2023年9月30日土曜日

ロバの耳通信「絶望ノート」

「絶望ノート」(12年 歌野晶午 幻冬舎文庫)

中2の少年がいじめられる絶望の毎日を綴ったのがこの「絶望ノート」。いじめられる毎日の救いを「石」に求め、いじめっ子の死をその石に願い、その呪いが叶うというスティーブン・キング張りのミステリー。にいくら願いや呪いをかけても、それはないだろうとも思う。死んだ猫が生き返ったり(「ペット・セメタリー」(キング))とかのありえないハナシも、キングだったら許せるのだが、さすがに普通の作家が石に願いをかけて呪い殺した・・なんてのは、やっぱりルール違反で、特にこういう犯人捜しのミステリーではありえない。
で、いじめっ子が怪我をしたり死んだり、あげくのはてが担任や父親まで死んでしまうと、おいおい犯人は誰だと、結構楽しめた。これから読む人もいるから、コレも書いてはいけないんだろうな。あ、あとがきの解説を先に読むと、レトリックもバラしてあるからひどい目にあうよ。

文庫版637ページはさすがに疲れる。最後の数十ページに謎解きがされるが、それまでと違い性急で辻褄合わせのようなところもあるから、コレも疲れる。
ほとんどが、いじめられた少年の日記だから、まじめに読むと結構辛いものがある。覚悟!

2023年9月20日水曜日

ロバの耳通信「THE 4TH KIND フォース・カインド」

 「THE 4TH KIND フォース・カインド」(09年 米)原題: The Fourth Kind

原題は”第四種接近遭遇”つまり宇宙人による誘拐の意味。アラスカ州ノームで起きたこと、なんとか大学のなんとか博士とか場所や人物が具体的に示され、実録フィルムを挿入したドキュメンタリー風のまとめ方はよくできていたし、主演のミラ・ジョボビッチの熱演で、かなり信じてしまった。ミラは「バイオハザード」シリーズ(02年~ 米)のイメージが強く、本当はこんなに演技がうまかったのかと脱帽。

見終わって、wikiでチェックしたら、この作品、米配給会社(ユニバーサル・ピクチャーズ)による作りモノだったらしい。なーんだ、そうだったのか”やっぱり”と。宇宙人とかね、いるわけないもんね。


いま話題になっていて、途中で挫折した「三体」(08年 中国のSF作家劉慈欣の長編SF小説。邦訳19年 早川書房)の映画化にあたり、ミラ・ジョボビッチがノミネートされているらしい。

「三体」はハナシが突飛すぎて頭がついてゆけず、登場人物の名前も覚えられなくてゼンゼンついて行けなかったけど、ハリウッド流にわかりやすく映画化してくれて、ミラの主演なら見たいかな。

 

2023年9月10日日曜日

ロバの耳通信「にぎやかな天地」

「にぎやかな天地」(12年 宮本輝 講談社文庫)

装丁の仕事をしている青年が日本の伝統的な発酵食品の豪華本を手掛けることになり、各地の職人を訪ねるうちに微生物にハマるという物語。宮本の得意とする「うん蓄」がここでも語られる。うん蓄そのものはにわか仕込みのところも感じられやや鼻につくが、多くの登場人物が魅力的に語られ飽きない。特に家族や友人たちとの会話はイキイキしていて愛情深い。宮本の病歴などを知っているから彼が困難な人生を経てきたことはわかるが、宮本が慈愛あふれた両親に育てられ、雑多で豊かな友情に囲まれて育ってきたことに疑いはない。<自伝小説「流転の海」(82年~)>

宮本の小説にハマることがいくつかあり、そのひとつが登場人物に語らせるセリフの奥行きの深さだ。「にぎやかな天地」では「勇気」について教えられた。”どんなに弱い人間のなかからでも勇気はでてくる。 その人のなかに眠っていたいたおもいもよらない凄い知恵と思いやる心が自然についてくる。困難に立ち向かうための勇気を出すには、自らを叱咤し、ひるむ心と闘って、自分の意志で、えいや!と満身に力を込める以外に、いかなる方法もない”(上巻p256)。普段から根性なしの暮らしをしていて、困難にあたるといつもメゲてしまい死んだふりをするか、いつも尻尾を巻いて逃げ出してしまう自分に、宮本の言葉を言い聞かせてはいるのだが。