2022年10月28日金曜日

ロバの耳通信「KIMINI/サイバー・トラップ」「信さん 炭坑町のセレナーデ」

「KIMI/サイバー・トラップ」(22年 米)原題:KIMI

ネットの中の殺人事件に遭遇し、それを届けようとしたばかりに殺し屋に追われることになったひきこもりのネットオタク(ゾーイ・クラヴィッツ)を主人公にしたアクション映画。前半はネットの音声から殺人事件に気づく謎解き、後半ブチ切れたオタクがネイルガンを持ち出して大暴れ(あまりに楽しくてココは二度見)。久しぶりの興奮の新作、見終わってチェックしたら監督がスティーブン・ソダーバーグだって。まあ、面白くないワケがない。
原題のMIKIは映画の中の音声ソフトの名前。siriやアレクサみたいなもの。

「信(しん)さん 炭坑町のセレナーデ」
(10年 邦画)

文部省選定”、実際は”文部科学省特別選定”という長ったらしいタイトル付きだったが、小学校の講堂とかでこの手の映画を見た世代だし、だいたいは涙、涙の映画が多かったから、このタイトルだけでも昔見た映画を思い出し、涙が出そうになった。

九州の炭鉱島、福岡県の設定で言葉の訛りも博多のソレだが、長崎県の池島炭鉱と福岡県の志免(しめ)炭鉱がモデルだという。この炭鉱町に出戻りで洋品店を営むことになった母子(小雪と池松壮亮/少年期ー中村大地)と炭鉱町の人々との交流を描いている。信さん(石田卓也/少年期ー小林廉、この子役が秀逸)は、炭鉱町に住む、まあガキ大将なのだが、飲んだくれの父を持つ優しい少年。子供たちが汚れた格好で三角野球で遊ぶシーンは、懐かしくてキュンときた。

時代設定は昭和38年。その頃は、どこにも原っぱがあり、真っ黒になって夕方まで三角野球をやっている子供たちがいたのだ。長屋あり、朝鮮人差別あり、駄菓子屋あり、ボタ山あり、炭鉱事故ありの映画だったが、いちばん感動したところは、小雪に抱きしめられた信さんが、貧しすぎて誰にも優しくされなかった自分のことを思ってか、泣き出すシーン。息子を炭鉱事故で失った大竹しのぶが、途方に暮れながらも持って行きどころのない怒りを込めて米を研ぐところも。友人のキレイなお母さん役の小雪がメッチャ良かった。

夕方、幼い男の子の泣く声と「だから言ったじゃない、何してんのよ」と子供を叱る若い母親らしい声が聞こえた。叱られた子供は「お母さん、痛いよー」と泣きじゃくっている。ベランダの上から覗いたら、駆け出した子供が転んだらしい。ケガした様子もないが、膝かどこかを打ったらしく母親に甘えるように大きな声でずっと泣いていた。

自分の幼い頃を思い出した。ワタシの幼い頃は、複雑な家庭の事情があり、母親に甘えて泣くなんてことは思いもつかなかった。泣き続ける子供をうらやましくさえ思った。

この映画は動画サイトめぐりをしていて偶然に出会ったのだが、いい映画。うん、ポスターはひどいけどね。

2022年10月20日木曜日

ロバの耳通信「LOU ルー」「フォール/Fall」

 10月も半ばを過ぎた。結構寒くて、天気予報だと曇ときどき雨。こんな日に出かけるのも億劫で、結局、ひとり自宅映画会。カミさんは食事の下ごしらえに余念がない。台所で何かを刻む音が続いている。

2作ともメジャー作品じゃなくネット評価もイマイチの新作だが、ワタシ的には大満足、手に汗握る面白さだった。ふーっ(満足)。

「LOU ルー」(22年 米)原題:Lou

田舎でひっそり暮らす偏屈おばさんが実はCIAのお尋ねもの。店子のシングルマザーの幼い娘が誘拐され、一緒に誘拐犯を追う。スジは簡単に説明できないくらい込み入っているのだが、偏屈おばさんがメッチャ強くて、サバイバルとアクションが楽しめた。ガムのアルミ箔と電池で火を起こしたり、包帯代用のガムテープなどガールスカウト仕込みだというサバイバル技術、いつか使ってみたい。ま、そんな機会はないだろうけれど。

「フォール/Fall」(22年 米・英)

クライマーの二人の若い女。砂漠の真ん中にある600m超の電波塔に登ることで自分探しをしようとする親友同志。問題はその電波塔が老朽化して近日中に取り壊しの予定で、もうボロボロ。

ヒイヒイいいながらやっとてっぺんまで登れたものの、こんどはハゲワシに襲われるは、ハシゴが外れて、降りれなくなってしまうはのトラブル続き。食べ物もなく、これもサバイバルか。なによりゾッとする高さ。カメラワークがうまく、本当に怖い。ずっと、手に汗。 


2022年10月10日月曜日

ロバの耳通信「むらさきのスカートの女」「ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ」

「むらさきのスカートの女」(19年 今村夏子 朝日新聞出版)

雑誌の書評か何かで、面白いと。直木賞受賞作とも。コロナ騒ぎの中、長い図書館の予約待ちのあと、ガラガラの図書館に何カ月ぶりに出かけ手に入れた。なのに、だ。この腹立たしさを誰にぶつけよう
か。
こういうのが今のハヤリなのか。作品の好き好きは個人の趣味だから、単に自分の趣味の悪さや感性の低さを呪うしかないのだが、これはあまりに酷かった。直木賞だって、これが。


「ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ」(12年 辻村深月 講談社文庫)

辻村深月。初めて読んだ本、たぶん。母親を刺して行方不明となったおさな友達の跡を追う雑誌記者の物語。地方都市の人々の交流の濃さ、適齢期の女友達たちの微妙な距離や出産時期の不安定な心身についてなど、女性の視点でなければ到底書きえないところが、新鮮かつ気味悪く感じた。島本理生が解説で書いた”女同士の友情は、とうてい友情とは呼べない”ことを納得。ミステリー小説の体裁をとりながらも、犯人も事情も分かっているから、読者は迷うことなく葛藤や不安に思い切り浸れる。

テレビドラマ化の話もあったようだが、裁判沙汰まで縺れこんでボツになっているから、映画化も無理だと思うし、配役も悩むところだがこれだけの作品、ぜひ映像化してほしい。