「月の満ち欠け」(17年 佐藤正午 岩波書店)
佐藤正午を「アンダーリポート/ブルー」(15年 小学館文庫)で初めて知って面白さに目覚め、続けて読むことになったのがこの「月の満ち欠け」。リーンカーネーション<生まれ変わり>を題材にした、ミステリー。新しいカタチの恋愛小説ーと言ってもいいだろう。
登場人物は多くはないが、誰かは誰かの生まれ変わりだとか、誰かは誰かの友達だとか、私は元々人の名前と顔がなかなか覚えられないタチ(一種の病気らしい)だから、えらい苦労して読み進めた。あげく、哲彦をアキヒト、哲をアキラと読ませたりの判じ物みたいなところがあるから余計に迷い込んでしまった。とはいえ、読みやすい文章だし、スジを多少違えても小さな物語は完成度が高く、それぞれ十分に楽しめた。
一旦読み終わって、先に読み終えていたカミさんの解説をフンフンとわかったふりをして聞き、もう一度最初から読まなければキチンとこの作品の良さをちゃんとわかることができないと思うのだが、佐藤の作品は手探りが本領だから、スジを全部わかってしまうと感動が半減することを前読の「アンダーリポート/ブルー」で経験済み。さて、どうしたものか。
「天空への回廊」(04年 笹本稜平 光文社文庫)
エベレスト山頂近くに落ちたアメリカの人工衛星の回収作業に中国、ロシアまで加わり、人工衛星は実は核兵器だった。と、山岳サバイバル+スパイものでエンターテインメント要素たっぷりの小説なのだが、何せ長い。日本人登山家をヒーローにしたのはいいが、登場人物が多すぎ。それらの性格描写や動きまで丁寧に描き込んでいるから、長い。文庫版650ページの後半はそれなりに盛り上がるから楽しいのだが、この長さ、また読みたいという気になれない。
気に入った本は、時間をおいてまた読むことが多い。初回はストーリーに追われながら性急さを楽しみ、二度目は主人公の行動だけでなく環境や季節などを意識しながら、じっくり読み解く。そうして、牛が反芻するように味わうのが常で、何度も読んだ本も多いのだが、「天空への回廊」は、ただジェットコースターで飛びゆく風景のようにスピード感あるストーリー展開を楽しんで、終わり。もっと長い本やシリーズものを何度も読むこともあるから、長さへの抵抗だけではないのだろう。つきつめれば、ワタシの「好みじゃない」ということか。何度も書くけど、面白かったんだけどね。
ロバの耳通信
2025年12月15日月曜日
2025年11月25日火曜日
ロバの耳通信「ウォールストリート・ダウン」「THE 4TH KIND フォース・カインド」
「ウォールストリート・ダウン」Assault on Wall Street(13年 カナダ)
金融危機の際、すべての財産と難病の妻を失った警備員の男が、アサルト・ライフルで地方検事やら自分に不良債権を掴ませた証券会社のトップやらを撃ちまくるというなんとも、八つ当たりがすぎないか感いっぱいの映画。仕事を失い、家を失い、健康保険も下りなくなった妻は自殺と、ジワジワと金に苦しめられてゆく様子は、そこまで酷い目に遭ったことはないにせよ、投資の失敗で青くなった経験のあるワタシにも理解できる。彼をダマした極悪ブローカーもいただろうが、ビルの駐車場から正面のビルの窓から見える証券マンたちをかたっぱしから撃つとか、証券会社に乗り込んで見境なく撃ちまくるとか、やっぱ、やりすぎだって。
この映画には主人公ドミニク・パーセルの友人の警備員役にワタシの好きなエドワード・ファーロングが例のヤク中毒風かついつもの哀しそうな顔で出ていた。あれだけ、薬物やアルコールなどで問題を起こしながらも役者でいられて、日本での人気が本国のソレを格段に上回っている不思議なエドワード・ファーロング。デビュー作の「ターミネーター2」(91年 米 ジョン・コナー役)以来、地味に頑張っているが、「ウォールストリート・ダウン」以降見ていないから、また問題をおこしているかも。
「THE 4TH KIND フォース・カインド」(09年 米)
題の意味は例のUFOとかの「第四種接近遭遇」のことらしい。宇宙人にさらわれたとかソノくちのドキュメンタリー風に仕上げられてはいるが、wikiによると嘘っぱちドキュメンタリーらしい。夫を殺され(実は自殺)、娘を宇宙人にさらわれた(と言っている)女性心理学者の役をミラ・ジョボビッチが演じているが、「バイオハザード」(シリーズ 米映画)のアリスの颯爽さとは違い、娘がいなくなりキチガイのように泣き叫ぶ普通の母親の役。
UFOとかを信じてやまないカミさんいわくは、こういう映画は、真実を隠蔽するために作られているから、裏のウラまで読まなければならないらしい。映画としてはいい出来でなかなか面白かった。先日、「パラノーマル・アクティビティー」(07年 米)”超常現象”を「また」見たが、バカバカしくて「やっぱり」途中で放棄。まあ「THE 4TH KIND フォース・カインド」のほうがアレよりは良かったかな。
金融危機の際、すべての財産と難病の妻を失った警備員の男が、アサルト・ライフルで地方検事やら自分に不良債権を掴ませた証券会社のトップやらを撃ちまくるというなんとも、八つ当たりがすぎないか感いっぱいの映画。仕事を失い、家を失い、健康保険も下りなくなった妻は自殺と、ジワジワと金に苦しめられてゆく様子は、そこまで酷い目に遭ったことはないにせよ、投資の失敗で青くなった経験のあるワタシにも理解できる。彼をダマした極悪ブローカーもいただろうが、ビルの駐車場から正面のビルの窓から見える証券マンたちをかたっぱしから撃つとか、証券会社に乗り込んで見境なく撃ちまくるとか、やっぱ、やりすぎだって。この映画には主人公ドミニク・パーセルの友人の警備員役にワタシの好きなエドワード・ファーロングが例のヤク中毒風かついつもの哀しそうな顔で出ていた。あれだけ、薬物やアルコールなどで問題を起こしながらも役者でいられて、日本での人気が本国のソレを格段に上回っている不思議なエドワード・ファーロング。デビュー作の「ターミネーター2」(91年 米 ジョン・コナー役)以来、地味に頑張っているが、「ウォールストリート・ダウン」以降見ていないから、また問題をおこしているかも。
「THE 4TH KIND フォース・カインド」(09年 米)
題の意味は例のUFOとかの「第四種接近遭遇」のことらしい。宇宙人にさらわれたとかソノくちのドキュメンタリー風に仕上げられてはいるが、wikiによると嘘っぱちドキュメンタリーらしい。夫を殺され(実は自殺)、娘を宇宙人にさらわれた(と言っている)女性心理学者の役をミラ・ジョボビッチが演じているが、「バイオハザード」(シリーズ 米映画)のアリスの颯爽さとは違い、娘がいなくなりキチガイのように泣き叫ぶ普通の母親の役。
UFOとかを信じてやまないカミさんいわくは、こういう映画は、真実を隠蔽するために作られているから、裏のウラまで読まなければならないらしい。映画としてはいい出来でなかなか面白かった。先日、「パラノーマル・アクティビティー」(07年 米)”超常現象”を「また」見たが、バカバカしくて「やっぱり」途中で放棄。まあ「THE 4TH KIND フォース・カインド」のほうがアレよりは良かったかな。
2025年11月2日日曜日
ロバの耳通信「七十歳死亡法案、可決」「君たちに明日はない」
「七十歳死亡法案、可決」(15年 垣谷美雨 幻冬舎)
破綻寸前の日本政府が窮余の策として強行採決した”七十歳死亡法案”が2年後に施行され
ることになった。新法は寿命の足切り、70歳になると安楽死させられるというとんでもない法律だが日本救済のアイデアとしては説得力があった。どうせ長生きできないのなら今のうちにという享楽主義の蔓延など、死を前提にした人々の心境の変化が興味深い。
この小説の主人公は、ワガママな義母の介護に疲れ果てている主婦。新法のおかげであと2年で、このワガママの世話をしなくていいのだと喜んだものの、あと2年がガマンできない。引きこもりの息子、寄り付かない娘、何より能天気の夫とその兄妹たち。全員、敵。登場人物のすべてがステレオタイプに描かれてはいるものの、イマの日本の家庭の縮図。著者の垣谷はそれを最後まで描き切れず、ハッピーエンドにしてしまったのがかえすがえすも残念。長生きなんかしたくないと多くの年寄りが思っている「本音」を垣谷はホントは理解していないんじゃないか、そんな気がした。
「君たちに明日はない」(07年 垣根涼介 新潮文庫)
リストラ請負人を描いた痛快無比のエンターテインメント小説。あとがきで、垣根自身が”小説は、魅力的な人間像を描くことが重要”と述べているが、登場人物の全員がイキイキと描かれ、文句ない面白さだ。続編(「借金取りの王子」)もあり、テレビドラマ化されているというが、本作を超えているだろうか。テレビドラマの方は、配役を見たら、動画サイトで探す気にもならなかった。小説のイメージとゼンゼンちがう・・。案の定、話題にもならなかったらしい。
垣根には会社員の経験があるという。(首を)切られる側か切る側かの立場に立ったことがあるのかもしれない。管理職としての会社の見方や、企業再生屋の説明なども的を得ている。若い会社員にも読んでほしい気がする。
破綻寸前の日本政府が窮余の策として強行採決した”七十歳死亡法案”が2年後に施行され
ることになった。新法は寿命の足切り、70歳になると安楽死させられるというとんでもない法律だが日本救済のアイデアとしては説得力があった。どうせ長生きできないのなら今のうちにという享楽主義の蔓延など、死を前提にした人々の心境の変化が興味深い。
この小説の主人公は、ワガママな義母の介護に疲れ果てている主婦。新法のおかげであと2年で、このワガママの世話をしなくていいのだと喜んだものの、あと2年がガマンできない。引きこもりの息子、寄り付かない娘、何より能天気の夫とその兄妹たち。全員、敵。登場人物のすべてがステレオタイプに描かれてはいるものの、イマの日本の家庭の縮図。著者の垣谷はそれを最後まで描き切れず、ハッピーエンドにしてしまったのがかえすがえすも残念。長生きなんかしたくないと多くの年寄りが思っている「本音」を垣谷はホントは理解していないんじゃないか、そんな気がした。
「君たちに明日はない」(07年 垣根涼介 新潮文庫)リストラ請負人を描いた痛快無比のエンターテインメント小説。あとがきで、垣根自身が”小説は、魅力的な人間像を描くことが重要”と述べているが、登場人物の全員がイキイキと描かれ、文句ない面白さだ。続編(「借金取りの王子」)もあり、テレビドラマ化されているというが、本作を超えているだろうか。テレビドラマの方は、配役を見たら、動画サイトで探す気にもならなかった。小説のイメージとゼンゼンちがう・・。案の定、話題にもならなかったらしい。
垣根には会社員の経験があるという。(首を)切られる側か切る側かの立場に立ったことがあるのかもしれない。管理職としての会社の見方や、企業再生屋の説明なども的を得ている。若い会社員にも読んでほしい気がする。
2025年10月28日火曜日
ロバの耳通信「アポストル 復讐の掟」「アシュラ」「6時間」
「アポストル 復讐の掟」(18年 米)
Netflixオリジナル。カルト宗教の島に誘拐された妹の救出に行った男の物語。時代や場所は曖昧だが、旧式だが銃もあるから近世か、米五大湖にあるアポストル諸島かと想像、寒そうだし。このカルト宗教がなんともすごい。ただのババアを女神にして悪いことは皆この女神のせい、リーダーたちの娘や息子がデキてしまい、見せしめに片方を殺したことからリーダーたちが反目。ババアが実は魔女で、妹を救出に行った男がババアの魔力を引き継ぐとかハチャメチャ。ストーリー展開は場当たりに思えるほどの雑さだし、エロなしグロだらけのスプラッタ劇に納得できるワケもない。うーん、脚本どうなってるのだろうと思うが、まあいいか。
配役は知らない役者ばかりだけど頑張っていて、撮影もキチンとしているから安っぽさはない。まあ、こういう映画もアリかな。切られたり抉られたり、あげくアタマにドリルで穴を当てられて悪魔を追い出す儀式とか、キモイけどドキドキしながらみられたし、妹の救出に来た男の視点を変えず、島の中あちこち冒険を楽しめたからまるでRPGゲームのようだった。
「アシュラ」(16年 韓)
R15+のノアール映画。架空の都市・アンナム市の市長、市長の子飼の刑事、検事ほか全員ワルモノ。その中で極ワルの市長ソンベ役のベテランのファン・ジョンミンがいい。優しい笑顔はすぐにブチ切れる、ステレオタイプの韓国の権力者のイメージ。
暗くて行き場のない怒り。韓国ノワール映画では、権力者はいつも極ワルに描かれる。テーブル一杯に並べられた酒肴、刑事たちの出前の食事、拳銃、鎌、金づち、ヤッパなど韓国映画の定番メニュー。メッチャ面白かった。見終わって気付いた、イカン、中毒になっている。韓国ノワール、蜜の味。
「6時間」(15年 チリ)原題 6Hours:The End
原子炉爆発までの残された時間は6時間。ラストの大爆発までは、アパートの一室内での若い男女のダラダラセリフのやりとりだけ。最後のエッチのあと女はどこかに出て行き、残された男は訪ねてきた友人とマリファナトリップ。隣の若い女が合流したところで、友人はその女に無理強い。男は友人に怒りをぶつけ、”最後に正義を行う”と意味不明なことを隣の女に告げ、その女を連れてどこかのビルの屋上に<意味不明だって、そんなの>。最後にドカーンでオシマイ。残り何時間と切られた人間が何をするかという命題にエッチだけだとぉ?66分作品だが、それでもダラダラ感いっぱい。観客を舐めてるどうしようもない映画。
Netflixオリジナル。カルト宗教の島に誘拐された妹の救出に行った男の物語。時代や場所は曖昧だが、旧式だが銃もあるから近世か、米五大湖にあるアポストル諸島かと想像、寒そうだし。このカルト宗教がなんともすごい。ただのババアを女神にして悪いことは皆この女神のせい、リーダーたちの娘や息子がデキてしまい、見せしめに片方を殺したことからリーダーたちが反目。ババアが実は魔女で、妹を救出に行った男がババアの魔力を引き継ぐとかハチャメチャ。ストーリー展開は場当たりに思えるほどの雑さだし、エロなしグロだらけのスプラッタ劇に納得できるワケもない。うーん、脚本どうなってるのだろうと思うが、まあいいか。配役は知らない役者ばかりだけど頑張っていて、撮影もキチンとしているから安っぽさはない。まあ、こういう映画もアリかな。切られたり抉られたり、あげくアタマにドリルで穴を当てられて悪魔を追い出す儀式とか、キモイけどドキドキしながらみられたし、妹の救出に来た男の視点を変えず、島の中あちこち冒険を楽しめたからまるでRPGゲームのようだった。
「アシュラ」(16年 韓)
R15+のノアール映画。架空の都市・アンナム市の市長、市長の子飼の刑事、検事ほか全員ワルモノ。その中で極ワルの市長ソンベ役のベテランのファン・ジョンミンがいい。優しい笑顔はすぐにブチ切れる、ステレオタイプの韓国の権力者のイメージ。暗くて行き場のない怒り。韓国ノワール映画では、権力者はいつも極ワルに描かれる。テーブル一杯に並べられた酒肴、刑事たちの出前の食事、拳銃、鎌、金づち、ヤッパなど韓国映画の定番メニュー。メッチャ面白かった。見終わって気付いた、イカン、中毒になっている。韓国ノワール、蜜の味。
「6時間」(15年 チリ)原題 6Hours:The End
原子炉爆発までの残された時間は6時間。ラストの大爆発までは、アパートの一室内での若い男女のダラダラセリフのやりとりだけ。最後のエッチのあと女はどこかに出て行き、残された男は訪ねてきた友人とマリファナトリップ。隣の若い女が合流したところで、友人はその女に無理強い。男は友人に怒りをぶつけ、”最後に正義を行う”と意味不明なことを隣の女に告げ、その女を連れてどこかのビルの屋上に<意味不明だって、そんなの>。最後にドカーンでオシマイ。残り何時間と切られた人間が何をするかという命題にエッチだけだとぉ?66分作品だが、それでもダラダラ感いっぱい。観客を舐めてるどうしようもない映画。
2025年10月15日水曜日
ロバの耳通信「ロビン・フッド」「コップ・カー」
「ロビン・フッド」(18年 米)
「キングスマン」シリーズ(15年~ 英・米)ですっかり顔なじみになたタロン・エガートンだが、子供顔のせいかロビン・フッド役には合わないかなと思っていた。前作(ただし続きものではない)「ロビン・フッド」(10年 英・米)では、巨匠リドリー・スコットらとともに自身も制作にかかわったラッセル・クローが主演で強面のロビン・フッドのイメージがあったから。新しい「ロビン・フッド」ではレオナルド・ディカプリオ監督が今までと味付けを変え、ロビン・フッドと元妻役マリアン(アイルランド女優イヴ・ヒューソン)との愛憎を入れたり、出だしを序章の物語と語りで英国風の味付けにしたりの新しい試みを入れ、また、ロビン・フッドの戦いの場を街中のアクションにもってきたりで新鮮味のある映画となっている。馬車同志の戦闘シーンは迫力の出来で、ウィリアム・ワイラー監督。チャールトン・ヘストン主演の「ベンハー」(59年 米)を思い出した。
さらにリトル・ジョン役ジェイミー・フォックスは存在感があり、悪代官役ベン・メンデルソーンなど、特にワル役のキャスティングが良く時間を忘れるほど。終わりでボスキャラとその手下を残したのは続編への布石か。近日日本公開とのことだが、これは薦められる映画だ。
「コップ・カー」(15年 米)
10歳のふたりの悪ガキがパトカーを乗り回すというだけの映画。悪徳警官役のケビン・ベーコンが総指揮・主演。
オープニングでふたりの悪ガキが覚えたての汚い言葉を言いながら草原を歩いて行くシーンから「スタンド・バイ・ミー」(86年 米)の甘酸っぱい思い出の悪ガキ物語のつもりでみていたら、ゼンゼン違っていた。山中でパトカーを見つけ、乗り回して遊んでいたらシェリフのケビン・ベーコンに執拗に追い回される。パトカーのトランクには死体が積んであったのが、シェリフが必死で追いかけた理由。映画って、すごく面白いか、怖いか、哀しいか、なにか訴えるものがないとね。狂ったか、ケビンベーコン。
「キングスマン」シリーズ(15年~ 英・米)ですっかり顔なじみになたタロン・エガートンだが、子供顔のせいかロビン・フッド役には合わないかなと思っていた。前作(ただし続きものではない)「ロビン・フッド」(10年 英・米)では、巨匠リドリー・スコットらとともに自身も制作にかかわったラッセル・クローが主演で強面のロビン・フッドのイメージがあったから。新しい「ロビン・フッド」ではレオナルド・ディカプリオ監督が今までと味付けを変え、ロビン・フッドと元妻役マリアン(アイルランド女優イヴ・ヒューソン)との愛憎を入れたり、出だしを序章の物語と語りで英国風の味付けにしたりの新しい試みを入れ、また、ロビン・フッドの戦いの場を街中のアクションにもってきたりで新鮮味のある映画となっている。馬車同志の戦闘シーンは迫力の出来で、ウィリアム・ワイラー監督。チャールトン・ヘストン主演の「ベンハー」(59年 米)を思い出した。さらにリトル・ジョン役ジェイミー・フォックスは存在感があり、悪代官役ベン・メンデルソーンなど、特にワル役のキャスティングが良く時間を忘れるほど。終わりでボスキャラとその手下を残したのは続編への布石か。近日日本公開とのことだが、これは薦められる映画だ。
「コップ・カー」(15年 米)
10歳のふたりの悪ガキがパトカーを乗り回すというだけの映画。悪徳警官役のケビン・ベーコンが総指揮・主演。
オープニングでふたりの悪ガキが覚えたての汚い言葉を言いながら草原を歩いて行くシーンから「スタンド・バイ・ミー」(86年 米)の甘酸っぱい思い出の悪ガキ物語のつもりでみていたら、ゼンゼン違っていた。山中でパトカーを見つけ、乗り回して遊んでいたらシェリフのケビン・ベーコンに執拗に追い回される。パトカーのトランクには死体が積んであったのが、シェリフが必死で追いかけた理由。映画って、すごく面白いか、怖いか、哀しいか、なにか訴えるものがないとね。狂ったか、ケビンベーコン。
2025年9月30日火曜日
ロバの耳通信「追憶の森」「エイプリル・ソルジャーズ ナチス・北欧大侵略」
「追憶の森」(16年 米)
妻(ナオミ・ワッツ)を失ったアメリカ人(マシュー・マコノヒー)が自殺するために青木ヶ原を訪れ、そこで謎の男(渡辺謙)と出会うというただそれだけの物語。ヒネリは、アメリカ人は自らの浮気のため妻とは不仲だったのが、妻のガン治療からの回復とその後の交通事故で妻を失っていた。謎の男はどうも、森の精とか死んだ妻の霊だったかとか曖昧のまま。
映画の中の青木ヶ原は明るく、川もある。アメリカ国内のどこかの森でロケしたらしく、陰鬱で暗い溶岩だらけの本当の青木ヶ原のイメージじゃないし、アメリカ人がなんで日本まで自殺に来るんだ?ナオミ・ワッツのヒステリー女ぶりはゾッとする迫真の演技だし、アメリカ女ってのはだいたいそんなものだと想像するが、ナオミの怒った顔は怖い。マシュー・マコノヒーは有名な俳優らしいが、この映画ではダイコン。渡辺謙は好きな役者だが、存在感がない。幽霊みたいな役だから、まあ、いいのか。
題名もポスターもスピリュチアル感いっぱいだが、実際のところは男が森の中をウロウロするだけの映画。保証する、時間の損。
「エイプリル・ソルジャーズ ナチス・北欧大侵略」(15年 デンマーク)
なんだかおかしな邦題だが、原題は9.April。第二次世界大戦でドイツ軍にデンマーク国境が破られた「記念日」らしい。だいたい戦争映画といえば、行け行けドンドンの勝ち戦か哀しい負け戦のどちらかだろう。この映画、ドイツ侵攻から数日で降伏を決めたデンマークの前線にいた自転車部隊の、螳螂の戦いを描いたもの。新兵を含む若者だけの兵隊たちとそれを率いる少尉(ピルー・アスペック)の物語。これが中学生と担任の先生のイメージ。雑談しながら射撃訓練、自転車のタイヤを交換する訓練など淡々と描かれる。それを監督する将校はコーヒーやブランデーを飲みながら。おいおいこんなのありかよ。
戦争シーンはあるが、ほぼ小銃や機関銃だけで、一方的にドイツ軍の機甲部隊に追いつめられ、あっという間に降伏してしまうから邦題からドンパチを期待していると違和感を憶えてしまう。
デンマーク軍の上級将校たちは皆、無責任。ドイツ軍が来てる、どうすればーに対し、待機せよ。圧倒的な兵力にやられている、どうすればーに対し、後方で別部隊と合流せよ。兵隊はもとより、将校たちも自律的な働きができない。
ドイツ軍将校がえらく紳士的に描かれているから、この映画がデンマーク映画かと疑う。戦争なんか、結局は不条理なものだから、こういう自虐的なものもあってもいいのだろうが、それにしてもこの映画が何を観客に訴えたかったの。デンマーク軍への当てつけか。
戦場で兵隊たちに頼られながらもうろたえ、最後は降伏してしまう少尉役のピルー・アスペック、結構見る顔じゃないか。スカーレット・ヨハンソン大活躍のハリウッド版「ゴースト・イン・ザ・シェル」(バトー役17年 米)とか「オーヴァーロード」(主演 18年 米)とか、デンマークの俳優とは知らなかった。
少尉の上官のこれも頼りない将校役で出ていたラース・ミケルセンも結構有名な俳優らしい。名前に見覚えがあるからチェックしたら「ハンニバル」シリーズ(14年~ 米テレビ)でハンニバル博士を好演のデンマーク出身マッツ・ミケルセンの兄らしい。
妻(ナオミ・ワッツ)を失ったアメリカ人(マシュー・マコノヒー)が自殺するために青木ヶ原を訪れ、そこで謎の男(渡辺謙)と出会うというただそれだけの物語。ヒネリは、アメリカ人は自らの浮気のため妻とは不仲だったのが、妻のガン治療からの回復とその後の交通事故で妻を失っていた。謎の男はどうも、森の精とか死んだ妻の霊だったかとか曖昧のまま。
映画の中の青木ヶ原は明るく、川もある。アメリカ国内のどこかの森でロケしたらしく、陰鬱で暗い溶岩だらけの本当の青木ヶ原のイメージじゃないし、アメリカ人がなんで日本まで自殺に来るんだ?ナオミ・ワッツのヒステリー女ぶりはゾッとする迫真の演技だし、アメリカ女ってのはだいたいそんなものだと想像するが、ナオミの怒った顔は怖い。マシュー・マコノヒーは有名な俳優らしいが、この映画ではダイコン。渡辺謙は好きな役者だが、存在感がない。幽霊みたいな役だから、まあ、いいのか。
題名もポスターもスピリュチアル感いっぱいだが、実際のところは男が森の中をウロウロするだけの映画。保証する、時間の損。
「エイプリル・ソルジャーズ ナチス・北欧大侵略」(15年 デンマーク)
なんだかおかしな邦題だが、原題は9.April。第二次世界大戦でドイツ軍にデンマーク国境が破られた「記念日」らしい。だいたい戦争映画といえば、行け行けドンドンの勝ち戦か哀しい負け戦のどちらかだろう。この映画、ドイツ侵攻から数日で降伏を決めたデンマークの前線にいた自転車部隊の、螳螂の戦いを描いたもの。新兵を含む若者だけの兵隊たちとそれを率いる少尉(ピルー・アスペック)の物語。これが中学生と担任の先生のイメージ。雑談しながら射撃訓練、自転車のタイヤを交換する訓練など淡々と描かれる。それを監督する将校はコーヒーやブランデーを飲みながら。おいおいこんなのありかよ。戦争シーンはあるが、ほぼ小銃や機関銃だけで、一方的にドイツ軍の機甲部隊に追いつめられ、あっという間に降伏してしまうから邦題からドンパチを期待していると違和感を憶えてしまう。
デンマーク軍の上級将校たちは皆、無責任。ドイツ軍が来てる、どうすればーに対し、待機せよ。圧倒的な兵力にやられている、どうすればーに対し、後方で別部隊と合流せよ。兵隊はもとより、将校たちも自律的な働きができない。
ドイツ軍将校がえらく紳士的に描かれているから、この映画がデンマーク映画かと疑う。戦争なんか、結局は不条理なものだから、こういう自虐的なものもあってもいいのだろうが、それにしてもこの映画が何を観客に訴えたかったの。デンマーク軍への当てつけか。
戦場で兵隊たちに頼られながらもうろたえ、最後は降伏してしまう少尉役のピルー・アスペック、結構見る顔じゃないか。スカーレット・ヨハンソン大活躍のハリウッド版「ゴースト・イン・ザ・シェル」(バトー役17年 米)とか「オーヴァーロード」(主演 18年 米)とか、デンマークの俳優とは知らなかった。
少尉の上官のこれも頼りない将校役で出ていたラース・ミケルセンも結構有名な俳優らしい。名前に見覚えがあるからチェックしたら「ハンニバル」シリーズ(14年~ 米テレビ)でハンニバル博士を好演のデンマーク出身マッツ・ミケルセンの兄らしい。
2025年9月15日月曜日
ロバの耳通信「SPY/スパイ」「アメリカン・サイコ」
「SPY/スパイ」(15年 米)
動画サイトで俳優名で検索して見つけた映画。大好きジェイソン・ステイサム、ジュード・ロウじゃあ面白くないわけないだろうと期待。うん、めっちゃ面白かったが、普段ほとんど見ることもないコメディー。
主役が二段アゴのデブ女メリッサ・マッカーシーでゲンナリだが、アクションシーンなんかも結構丁寧な造り。「007ジェーム・スボンド」シリーズ(62年~ 英)と「ジョニー・イングリッシュ」シリーズ(11年~英)を足して割ったCIAスパイアクションモノ。「007」は、とんでもないアホ話に大スターが大真面目でアクション演技をするこそばゆさ、「ジョニー・イングリッシュ」は、桁外れのばかばかしさを感じながらもシリーズを楽しんでいたのだが、「SPY/スパイ」は、大真面目アクションをジェイソン・ステイサム、ジュード・ロウが、ばかばかしい方をデブ女がと分担、パクリなりに面白かった。
世界のほぼすべてで公開されていて、配給も20世紀フォックスと最大手なのに、日本では劇場公開されずDVDやヤミ動画で見るしかない。なぜ日本だけ劇場公開されなかったのだろう。
「アメリカン・サイコ」(00年 米)
投資会社のヤングエリート、クリスチャン・ベールは快楽殺人鬼だった。(レオナルド)ディカプリオが候補だったこの役をクリスチャン・ベールを引き継いだと。ディカプリオの幼い顔より、クリスチャン・ベールの狂気がずっと似合っている。
ふた昔の前の映画なのに、ウオール街の町並みはガラスのビルに囲まれ、ヤングエリートが集うクラブは革と葉巻の匂いのするソファーやコカインを吸うための小部屋、住まいは管理人つきで夜景がきれいな高層マンションのペントハウス、窓には天体望遠鏡、クローゼットにはダークスーツが並ぶ。憧れを通り越した夢のエグゼプティブの暮らしは、古さを微塵も感じさせない。
高級レストランで意味不明の料理を食し、パーティーではよく知らない友人たちや群がる女たちと意味のない馬鹿笑い。金持ちの暮らしとはこういうものなのか。空しいと感じさせても、憧れとのバランスはとれない。
同僚を斧で殺し、娼婦をチェーンソーで追いかけまわし、顧問弁護士に殺人を告げても信じてくれない。だから、空しい暮らしは変わらない。
楽しくも面白くもないが、忘れられないいい映画だった。同名の原作本(95年 角川文庫)があり、ソッチのほうがずっと過激で重苦しいらしい。また、読みたい本が増えた。
動画サイトで俳優名で検索して見つけた映画。大好きジェイソン・ステイサム、ジュード・ロウじゃあ面白くないわけないだろうと期待。うん、めっちゃ面白かったが、普段ほとんど見ることもないコメディー。主役が二段アゴのデブ女メリッサ・マッカーシーでゲンナリだが、アクションシーンなんかも結構丁寧な造り。「007ジェーム・スボンド」シリーズ(62年~ 英)と「ジョニー・イングリッシュ」シリーズ(11年~英)を足して割ったCIAスパイアクションモノ。「007」は、とんでもないアホ話に大スターが大真面目でアクション演技をするこそばゆさ、「ジョニー・イングリッシュ」は、桁外れのばかばかしさを感じながらもシリーズを楽しんでいたのだが、「SPY/スパイ」は、大真面目アクションをジェイソン・ステイサム、ジュード・ロウが、ばかばかしい方をデブ女がと分担、パクリなりに面白かった。
世界のほぼすべてで公開されていて、配給も20世紀フォックスと最大手なのに、日本では劇場公開されずDVDやヤミ動画で見るしかない。なぜ日本だけ劇場公開されなかったのだろう。
「アメリカン・サイコ」(00年 米)
投資会社のヤングエリート、クリスチャン・ベールは快楽殺人鬼だった。(レオナルド)ディカプリオが候補だったこの役をクリスチャン・ベールを引き継いだと。ディカプリオの幼い顔より、クリスチャン・ベールの狂気がずっと似合っている。
ふた昔の前の映画なのに、ウオール街の町並みはガラスのビルに囲まれ、ヤングエリートが集うクラブは革と葉巻の匂いのするソファーやコカインを吸うための小部屋、住まいは管理人つきで夜景がきれいな高層マンションのペントハウス、窓には天体望遠鏡、クローゼットにはダークスーツが並ぶ。憧れを通り越した夢のエグゼプティブの暮らしは、古さを微塵も感じさせない。
高級レストランで意味不明の料理を食し、パーティーではよく知らない友人たちや群がる女たちと意味のない馬鹿笑い。金持ちの暮らしとはこういうものなのか。空しいと感じさせても、憧れとのバランスはとれない。
同僚を斧で殺し、娼婦をチェーンソーで追いかけまわし、顧問弁護士に殺人を告げても信じてくれない。だから、空しい暮らしは変わらない。
楽しくも面白くもないが、忘れられないいい映画だった。同名の原作本(95年 角川文庫)があり、ソッチのほうがずっと過激で重苦しいらしい。また、読みたい本が増えた。
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