2023年6月30日金曜日

ロバの耳通信 「異境」「サイレント・ブラッド」「ペトロバ 禁断の石油生成菌」

 「異境」(14年 堂場瞬一 小学館文庫)

横浜を舞台にした新聞記者と女刑事のミステリーサスペンス。2人の孤独な主人公、上司とやりあって本社から横浜支局に左遷された一匹狼の甲斐と潔癖さのために県警内で孤立している翔子。このシチュエーションは堂場作品では当たり前なのだが、衒わないから安心して読める。勧善懲悪、やっぱり娯楽小説はこうでなきゃ。

「サイレント・ブラッド」(11年 北林一光 角川文庫)

失踪した父親の車が長野山中で見つかった。父親の痕跡を探しに向かった息子が地元で知り合った娘と出会う。登場人物は娘の血縁のイタコの老婆やら、ダム開発で大儲けを企む地元の建設会社の社長など、横溝正史ばりのなにかなつかしさを感じる筋ダテの山岳+推理小説。

著者北林一光とはこの作品で初めて出会ったが、相性は良さそうだ。45歳で亡くなったというし、作品数も少ないらしいけれど、ほかの作品も読んでみたい。

「ペトロバ 禁断の石油生成菌」(07年 高嶋哲夫 文春文庫)

石油を生み出す細菌がこの作品のテーマだと知って、なんとありふれた素材かとバカにしていた。そんな細菌など有りはしないのだが、小説や映画の世界で何度も登場していたからだ。だから、OPECを始め、世界の石油関連の機関が、この細菌を入手するため、あるいは現行権益を守るために消滅させようとするなんてのは当たり前のシナリオだとタカを食っていた。

ところが高嶋の味付けはソレで終わらず、その細菌が有機体、つまり人体を餌とし石油を生み出す、猛毒の感染症の細菌だったと。うーん、そういう手があったか、と。後半の展開はいつもの高嶋ジェットコースター。あっという間に読み切った。高嶋哲夫に”ハズレ”はなかったようだ。

2023年6月20日火曜日

ロバの耳通信「面白くなかった映画備忘録」

 天気のせいで家に缶詰になってしまった。Amazon Primeを探索して、いくつか見たが、全敗。時間のムダだった。うっかり、また見てしまわないように、「面白くなかった映画備忘録」のつもり。


「デンジャー・クロース 極限着弾」(19年 オーストラリア)原題:Danger Close: The Battle of Long Tan

ベトナム戦争時に圧倒的多数のベトコンと対峙しオーストラリア軍の戦い「ロングタンの戦い」。そもそも、ベトナム戦争にオーストラリアやニュージーランドが参戦したとは知らなかった。あー、そういうことね、歴史を思い出せってか。


「アンノウン・ソルジャー 英雄なき戦場」(17年 フィンランド)原題:Unknown Soldier/Tuntematon Sotilas

強大なロシア軍に対し、圧倒的少数のフィンランド軍がよく戦ったねと誇りにし、また次々に死んで行った兵士たちへのの追悼は感じるが、映画の目的が分からない。歴史を知らない若者たちに見せるための祖国愛高揚映画か。


「ノルマンディー 将軍アイゼンハワーの決断」(04年 米)原題:Ike: Countdown to D-Day

アイゼンハワー役をがトム・セレック。うーん、こういう伝記モノの出来不出来は役者によるかな、やっぱり。もちろん、脚本・監督にも責任はあるのだろうが、同じような題名の「チャーチル ノルマンディーの決断」(17年 英)と比べると雲泥の差。


「エージェント・トリガー」(21年 カナダ)原題:Trigger Point

バリー・ペッパー(「プライベート・ライアン」(98年 米)狙撃兵ダニエル・ジャクソン二等兵役))が、クスリで記憶をなくしたスパイ役。敵、味方がよくわからないアクション映画。主人公も脇役も、みんなマジに難しい顔をして映画は進行するのだが、なにより、全体のスジがわからず戸惑うだけ。こんな使い方をされた俳優たちが気の毒な気がした。ウリがバリー・ペッパーとヒット作「24-TWENTY FOUR」(01年~ 米テレビドラマ)監督ブラッド・ターナーということなんだけど、もったいない感いっぱい。


「拷問男」(12年 オーストラリア)原作:Daddy's Little Girl

娘を実弟に殺された兄の復讐劇。つまらなくて早送り。後半は縛り付けられた弟を拷問、スプラッタシーンの連続。誰が見るんだこんな気持ち悪い映画。変態監督がスプラッタを楽しんでいるだけ。こんな映画、犯罪だよ。

2023年6月10日土曜日

ロバの耳通信「赤い指」「蒲公英草紙 常野物語」

「赤い指」(09年 東野圭吾 講談社文庫)

ネタをばらしてしまえば、平凡なサラリーマンが引きこもりの息子が起こした幼女殺しを隠すため、認知症の母を犯人にしたてようとするものの辣腕刑事加賀恭一郎に見破られるという物語だし、とんでもないオチもあったが、さすがにソコまでは書けない。このあと発表された「新参者」(13年)「麒麟の翼」(14年 ともに講談社文庫)と並びストーリーテラーとしての東野圭吾の力量が感じられる名作だと思う。

映画やテレビドラマで東野圭吾の作品でよく登場する加賀恭一郎役を(多分)すべて(ワタシの好きな)阿部寛が演じているためか、この「赤い指」の加賀恭一郎が最後の謎解きをするときも、阿部寛の顔が浮かびより情感を増した。

「蒲公英草紙 常野物語」(08年 恩田陸 集英社文庫)

東北の農村の旧家のお嬢様(聡子)のお相手をする村の医者の娘(峰子)の一人称で語られる長い物語。たかだか250ページの中編なのに、たくさんのことが語られ、それが自分にも染み入るのがわかる不思議な物語。恩田陸が女性の書き手であり、豊かな感性の中に身を浸す快感。
旧家とその周りの人々とそこを訪れた不思議な力を持つひとびととのことが、はじめはぼんやりと、それからだんだんと不思議な力によって起こされたことにより「物語」が明らかにされる。ただ、読み進めるうちにそれがどんな「物語」だったのかを意識することもなく、ただただソコに身をおいて、想像でしかないがなぜか懐かしく感じる農村の思い出に浸ることができる。

続編があるらしい。読みたい。

2023年6月7日水曜日

ロバの耳通信「クライシス」「ロックダウン」新作は1勝1敗やっぱりコメディは好みじゃない。

 「クライシス」(21年 米)原題:Crisis

アメリカがいちばん進んでいるらしいが、もはや世界の社会問題となっている合成鎮痛剤という新しい麻薬。この映画で初めて名前と問題の大きさを知った「オピオイド」。

オトリ捜査で密輸の流れを追う刑事ジェイク(アーミー・ハマー)の妹は重度の依存症。知らないうちに運び屋にされたことから証拠隠滅のためマフィアに殺された息子の死の真相を追う女性建築家クレア(エヴァンジェリン・リリー)、大手製薬会社から委託され非依存性の評価をしていて最終段階で新製品の鎮痛剤に強い依存性があることを発見し、販売中止を主張する大学教授ブラウアー(ゲイリー・オールドマン)。3つのストーリーがそれぞれに進み、立場の違う3人がそれぞれ真相に迫ってゆく様はミステリー小説を読んでいる感。マフィアの親玉は死に、大学教授は別の大学に移籍など、ラストの切れの悪さは気になったが、問題提起の映画としてはこれくらいが限度か。

「ロックダウン」(21年 英・米)原題:Locked Down

新型コロナウイルスの感染対策のためロックダウンされたロンドンが舞台。アパレル企業のCEO役のアン・ハサウェイとトラック運転手役のキウェテル・イジョフォー。なんとも不似合いななカップルだが、コメディだからしょうがないか。

ロックダウンのせいで破局寸前だったカップルがロンドンの高級デパート

ハロッズの商品の疎開のドサクサに紛れ、ダイヤモンドを盗み出す計画を実行する。

前半は、意思の疎通がうまくゆかずギスギスした2人のやり取りと、それぞれがスカイプやズームで友人たちとリモート会話するシーンばかりで、昨今のイライラ日常生活の延長戦。映画紹介にはクライム・サスペンス・コメディとあったが、ほぼコメディ。アン・ハサウェイは相変わらずキレイだし、ソコに文句は言えないが、こういう映画誰が楽しむんだろう。

アン・ハサウェイがポンポンと品物を買い物カゴに放り込んだ、ハロッズのデパ地下超高級食品売り場、なんだか懐かしかった。コロナが終わっても、もう行くこともないだろうな。