2025年2月28日金曜日

ロバの耳通信「とせい」「食堂かたつむり」「麻雀放蕩記」

こうやって、読んだ本を並べてみると、かなり乱読か。図書館から借りる本はカミさんとシェアしているから、まあこうなる。ワタシだけだと、ミステリーばっかりになる。

「とせい」(09年 今野敏 07年 中公文庫)

中公文庫は字が小さいし、細いから読みにくいのだよとカミさんにこぼしていたら、今野敏は面白いからそれくらいのことは我慢せよとのご神託。

ヤクザが出版社の経営を引き受け、精密加工屋のコンサルを請け負うというとんでもない物語。経営再建の勘所など押えるところはキチンと押えていて、主人公がヤクザの代貸という非現実感はあるものの、ワタシは会社員やコンサルを生業にしていた時期もあるからうんうんとうなづきながら楽しく読めた。
今野の作品の魅力は痛快さか。主人公が刑事だったり、一匹狼だったりヤクザだったりではあるが、勧善懲悪の結末と痛快さで面白さを外すことはない。

「食堂かたつむり」(17年 小川糸 ポプラ文庫)

 なにかのことで小川糸の作品が何度かカミさんとワタシの話題に。

「犬とペンギンと私」(17年 幻冬舎文庫)を読んで、うーん。面白くなくもないが、心を打たんなーということで、もう一冊、これがどーしても名前を思い出せないーを読んで、それでは代表作はと借り出したのがこの「食堂かたつむり」。カミさんもワタシも食いしん坊だし、料理も楽しむ方なのだが、いまいちねーということで変な意見の合致。凝った料理が紹介されるのだが、カタカナの料理名に材料、手順をサラッと紹介され、「おいしそう」が伝わってこない。映画化もされたと。小川糸はもういいかな。

「麻雀放蕩記」(16年 黒木博之 ポプラ文庫)

ワタシは阿佐田哲也の「麻雀放浪記」(69年~ 週刊大衆 双葉社)、同名漫画(93年~ 近代麻雀ゴールド 竹書房)、同名映画(84年 真田広之主演)で育ってきたから、ちょっとね。黒木も一応直木賞作家だからと期待もしていたし、裏表紙の釣りには”ギャンブル小説の金字塔”とあったけれど。金字塔って、なんだかね。

「失格社員」(07年 江上剛 新潮文庫)

10編の短編集。寝る前の気楽な読み物のつもりでいたら、結構シニカル。モーゼの10戒になぞらえたサラリーマンの物語は、ずっとサラリーマンとして暮らしてきたワタシにも身につまされる話が多かった。著者は元銀行員らしく、特に銀行員を主人公にした物語は結構な迫力。ワタシも一時憧れた銀行員は高給エリートのイメージだったが、偏見だったようだ。

2025年2月20日木曜日

ロバの耳通信「変死体」

「変死体」(11年 パトリシア・コーンウェル 池田真紀子訳 講談社文庫)

「検屍官」シリーズ(92年~ パトリシア・コーンウェル 講談社文庫 以下同じ)で最初に読んだのは多分「死体農場」(シリーズ5作目 94年)。面白さにすっかりはまってしまい、出先で本屋を見つければコーンウェルの本を求め、それ以来熱病のように講談社文庫の青い背表紙(海外ミステリー)を追いかけていたのが20年前。仕事に追われる日が続き、入院。会社もいくつか変わっていまの暮らしに落ち着き、いつの間にか遠ざかっていた図書館の青い背表紙の群れなかにこの「変死体」(11年)を見つけた。表紙も読んだ記憶もない。早速借り出して、裏表紙の解説を読んだら、”緊迫のシリーズ第18弾”と。18作もでているのかの驚きとともに著者紹介のコーンウェルの写真を見たら、すっかり容貌が<悪い方に>変わっていて、浦島太郎の感。ちなみに、wikiのコーンウェルの写真は格好良くて、「検屍官」シリーズの主人公のケイ(主人公の検屍官の名前 ケイ・スカーペッタ)とダブらせていたのに。


「変死体」を読み始めてすぐに気づいた。昔のケイじゃない。馴染みのFBI捜査官のベントンと結婚していたのはいいとしても、強迫観念にあらぬことばかりを口走るただのヒステリーの中年女じゃないか。ガスの出る怪しげなナイフとか、マイクロドローンとか、軍用ロボットとか聞きかじりの<あたらしモノ>を消化せずに盛り過ぎ。トリック満載で読者を迷わせるには成功したが、種明かしの説明のつかなかったことを、死んだヤツにおっかぶせて口拭うなんて、昔はなかったぜ。コーンウェルおばさん、儲けすぎて狂ったか、ゴーストライターに丸投げしたか。

読んでいて気付いた違和感はストーリーだけでなく、文章もなんだか。で、もう一つ気付いた。訳者が違うよ。で、本格的にネットで調べたら、シリーズは24作目「烙印」(18年)まであって、ワタシのなじみの訳者(相原真理子)はすでに亡くなっていて16作目「スカーペッタ」(09年)からは新しい訳者(池田真紀子)に代わっていると。コーンウェル・相原真理子コンビでは「検屍官」シーリーズ以外でも、警察官アンディ・ブラジル シリーズの「スズメバチの巣」(98年~)、捜査官ガラーノ シリーズ「捜査官ガラーノ」(07年~)など、みんな手に汗握る面白さだったのに。そうかそうか。

15作目「異邦人」(07年)までは、相原真理子訳だというから、まずはそこまで未読作を遡って、読んで見よう。16作目以降のコーンウェルの「棚卸」はそれから。


2025年2月10日月曜日

ロバの耳通信「ミッドナイトイーグル」「ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男」

「ミッドナイトイーグル」(07年 邦画)

高嶋哲夫「ミッドナイト・イーグル」(03年 文春文庫)を読もうと検索していたら、同名の映画を動画サイトで発見。主演に大沢たかお、ワキに大好き竹内結子の懐かしい名前を見つけ、映画を先に見ることに。
元戦場カメラマン(大沢たかお)が後輩の新聞記者(玉木宏)と長野の山中で行方不明となった米軍機が核搭載のステルス戦闘機であったことを知り冬山を捜索に。途中で一緒になった自衛官と、搭載された核爆弾を爆発しようとする北朝鮮兵士と闘う。
高嶋の小説では、日本の政治家は”優秀に”描かれることが多いが、この映画では冷静沈着に見えながらも、重大な決断を任されたことに悩む内閣総理大臣を演じた藤竜也、内閣危機管理監役の袴田吉彦、内閣官房副長官役の橋爪淳がなかなかリッパで良かった。
大沢たかおは、今年「キングダム」(19年 邦画)で久しぶりに会ったが、全然歳とってないなの感。

「ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男」(17年 米英)原題 Darkest Hour

欧州戦線で周囲が皆ドイツにヤラれる中、徹底抗戦を叫び続けたチャーチル英首相の役をゲイリー・オールドマンが演じていて、チャーチルを魅力的なジジイに。すごいぞ、ゲイリー・オールドマン。頑固で癇癪もちなのは地かもしれないな、あまりにもピッタリ。

英国の議会や内閣府の様子など、興味深いところもたくさん見れたし、ダンケルクの戦いなど当時の歴史もおさらいができた。一か所だけ気になったところが、最初はチャーチルを冷遇した英国王ジョージ6世が、英国陸軍の大苦戦に接し、日和見から一転しチャーチル支持に転じるところ、まあ格好良く描かれているがやむを得ないところか。

原作や脚本がいいのか、衒わずチャーチルにスポットを当てていねいにその人となりと不安な時代を描いた秀作。