2024年11月20日水曜日

ロバの耳通信「埋み火」「サイレント・ブレス 看取りのカルテ」

「埋(うず)み火」(10年 日明恩 双葉文庫)副題 Fire's Out

著者名の”たちもりめぐみ”がどうしてもおぼえられない。手がかりの文字がない。「それでも、警官は微笑う」(06年 講談社文庫)で挫折して、もうこの著者の本を読むことはないと思っていた、カミさんが借りてきた「埋み火」。ああ、読めない名前のこの作家かと。気まぐれに読み始めたら、消防士の話。生活圏にいくつか消防署があり、大型の消防車や訓練風景になじみもあり、消防士の仕事に興味を持っていたからというのが読み始めた理由。600ページ近い長編だし、たぶんまた途中で挫折するだろうが、まあいいやと。

漏電などの失火事故による老人の死が相次ぎ、調べていったら単なる事故ではないようだという出だしから始めたが、半分まできてもサッパリ。小出しのヒントにも飽きて、もう訳わからん、と匙を投げそうになったところで、陰の犯人らしいのが登場。そこから先は急転直下のジェットコースター。涙を堪えての人情噺もあったりで、すっかり見直ししてしまったこの”名前をおぼえられない作家”

「埋み火」には前作に同じ副題の同じ消防士を主人公にした「鎮火報」というのがあると解説にあった。消防車が帰りに鳴らす鎮火報について調べた記憶があるから、もしかしたら読んでいるかもしれない。「埋み火」の後半があんまりおもしろかったから、図書館に寄って「鎮火報」もチェックしてみようかと。

面白い本は最初から面白い、つまらない本はずっとつまらないという意識があったが、この「埋み火」で、それが偏見であったことに気付いた。カミさんに聞いたら、とっつきにくかったら、ガマンして読み続けるより、巻末の解説を先にチェックしたり、ページを飛ばして、パラパラと面白そうなところを拾い読みしてみるという手があるぞ、と。うん、なるほど。匙を投げるのはそれからでもいいか。

「サイレント・ブレス 看取りのカルテ」 (18年 南杏子 幻冬舎文庫)

終末期医療専門の現役の内科医が書いた小説のデビュー作だと。副題通りの看取りの重い話を気負わず語っているのがいい。良い医者は患者の希望を叶える医者。家族の希望でも、医者の都合でもないということを素直に認識させてくれた。
こういう本を素直に読める年齢になっている。ほんの数年前まで、ずっと持ち続けている持病やら、ガンやら脳梗塞やら、痛いのは嫌だな、苦しいのは嫌だなと怖さの虜になっていた時期があった。検診の数字にもビクビクして、再検査を受け、またドキドキ、なんて時期もあったが、いつかみんな死ぬのがアタリマエということに気付き、また最近は”何で死んでもオナジ”と割り切り、なんだかすっきりした。

2024年11月10日日曜日

ロバの耳通信「フィフス・ウェイブ」「ザ・インベーダー」

「フィフス・ウェイブ」(16年 米)原題: The 5th Wave

面白かったのは最初の15分くらい。30分くらいで、なんだか普通の映画とちょっと違うなと。動画を途中で止めて、wikiでチェック。ヤングアダルト小説が原作だと。ああ、そうか、だから童顔クロエ・グレース・モレッツの少女役が主演なんだと。つまりは少年少女対象の映画、アリテイに言えば子供騙し。「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズ(01年~ 米ほか)、「ダイバージェント」シリーズ(14年~ 米)とか、「ハンガーゲーム」シリーズ(12年~ 英)とか、ヤングアダルト映画もおもしろいものもあるんだけれど、この映画、シリーズ化が前提になっていて最初から手を抜いているから、途中はどうしてもダレる。

「フィフス・ウェイブ」は地球を侵略にきた宇宙人”アザーズ”との闘いを描いている。”アザーズ”は人間との見分けがつかず、アメリカ軍に化け、住民を淘汰しようとする。それを阻止しようとする少年少女の大活躍とか、主人公の少女に想いを寄せ、仲間を裏切り破壊工作を手伝う”アザーズ”とか、ヤングアダルト小説らしさは、オトナの観客には飽きられるんじゃないかな。シリーズ化狙いの続編の匂いプンプンの続編乞うご期待の終わり方もちょっとね。

「ザ・インベーダー」(11年 ベルギー)原題: The Invader

密入国して欧州の大都市に住み着いたアフリカ人が雇い主の密入国世話人と諍いになり浮浪者に。街で偶然見かけたセレブ女に一目惚れ。ストーキングしてついにはモノにするというゼッタイなさそうな物語なのだが、なぜか惹かれたのは万が一のチャンスを夢見る男のサガか。結局、セレブ女に振られ自暴自棄になって元の雇い主(密入国の世話人)を襲うーといういたってつまらない話。
主役の浮浪者役の西アフリカブルキナファソ俳優イサカ・サワドゴは欧米では結構有名らしい。初めてのベルギー映画の救いはセレブ女役のイタリア女優ステファニア・ロッカがメッチャ色っぽかったくらいか。

2024年10月28日月曜日

ロバの耳通信「ガーディアン」「カイト KITE」

「ガーディアン」(12年 独)原題:Schutzengel

題名は守護天使の意味。武器商人の殺人現場を目撃したために追われる少女を守るはみだし刑事。このパターンは多いけれど、この映画の見どころは何といっても銃撃戦のスゴさ。ヘッドフォンで大きめの音で聞くと、臨場感が楽しめる。特に、小銃の装填音、発射音やどこかに当たったときの衝撃音などが楽しめるのだが、ほかの映画でなかなか聞けないのが、耳のそばで撃ったときのキーンという耳鳴り音がなんともその気にさせる。
この映画、たぶん何回目かになるのだろうが、ついまた見てしまうのが主演の刑事役ティル・シュヴァイガーの活躍と銃撃戦の大音響を楽しむため。ティル・シュヴァイガーは昔から結構ファンで、「ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア」(97年 独)、「Uボート 最後の決断」(04年 米)とか、近年では、スパイの時計屋を演じた「アトミック・ブロンド」(17年 米)もドイツ人らしい気難しい役に合っていてとても良かった。

「カイト KITE」(14年 米)

原作は日本のエロアニメ「A KITE](98年 梅津泰臣監督)だそうな。両親を殺された少女サワが刑事だった父の元相棒アカイから暗殺技術を教わり、犯人捜しをする。近未来の設定で、組織の生業が少女売買というところは目新しい感じはするが、探す宿敵の組織のボスは一番間近にいた、というまあよくある話。R15指定の割には、ソレらしいシーンもないが、どうもアタマを吹っ飛ばされたりとかのバイオレンスシーンのためか。(期待して損した)

少女サワ役がオリビア・ハッセーの実娘インディア・アイズリー。これが、まったくイケていない。セリフ回しは吹き替えなので何とも言えないが、表情も動きも役者とは思えないくらい。なにより、主役なのに、美しくも可愛くもない。致命的。アカイ役がサミュエル・L・ジャクソンなのだが、こっちも冴えないいつものワンパターン。演出も音楽なんかもぜんぜんイケない、C級映画。ここまで絶望すると、原作を追っかける気にもならず、撃沈。

2024年10月20日日曜日

ロバの耳通信「ひかりをすくう」「レイクサイド」「少年と少女のポルカ」

「ひかりをすくう」(09年 橋本紡 光文社文庫)


パニック障害のイラストレーターが仕事を辞め、哲ちゃんと一緒に住んでた都心のアパートから郊外に脱出。貯金でつなぎながら、近所の女子高生の英語の家庭教師をやったり、子猫を買い始めたり、哲ちゃんの前の奥さんと闘ったりで新しい暮らしになじんでゆく。
持病アリ、収入ナシの不安があったら、自分ならとてもこうは行かないだろうと思うけれども、まあ、こういう暮らしにあこがれる。なにより二人が「仲良し」なのがいい。
ワタシもカミさんも、その気になって一歩を踏み出せば、この物語ほどうまくはゆかないにしても、背負うものの少ない、もっと気楽な暮らしができる筈なのだが。



「レイクサイド」(06年 東野圭吾 文春文庫)

長く東野圭吾を読んできたけれど、こういう感覚は初めてかな。「ハズレ」。東野先生でも面白くない作品があるなだ、と。
有名私立中学受験のための合宿に集まった4組の家族。”妻は言った。「あたしが殺したのよ」”で始まる、湖畔の別荘地で起きた殺人事件。で「レイクサイド」、題名の付け方から安易~。
タネ明かしまで読めば、ああ、そういうことだったのかと思いがけない展開にオドロキはあったから謎解きミステリー小説としては良くできているのだろうが、ええっ、そんなのあるわけないだろうと失笑してしまうスジ。期待して読み始めたのに、つまらない小説、しかも面白いことでは裏切られたことのない文春文庫に、ただでさえ少ない残された時間を使ってしまったことに後悔。

「少年と少女のポルカ」( 00年 藤野千夜 講談社文庫)

裏表紙の芥川賞作家、海燕新人賞のツリに欺かれた感。単に私の嗜好に合わなかっただけなのだろう。
表題作は、いまはフツーになったLGBTの高校生の恋愛話。
海燕新人賞になった方は予備校生と同級生の物語に若い感性を期待して読み始めたのだが。突き出した元気さも感じ取れない、臆病な文章にすぐに飽きた。
漫画の原作みたいだなと思っていたら、著者は漫画雑誌の編集者だったと。デビューが早すぎたのかな。

2024年10月10日木曜日

ロバの耳通信「ウツボカズラの夢」「星々の舟」

「ウツボカズラの夢」(11年 乃南アサ 双葉文庫)

乃南アサ。今まで何度も手に取った作家なのに、ちゃんと読んだことがあまりなかったような気がする。直木賞を獲っている「凍える牙」(08年 新潮文庫)さえ途中で何度も放り出しながらようやく読み終えた記憶がある。

「ウツボカズラの夢」は、母親の死去と父親の再婚で居場所のなくなった高校を卒業したばかりの娘ミフユが親類のおばさんを頼って上京。おばさんの家もバラバラな家族。居候からいつの間にかお手伝いさんのになり、おばさんのダンナと関係を持ち、おばさんが家出したあとはおばさんの息子と仲良くなり、結局そこの嫁に収まってしまう。著者はどうも、ミフユを食虫植物のウツボカズラに例えたのだと思ったのだが、解説(大矢博子)の”ウツボカズラは誰か”の問いに、考えこんでしまった。本当のウツボカズラが誰だったかは解説の最後に書かれていて、あーそうだったのかと思わず膝を叩いてしまった。
面白かったよ、「ほぼ初めての」乃南アサ。


「星々の舟」(06年 村上由佳 文春文庫)

直木賞受賞作の短編連作。巻頭の「雪虫」が特にいい。禁断の兄妹愛、妻子ある男ばかりを愛してしまう女、兵隊と慰安婦の恋。
物語のホネになっているのが形こそ違うがすべて男女の恋物語。男女の愛は生きる目的の要素になるとは思う。しかし、それがすべてだと並べられると食傷してしまう。
禁断の兄妹愛だけに、あるいは、個々の恋物語だけにしてくれれば、その情感により感動できたのではないか。共感はしても、究極と感じられる重い恋物語を次々に受け入れることなんて、私の年齢ではムリだと実感。村上由佳は私には刺激が強すぎるのか、それとも連作にヤラレたのか。

2024年9月30日月曜日

ロバの耳通信「タイラー・レイク -命の奪還-」「ブラック・シー」

「タイラー・レイク -命の奪還-」(20年 米)原題:Extraction

メッチャ面白かったNetflixの新作。4月末公開したばかりの映画を、動画サイトではある
がゴールデンウイークに見ることができた。ウレシイ時代。

誘拐された麻薬王の息子を救出する傭兵タイラー・レイク役でクリス・ヘムズワースが不死身の男を演じている。誰が味方か、誰が敵か、そもそも少年を付け狙うのはだれなのかよくわからないのだが、全編追跡劇と派手なドンパチで画面に硝煙の匂いがするんじゃないかと思うほど。
いままでのカーアクション+ドンパチと違うのが、舞台がバングラデシュのダッカやインドのムンバイの人と埃と騒音にまみれた過密都市だったこと。実際の撮影もインドのアフマダーバード、ムンバイや タイのラーチャブリーで行われたとのこと(wiki)。雰囲気違うな、やっぱり。

傭兵リーダーをイラン女優のゴルシフテ・ファラハニが演じていて、これがエキゾチックでゾクゾクするほどの美人。インド女性風の黒髪で彫りの深いクールな表情でロケット砲や狙撃銃は撃つ、ラストではションベン中のラスボスの頭を至近距離から射抜き、倒れたところにシレっと止めの2発を打ち込むすごさ。不死身のクリス・ヘムズワースも良かったけれど、続編はこのゴルシフテ・ファラハニを主人公にしてほしい。

「ブラック・シー」(14年 英・米)

サルベージ会社を解雇され行き場を失った男たちが、黒海に沈んだとされるUボートから金塊を引き上げる話に乗り、ロシアのボロ潜水艦で黒海に乗り出す。

予想通り、ボロ潜水艦はトラブル続き、乗組員は金の配分で争い、結局は失敗に終わるのだが、暗い潜水艦の中で汗だらけのジュード・ローのカリスマ振りが楽しめた。

いままで多くの潜水艦を舞台にした映画を見てきた。例外なく面白かった。閉塞感が好きなのかな。もちろんホンモノには乗りたいとは思わないが。

初めてDVD再生機を買ったときオマケでついてきた数枚のDVDのひとつ、ウォルフガング・ペーターゼン監督の「U・ボート」(81年 西独)。当時、DVDがかなりの値段で新しいDVDを買うこともかなわず、まだVHS全盛の時代でレンタルDVDもないから、毎晩オマケのDVDを繰り返し見た記憶がある。映画としてもすごく面白く、今もネット動画で楽しんでいる。

2024年9月20日金曜日

ロバの耳通信「5人のジュンコ」「花酔ひ」「イノセント・デイズ」「突破」

「5人のジュンコ」(16年 真梨幸子 徳間文庫)

金持ちのジジイに金を出させては殺してしまう連続殺人犯の佐竹純子と純子に関わりのある4人のジュンコの物語。出てくる女たちが皆、嫌気がするほど不快。どこかで起きた事件をモデルにしていると確信できるノンフィクションのような小説を、深淵の中の他人の不幸を覗き見る下世話な喜びも感じながら読み、作者の取材力に脱帽ーしていたのに。読み終えて、巻末の【参考文献】を見て困惑。
「毒婦。 木嶋佳苗100日裁判傍聴記」 (13年 北原みのり 講談社文庫)と「誘蛾灯 鳥取連続不審死事件」 (13年 青木理 講談社)ーなんだ、参考文献だと、ただのパクリじゃないか。

真梨幸子は私には初めての作家で、裏表紙の著者解説を読むとクライムノベル作家だと紹介されていて、この「5人のジュンコ」の面白さに、好みの作家に出会った嬉しさを感じていたのに。
映画を小説にして、ノベライズと称し作家面をしているヤカラに苦々しさを感じているのと同じ、残念な気持ち。


「花酔ひ」(14年 村上由佳 文春文庫)

直木賞受賞作の短編集「星々の舟」(06年 文春文庫)の「雪虫」が気に入って続けて
読んだ「花酔ひ」。読み出しは和服屋を継いだ麻子の着物への思い入れの語りや京都弁など、見知らぬ世界は興味深く引き込まれていったのだが、結局はソレかと食傷。ソレとしか言いようのない淫靡な官能小説。それもダラダラと続く。男と女って、結局ソレしかないのかと、村上由佳とエロに落ちた文春文庫に失望。まいった。

「イノセント・デイズ」(17年 早見和真 新潮文庫)

辻村深月の解説を読み、巻末の2ページ分びっしり書かれた参考文献のリストを見て、大好きなノンフィクションの匂いを嗅いだのだが、ダラダラ続く文章に早々と挫折。良い題材なのにな。

「突破」(03年 西村健 講談社文庫)

裏表紙のツリ”豪快探偵・大文字が活躍する、息もつかせぬ痛快娯楽小説”に釣られて、半分くらいまで読んだが、あまりのつまらなさに挫折。何が、私の嗜好に合わないのかがどうしてもわからない。大げさフィクション、荒唐無稽はキライじゃないのだが。