2017年2月5日日曜日

ロバの耳通信「森のなかの海」

「森のなかの海」(宮本輝 04年 光文社文庫)

図書館の文庫本の棚に上下が揃って並んでいたので手に取って表紙を眺め、すっかり気に入ってしまった。
幼い頃に読んだファーブル昆虫記の挿絵を彷彿させる紅葉の樹木とリス、きのこの精緻なイラスト(上巻。下巻は緑の葉を持つ樹木と、フクロウ、野草。カバーデザインは丸尾靖子)に魅せられてしまったのだ。

作品より先に表紙に惹かれて読み始めた本は多いが、予想に違わず本書も長編を一気に読むことができた。震災(阪神淡路地震)から逃れ、夫に裏切られた子連れの女性が震災孤児たちを引き取り、奥飛騨の森で暮らすいう物語。宮本のほかの作品と同じく、悪人よりずっと多くの優しい人々が出てくるから安心して読めた。なにより、夢のような「ありえない世界」にしばし、夢を見た。

ネットでの書評は芳しくなかったが、作品の訴えに対する感性や好みの違いではないか。「泥の河」「蛍川」(77,8年)のように人生の重みを哀しみや暗さで測って、自らのそれと比べ共感の快さに浸るのも悪くはないが、そればかりだと重みに萎える。

宮本のほかの作品と同じく、「読みがい」のある小説だった。主人公の口を借りて宮本が繰り返した震災の際の政治屋(政治家ではない)の対応への半端ない悪口雑言は私の感じていたところと相通じていたように思う。すべての震災が政治屋のせいだとは思わないが、福島や宮城の復興がままならないのは誰のせいなのだろうか。

トランプ米新大統領のゴリ押しが悩ましくも、うらやましい気がする。

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