという間に降伏してしまうから邦題からドンパチを期待していると違和感を憶えてしまう。
デンマーク軍の上級将校たちは皆、無責任。ドイツ軍が来てる、どうすればーに対し、待機せよ。圧倒的な兵力にやられている、どうすればーに対し、後方で別部隊と合流せよ。兵隊はもとより、将校たちも自律的な働きができない。
ドイツ軍将校がえらく紳士的に描かれているから、この映画がデンマーク映画かと疑う。戦争なんか、結局は不条理なものだから、こういう自虐的なものもあってもいいのだろうが、それにしてもこの映画が何を観客に訴えたかったの。デンマーク軍への当てつけか。
戦場で兵隊たちに頼られながらもうろたえ、最後は降伏してしまう少尉役のピルー・アスペック、結構見る顔じゃないか。スカーレット・ヨハンソン大活躍のハリウッド版「ゴースト・イン・ザ・シェル」(バトー役17年 米)とか「オーヴァーロード」(主演 18年 米)とか、デンマークの俳優とは知らなかった。
少尉の上官のこれも頼りない将校役で出ていたラース・ミケルセンも結構有名な俳優らしい。名前に見覚えがあるからチェックしたら「ハンニバル」シリーズ(14年~ 米テレビ)でハンニバル博士を好演のデンマーク出身マッツ・ミケルセンの兄らしい。

2025年9月15日月曜日

ロバの耳通信「SPY/スパイ」「アメリカン・サイコ」

「SPY/スパイ」(15年 米)

動画サイトで俳優名で検索して見つけた映画。大好きジェイソン・ステイサム、ジュード・ロウじゃあ面白くないわけないだろうと期待。うん、めっちゃ面白かったが、普段ほとんど見ることもないコメディー。

主役が二段アゴのデブ女メリッサ・マッカーシーでゲンナリだが、アクションシーンなんかも結構丁寧な造り。「007ジェーム・スボンド」シリーズ(62年~ 英)と「ジョニー・イングリッシュ」シリーズ(11年~英)を足して割ったCIAスパイアクションモノ。「007」は、とんでもないアホ話に大スターが大真面目でアクション演技をするこそばゆさ、「ジョニー・イングリッシュ」は、桁外れのばかばかしさを感じながらもシリーズを楽しんでいたのだが、「SPY/スパイ」は、大真面目アクションをジェイソン・ステイサム、ジュード・ロウが、ばかばかしい方をデブ女がと分担、パクリなりに面白かった。
世界のほぼすべてで公開されていて、配給も20世紀フォックスと最大手なのに、日本では劇場公開されずDVDやヤミ動画で見るしかない。なぜ日本だけ劇場公開されなかったのだろう。

「アメリカン・サイコ」(00年 米)

投資会社のヤングエリート、クリスチャン・ベールは快楽殺人鬼だった。(レオナルド)ディカプリオが候補だったこの役をクリスチャン・ベールを引き継いだと。ディカプリオの幼い顔より、クリスチャン・ベールの狂気がずっと似合っている。

ふた昔の前の映画なのに、ウオール街の町並みはガラスのビルに囲まれ、ヤングエリートが集うクラブは革と葉巻の匂いのするソファーやコカインを吸うための小部屋、住まいは管理人つきで夜景がきれいな高層マンションのペントハウス、窓には天体望遠鏡、クローゼットにはダークスーツが並ぶ。憧れを通り越した夢のエグゼプティブの暮らしは、古さを微塵も感じさせない。
高級レストランで意味不明の料理を食し、パーティーではよく知らない友人たちや群がる女たちと意味のない馬鹿笑い。金持ちの暮らしとはこういうものなのか。空しいと感じさせても、憧れとのバランスはとれない。
同僚を斧で殺し、娼婦をチェーンソーで追いかけまわし、顧問弁護士に殺人を告げても信じてくれない。だから、空しい暮らしは変わらない。

楽しくも面白くもないが、忘れられないいい映画だった。同名の原作本(95年 角川文庫)があり、ソッチのほうがずっと過激で重苦しいらしい。また、読みたい本が増えた。