2016年6月21日火曜日

ロバの耳通信「海街diary」

テレビ放映された「海街diary」(15年邦画)を。雨の月曜日に腰を据えて見る映画は、予告編やら原作本の書評やら事前チェック怠りなく準備。監督や配役もワタシ好みだし、日本アカデミー賞最優秀作品賞を受賞ということで期待も大きかったのだが、出来が悪いというほどではないのだけどね、イマイチ伝わってこないんだよ、というワタシのコメントに、一緒に見ていたカミさんが「一時間半に押し込めているんだから、そこまではムリじゃないかなー」と。それはそうなんだけど、筋立ての設定からもっと、もっと奥深いジワーっとくるものがあるはずなんだ。(是枝裕和)監督だから、涙を無理強いさせたりはしていないこともわかっているんだけども、これだけの原作、監督、配役、音楽を手当てできていながらと残念。

「海街diary」の原作は吉田秋生による少女コミック。作画はうまくないが、横顔のアップやセリフを抑えたコマ割りは絶妙だし、主人公の四姉妹が住むという鎌倉の町や海、江ノ電極楽寺駅の描き方ではホンモノを良く知っているワタシにはこの漫画のコマのほうがずっと記憶に残っている。

音楽を担当したのが、菅野よう子。「花は咲く」の作曲で有名だが、「攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX」(03年邦画)などのアニメ映画やゲーム「信長の野望」シリーズ(86年~)、CMなどなど、日本を代表する作曲家、プロデューサー、ピアニスト、最近は歌手もーで大ファンである。近年はゲームなんかもエピック流行りで、映画やゲームそのものより強い印象を与える楽曲が多いが、「海街diary」
決して前には出てこない音楽は菅野よう子らしくて好感が持てた。

外はまだ雨が降っている。

2016年6月17日金曜日

ロバの耳通信「死後結婚」


韓国人の描写をさせたら、岩井志麻子ほどウマい作家はいないのではないか。「日本人よりも韓国人の男性と付き合った数の方が多い」と公言しつつ年下の韓国人の夫、愛人を持っていると、それだけでもすごい。

ワタシが生まれたところは、駅裏に在日の部落があって、親たちにとっては差別の対象、ワタシにとってはなにか隔絶された島。近づいてもいけないといわれて育ち、それでも小学校のクラスにいた色白の女の子はその部落の出身だとクラス中が知っていたのだけれども、イジメはなかったと思う。幼すぎたワタシが気づいていなかっただけかもしれないが、ワタシはその子をいつも遠くから見て、憧れていたような気がする。学生時代、トナリの女子寮に住んでいた髪の長い優し気な朴さんと、すこし話をして以来、韓国女性とは知らない国のアイドルであった。その後、韓国に何度も行って、韓国女性のみんなが色白で髪が長く、おとなしいひとばかりではないということを再認識したとき、初恋の思い出を汚されたような気がしたものだ。

「死後結婚」(05年 岩井志麻子)は怖い物語である。主人公の京雨子が慕う沙羅は在日の設定。色白の端麗とも妖艶とも異なる説明しがたいが、ワタシにとってステレオタイプの韓国女性。岩井の小説はどれも恐怖と性愛にあふれていて、出てくる女性が、少女から老婆に至るまで、とにかく怖く、心惹かれるのだ。食われるとわかってて、求愛してしまう雄カマキリを笑っている人間も同じか。

2016年6月3日金曜日

ロバの耳通信「雨の日の映画会」

一日中雨の予想が出ていたので、明るいうちは「ソロモンの偽証」(15年邦画)、夕食後に「サンクタム」(Sunctum11年、米)を。

「ソロモンの偽証」は文庫本を手に取ったこともあったが、ちょっとニガテな学園モノだし6冊(約3000ページ)もあるということで尻込み。テレビで前・後編を放送ということで、録画して一気に。


公募で決まったという主人公(藤野涼子)が日本アカデミー賞ほか各賞の新人賞をかっさらい評判も良かったが、ワタシは中学生役のシロウト集団にひとりだけプロ女優がいるような居心地の悪さを感じた。いじめられっこ役の石井杏奈とその母親役の永作博美、気弱な担任の黒木華がステレオタイプのイヤなオンナに描かれ印象に残った。

新し映画のせいか、キャスティングではいま活躍中のタレントが大勢出演していて、そのタレントをワルモノにしないよう、チョイ役で終わらせないよう八方美人色に仕上げたせいで映画全体を落ち着かないものにしている。こういうシリアスな原作・脚本の映画では、軸となる数人の役柄が浮かびあがり、ほかの役は風景に溶け込むという、舞台劇のようなのが合っているのではないだろうか。
この映画の主題歌をU2が提供して話題になったが、ミスマッチと言っていいくらい。誰の責任なのかはわからないが、こんな使い方をされたらU2ファンは怒るよ、きっと。

「サンクタム」はアリスター・グリアソン監督、ジェームズ・キャメロンの製作総指揮。「タイタニック」(97年米)「アバター」(07年米)(共にキャメロンの監督・製作総指揮)と大ヒットのあとに鳴りもの入りでリリースされたが、評判はいまいちだったようだ。監督のチカラの差か。実話をベースとしたというドキュメンタリー仕立ての映像はワタシには楽しめたし、サバイバルでむき出しにされる人々のエゴや厳格な父を嫌う息子との情愛などストーリーもよかった。洞窟ダイビングのシーンなど、ぜひ、大スクリーンでもう一度見たい。