2023年6月10日土曜日

ロバの耳通信「赤い指」「蒲公英草紙 常野物語」

「赤い指」(09年 東野圭吾 講談社文庫)

ネタをばらしてしまえば、平凡なサラリーマンが引きこもりの息子が起こした幼女殺しを隠すため、認知症の母を犯人にしたてようとするものの辣腕刑事加賀恭一郎に見破られるという物語だし、とんでもないオチもあったが、さすがにソコまでは書けない。このあと発表された「新参者」(13年)「麒麟の翼」(14年 ともに講談社文庫)と並びストーリーテラーとしての東野圭吾の力量が感じられる名作だと思う。

映画やテレビドラマで東野圭吾の作品でよく登場する加賀恭一郎役を(多分)すべて(ワタシの好きな)阿部寛が演じているためか、この「赤い指」の加賀恭一郎が最後の謎解きをするときも、阿部寛の顔が浮かびより情感を増した。

「蒲公英草紙 常野物語」(08年 恩田陸 集英社文庫)

東北の農村の旧家のお嬢様(聡子)のお相手をする村の医者の娘(峰子)の一人称で語られる長い物語。たかだか250ページの中編なのに、たくさんのことが語られ、それが自分にも染み入るのがわかる不思議な物語。恩田陸が女性の書き手であり、豊かな感性の中に身を浸す快感。
旧家とその周りの人々とそこを訪れた不思議な力を持つひとびととのことが、はじめはぼんやりと、それからだんだんと不思議な力によって起こされたことにより「物語」が明らかにされる。ただ、読み進めるうちにそれがどんな「物語」だったのかを意識することもなく、ただただソコに身をおいて、想像でしかないがなぜか懐かしく感じる農村の思い出に浸ることができる。

続編があるらしい。読みたい。

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