2023年5月30日火曜日

ロバの耳通信「友罪」「仇討」「自虐の詩」

「友罪」(18年 邦画)

神戸連続児童殺傷事件<酒鬼薔薇聖斗事件>の犯人少年Aのその後を取り上げた同名の原作(14年 薬丸岳 集英社)の映画化だという。97年当時新聞等で大変な話題になったし、その後「絶歌」(15年 元少年A 太田出版)というキワモノ本も読んでいたから自分なりの感想も持っていたのだけれども、この「友罪」に何か物足りなさを感じた。
映画はエンターテインメントとしてだけでなく作り手の想いが入るのは当然だと思うし、原作も読んでいないのでこういう言い方は卑怯なのかもしれないが、この映画で作り手は何を伝えたかったのだろうか。元少年Aと元出版社職員の友情(?)がメイン、事故で子供を殺してしまった青年の父親の遺族への贖罪の物語と元AV嬢が懸命に生きようとする姿、少年Aの更生施設の教師の家庭崩壊、元出版社職員の子供の頃のイジメ事件など多くのサブストーリーがこの映画の焦点をボケさせている。配役は元少年Aの瑛太や元AV嬢夏帆、贖罪に苦しむ父に佐藤浩市、教師に富田靖子など錚々たるメンバーを揃えながらも、監督・脚本の瀬々敬久(ぜぜ たかひさ)のせいなのか、彼らの演技うまさが映画全体をただ暗く引きずってしまった。
この映画、私はキライだ。元少年Aへの嫌悪でもなく、怖さでもない。つまらなかったのだ。2時間以上もかけて私に何も残してくれなかったから。

「仇討」(64年 邦画)

今井正監督、中村錦之助主演。モノクロ画面だというだけで、古さを全く感じさせない。配役のかなりの方が鬼籍にいるにもかかわらず、映画の中ではイキイキしている。
脚本(橋本忍)も撮影(中尾駿一郎)も音楽(黛敏郎)も最高の出来で、邦画の黄金時代の作品だと感じる。スジは些細なことで紛糾した武士たちの諍いの結末として、仇討という公開処刑場に引き出された主人公(中村)は結局惨殺される。家や身分などの理不尽さも伝わってくるが、何より持って行き場のない下級武士の怒りが画面いっぱいに映し出され、見終わった時の疲労や無常観は半端ない。たまたま動画サイトで見つけた映画だったが、こんな映画を見て育った昔のヒトは恵まれていたなと、うんワタシもそうなのだ。

「自虐の詩」(07年 邦画)

4コマ漫画(85年~業田良家 週刊宝石、ほか)の方は良く知っていて、映画化の記事が
映画雑誌に出た時は、ムリじゃないかと。なんだか、世界が違う感。4コマ漫画にストーリーはない。週刊誌のオマケから単行本までなったが、積み重ねただけでストーリーはない。映画でいえば超短編のオムニバス。一瞬の面白さは4コマに敵うものはない。
映画「自虐の詩」は、薄幸の主人公幸江を中谷美紀、”ちゃぶ台返し”でしか気持ちの表現ができない内縁の夫を阿部寛、そのほか雑多な配役に遠藤憲一、カルーセル麻紀、西田敏行ほかオールキャスト、俳優組合救済映画の感。誰も役に合ってない。漫画が原作だからしょうがないか。漫画の方がずっと面白かった。同じ不幸な女の役を演じた中谷美紀の「嫌われ松子の一生」(06年)なんて、すごく良かったのに。阿部寛もゼンゼン役に合ってない。主役のふたりが役に合ってない映画が面白いワケないよね、やっぱり。

2023年5月20日土曜日

ロバの耳通信「ウェストワールド」「アポカリプト」

「ウェストワールド」(16年~ 米テレビドラマ HBO)

原作はマイケル・クライトン初監督の映画「ウェストワールド」(73年 米)のリメイク。ロボットの反乱というストーリーの衝撃やユル・ブリナーの不気味さは半世紀近く経った今も忘れていない。
HBOテレビ版「ウェストワールド」シリーズ1を動画サイトで。アメリカってすごいと思う。一流の制作陣、俳優たち、良くできたセット、オープニングの映像、一見でお金がかかっているとわかる。テレビドラマでこんなことできるのか。ドラマの中でアンソニー・ホーキンスが語る人生観に同意したり反発したり、結構深いところもある。R15の制約がついているにしても、たかがテレビドラマとの先入観で見始めたが、精神的な質の高さに驚く。農場主の娘役(アンドロイド)を演じているエヴァン・レイチェル・ウッドの美しさは惚れてしまいそうだ。エヴァンの映画はいくつか見たが化粧や衣装で全く変わってしまっていて、改めて女はバケモノの感を強くしつつも、こういう美しいアンドロイドがいたら人間なんてイチコロだろうな。シリーズ1の10話を追われるように一気に見て、シリーズ2(18年~)の次の展開に、見る前からドキドキしている。中毒だな、これは。

「アポカリプト」(06年 米)

メル・ギブソン監督が思い入れ一杯で作った映画だが、売れなかったというwiki情報があり、とはいえあの「ハクソー・リッジ」(16年 米)で監督やったメル・ギブソンの映画ということで見てみた。スペイン人に追われたマヤ人の物語という事前の情報しかなかく、メル・ギブソンらしくスペイン人の横暴とかが描かれているのかと思ったらほとんどそういう思想的な匂いもなくて、これがただただとんでもない面白さ。
マヤに住むインディオが森に住む少数派のインディオをひたすら追いかけまわすというジェットコースター追跡劇。舞台はジャングルに滝に底なし沼。メル・ギブソンは映画に何かの思いを込めたのかもしれないが、そんなことはどうでもいいと思うくらいのスピード感が楽しかった。現代人から見たら、残酷なシーンもあってR指定だけれど、その時代だと当たり前だったのかも。著名な俳優も気の利いたセリフもないが、映画はこうじゃなくっちゃ。

2023年5月10日水曜日

ロバの耳通信「J・エドガー」「デイアフター2020 首都大凍結」

「J・エドガー」(11年 米)原題:J. Edgar
 
FBI長官だったジョン・エドガー・フーヴァーの伝記映画。29歳の若さで長官に就任し77歳で死ぬまで8人の大統領に仕えたJ.エドガーを演じたのがレオナルド・ディカプリオ。眉間の縦皺がより強調されたメーキャップに無理はあるが、人物としては良く描かれていたと思う。主題は権力をわが物にしようと、エドガーが活用した「フーヴァー・ファイル Files of J. Edgar Hoover」は歴代の大統領や政治家のスキャンダル情報を集めた秘密ファイル。終生にわたり結婚しなかった理由がマザコンとホモセクシュアル。
亡くなった人とはいえ、米国の中枢にいた政治家をこうあからさまに描いた作品はないのではないか。どこまでが事実なのかは別にしても、アメリカの近代史を学ぶに良い映画であることは確かだろう。

クリント・イーストウッド監督の作品は「ミリオンダラー・ベイビー」(04年)、「インビクタス/負けざる者たち」(09年)、「アメリカン・スナイパー」(14年)など、ワタシの心に残るものが多い。最新作「リチャード・ジュエル」(19年)の日本公開が待ち遠しい。

「デイアフター2020 首都大凍結」(10年 英・ニュージーランド)原題 Ice

3時間半の長編パニック映画。2020年に、石油資源が枯渇し、最後の希望となったのは北極海の氷の下にあると思われた石油層。氷の下を掘れば温水のために北極の氷が溶け出し、北洋の海流が止まり北半球は氷河に覆われるゾという気象学者の警告を聞かず、北極基地のリグで掘削をすすめたために警告通り北半球は氷漬けに。題名の凍ってしまう”首都”はロンドン。北極や雪のロンドンなど白一色の画面が多い割に、カメラワークが良くて退屈せずに見れた。別れ別れになった家族が最後は無事合流するというハッピーエンドに終わり、”地球の資源を大事に使おう”というエンドロールが出てなんだこの映画はと。こういう警告モノは、やっぱ、悲劇的な終わり方で人々に警告するのがスジじゃないか。

似たような題名の映画は多い。「デイ・アフター 首都水没」(07年 英)では、暴風雨による高波がロンドンを襲う。「ザ・デイ・アフター」(83年 米)は第三次世界大戦の核兵器による放射線が怖い。「デイ・アフター・トゥモロー」(04年 米)で地球温暖化のために氷漬けにされるのはニューヨーク。「デイ・アフター・トゥモロー17」「デイ・アフター・トゥモロー18」と続編まで出てこのシリーズさすがに食傷。ディザスター映画の中では「デイアフター2020 首都大凍結」は面白かった方かな。

「デイアフター2020 首都大凍結」は大好きな英女優クレア・フォーラニの逆引きで、見つけた映画。気象学者の妻を演じ、娘や義父とともに雪に閉ざされたロンドンを彷徨する役。キレイだけど、ゼンゼン役に合ってなかった。「ジョー・ブラックをよろしく」(98年 米)で、死神役のブラピ(ブラッド・ピット)が恋する女性役を演じたクレアは当時27歳、息をのむような美しさだった。「CSI:ニューヨーク」(06年~10年 米テレビドラマ)の美しさツンツンのニューヨーク市検視局検視官の役もメッチャ合っていて良かったけど。