いままで何作か読んで、面白かった著者だったし、叙情派を自称するワタシだから裏表紙の”最高の恋愛小説”の釣りに見事に引っかかってしまった。いや、面白くないとは言わないがこの違和感は何だ。読み始めたら、石田の作品であることを忘れるほどの「女性視点」なのである。男性作家が女性を主人公に書く、あるいはその逆の例もたくさんあるのだが、この作品、どうしても女性が書いたとしか思えない。40代の銅版画家が17歳年下の映像作家に惚れて、お互いの相手とひと悶着というのが大まかなスジなのだが、主人公も含め、やたらセックスや変質的なほどの女たちが出てきて、生臭い。エンディングはいい思い出を残すという中途半端な男らしさ。うーん、そこは残念。どうせなら最後まで女でドロドロのまま引っ張っていってほしかった。
何度かテレビドラマ化されているらしいが、奥様好みの昼メロ素材なのか。口直ししたいから明日は、図書館に行こう。
「桜の下で待っている」(18年 彩瀬まる 実業之日本社)

ひさかたの改札口を振り向いて紺色の群れに君探す
いまになって思い出せばあんなに酸っぱくて、甘いことは先にも、後にもなかった。そんな思い出を持っていることだけでも幸せなのだろう。

「ザ・ブラックカンパニー」(17年 江上剛 光文社文庫)
ブラック企業のハンバーガー屋に勤める青年が友人たちと力を合わせ、カリスマ社長やオーナーの投資ファンドと闘う。まあ、面白い。が、面白いだけのエンターテインメント小説のハッピーエンドに食傷気味かな。新人俳優を主役にしテレビドラマ化されたらしい。