2023年4月30日日曜日

ロバの耳通信「田村はまだか」「ジャパン・プレミアム」

初めての作家がふたり。朝倉かすみと江波戸哲夫。うーん、消化不足。

「田村はまだか」(10年 朝倉かすみ 光文社文庫)


初めての作家。吉川英治文学新人賞受賞、読書メーターの票も良くて期待が多かったのだけれども、うーん。小学校のクラス会の流れで深夜のバーに残った5人の男女が、クラス会に間に合わなかった田村を待つという物語。5人のこれまでの暮らしを反芻し、連作にまとめている。田村がいつ来ると結末まで気を持たせながらの、物語の組み立て方はいい。が、たった5人の話ながらキャラの描き方が足りないからゴチャゴチャになってしまった。いや、読書メータもハイスコアだから、私の読み込み不足なのだろう。途中で、歴史モノの巻頭解説によくある人物相関図を書けばよかったと反省。たかだか5人、加えて関係してくる人物たちを足しても両手の指で足りるはずの名前とあだ名が覚えられないなんて。ただ、人物相関図がキチンと書けて5人について混乱なく認識しても、面白いと感じたかどうかはよくわからない。
オマケに解説では”傑作短編”とあった「おまえ、井上鏡子だろう」もゼンゼンつまらなかった。連作とオマケの短編、それぞれよくできたスジで違和感もなかったのだが、私が本を読む目的は「共感」。なぜそれを得られなかったかは、読み終わって時間がたった今でもわからない。

「ジャパン・プレミアム」(11年 江波戸哲夫 講談社文庫)

メガバンクの管理職がリーマンショックの際に評価損を心配する顧客と丁々発止のやりとりをする様や上司との責任のなすり合いを描いている。気にいらないのがハッピーエンドで終わっていること。カタストロフィーのあとのハッピーエンドでは学ぶものがないから。
同じ銀行モノだととんでもない悪い奴らが出てきてハラハラさせる池井戸潤「半沢直樹」シリーズ(「オレたちバブル入行組」(07年 文春文庫)~)が面白かったが、この「ジャパン・プライド」にはそんな奴は出てこない。せいぜいいバブルがはじけて簿価が減ってしまった小金持ちが、契約者の父親をアルツハイマーに仕立てて、父親と銀行の間の約定を無効にしようとしたくらい。へー、銀行のエライ人の仕事ってこんなに大変なのかと思ったが、よくよく考えてみると責任の大きさは違うのだろうがメーカーの下っ端で終わった私もやっぱりプレッシャーでつぶされそうだったなと。
初めての江波戸哲夫。まあ、ちょっとだけども、面白かったから別の本も読んで見ようかと。


2023年4月20日木曜日

ロバの耳通信「ZIPPER/ジッパー エリートが堕ちた罠」「ロンドン・ブルバード」

「ZIPPER/ジッパー エリートが堕ちた罠」(15年 米)

エスコート・サービス(高級デリヘル)におぼれてしまったエリート検事が上院議員まで上り詰めるという物語。メッチャ忙しい検事がたまの癒しにしていたのがエッチなネット動画、高じてネットでエスコート・サービスに。使い捨て電話を買い、偽名でエスコート・サービスに電話するところなんか、自分のことのようにドキドキ。結局奥さんの知るところとなり夫婦の破局でオシマイ・・かと思っていたらとんでもないことが。
エスコート・サービスを使っていることを新聞記者に嗅ぎつけられたことを知った奥さんが新聞記者をカラダで口止め。奥さんの狙いはファースト・レディー(米大統領夫人)。若くして上院議員に上り詰め、もしかしたら大統領になるかもしてない夫をこんなスキャンダルで失墜させるわけにはいかなかったのだ。夫婦間の仲は戻らなかったがスキャンダルの火は消え、上院議員がまたまた、エスコート・サービスの待つホテルの部屋をノックするところで映画は終わっている。原題のZIPPERは文字通り、ズボンのチャック。懲りない男の下半身、そういう意味。
懲りない上院議員役パトリック・ウィルソンは翌年の「バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生」(米)では大統領役。なんだかおもしろい。情報によればエスコート・サービスの料金は一晩1000~2500ドル(15-30万円)と高く、政財界の大物しか相手にされないらしい。まぁ、どうでもいいことなのだが、映画の中で身元の分かるクレジットカードが使えないため現金が足りなくなって、ATMをはしごして現金をかき集める上院議員を思い出したから。

「ロンドン・ブルバード」(11年 英)

コリン・ファレルがいい。クライムノワールにもかかわらず、セリフがちょっと小洒落て英国風、まああたりまえか。ワルが刑務所を出て改心しようとするが昔の仲間に頼りにされ、ワルの親玉にも見込まれ、愛する人のために悪に戻り大暴れ。ほとんど任侠映画の世界。高倉健やアラン・ラッドは寂しい後ろ姿を見せ去ってゆくのだが、「ロンドン・ブルバード」では主人公はごろつきのアンチャンに刺されてあっけなく死ぬ。豪華な配役とテンポも良くてつい最後まで見てしまった。映画評は散々だが、私は気に入った。
ロンドンを舞台にしていて、人通りのない路地やガード下が描かれているが、私が仕事で何度か訪れたことのあるホンモノのロンドンも、中心を離れると結構寂れて危険な感じのところも多かったことを思い出した。ホテル代をケチって小さなB&Bに泊まることもあり、実際に危険なことに出会ったことはないが、地下鉄の駅を降り暗い通りの角を曲がったらそこも薄暗くホテルに帰るまでの石畳の道は誰も通っていなかったりして、不安な気持ちになったことも。

2023年4月10日月曜日

ロバの耳通信「ポストマン」「スプライス」

「ポストマン」(97年 米)

壮大なストーリーと音楽。昔のハリウッド映画って、こうだったと懐かしい気持ちで楽しんだ。近未来、悪の集団を逃げ出した旅役者(ケビン・コスナー、監督も)が郵便配達車で手に入れた郵便配達人(ポストマン)の制服を着て街を廻るうちにすっかりその仕事に目覚めてしまう。無償で手紙を届けるポストマンはどこの街でも尊敬され、次のポストマンを生んで行き、悪との対決で勝利する。アメリカ合衆国は私たちの誇り感満載のいたってお気楽なストーリーなのだが、アメリカの自然あふれる風景と素晴らしい映画音楽(ジェームズ・ニュートン・ハワード)で3時間を長く感じさせない。
ポストマンの妻となる英女優、50歳の今はきつめの表情があまり好きではないが、この映画の撮影当時30歳頃のジェームズ・ニュートン・ハワードがなんとも美しい。うん、女は変わる。

「スプライス」(09年 カナダ・フランス)

原題のSPLICEは、(遺伝子)組み換えの意味。「CUBE」(97年 カナダ)のヴィンチェンゾ・ナタリ監督の手によるヒトと複数の生物のDNAで「人間モドキ」を作ってしまうという、超コワSF。まあ、ハエ男「ザ・フライ」(58年、86年、89年 米)みたいなストーリーだから、もはやありふれた題材ともいえる。妙にソソられる表情の人間モドキ♀(デルフィーヌ・シャネアック)にオタク科学者(エイドリアン・ブロディ、実に気味悪い役だが彼の役はだいたいこうだ)が誘惑されるところはゾッとするがあこがれもする。。
近年はやりのアンドロイド受付嬢はセックスドール(ダッチワイフ)の延長だと思う。これらは男の永遠の夢で、「スプライス」で作り出した人間モドキ♀も気まぐれでワガママだった。うーん、ワタシがあこがれるのはそう美しくなくてもいいから、いつも優しいイイナリの人間モドキ♀(はい、この表現がとんでもない女性蔑視だと充分に理解しております)。