小津安二郎監督の「晩春」(49年邦画)の紀子役の原節子とその父親役の笠智衆の間で交わされるセリフは少ないが情感がジワリと伝わってくるモノクロシーンを彷彿とさせる。
映画を先に見てしまったが、原作を読みたい。今年の秋からテレビアニメも放映されるとのことだが、さてさて。
「愛の選択」(91年米)
原題は、Dying Young (The Choice of Love)とあり、若くして死ぬこと(副題は邦題とおなじく、愛の選択)で、白血病で苦しむ青年キャンベル・スコットと臨時雇いの看護婦(実は看護婦ではないのだが、どうでもよいー)ジュリア・ロバーツの恋愛映画。難病ものなので、ハッピーエンドとはいかないが、落としどころをわきまえているノー天気ハリウッド映画。最後まで安心して見れる。同じくノー天気のジュリア・ロバーツは天真爛漫なキャラで意外性もなくこれも安心して見れたが、役名が予備選でトランプと戦っているヒラリーだったのがちょっと興ざめ。キャンベル・スコットが迫真の演技でなりきった末期の白血病の青年が、同じ病気で亡くなった本田美奈子に重なってしまい涙が出た。君が元気な頃に、絞るような声で歌っていた「ミスサイゴン」(92年が初演)の舞台をボクは忘れない。
中学一年の同じクラスの双子の女の子の片方が白血病で亡くなって、しばらく空席となり教室にポッカリ穴が開いていたのを思い出す。残った子と印象がごちゃ混ぜになっており、50年以上前のことなのだから曖昧な記憶もしょうがないと思うが、赤い髪の色だけは覚えている。色の白さやおとなしい印象は、ずっとあとになってワタシが勝手に作り出した虚像なのかもしてない。残った片方はいま、どうしているだろうか。
「オペラ座の怪人」(04米)
同題の映画はほぼすべて、劇場ミュージカルは一度。映画では、エンリオ・モリコーネが音楽監督をやった98年版を凌いで、最新のこの作品が最高だと思う。主役、準主役の男優はミュージカルらしい大振りな演技。とにかくクリスティーヌ役の女優エミー・ロッサムが素晴らしい。撮影当時16歳だったとのことだが、可憐な歌の間に(演技か本質的なものかは不明ですが)女の本性が垣間見える表情もあり、ふたりの男を天秤にかけるこの役は適役。この映画は歌唱シーンが多く、歌唱もほとんどが本人がやっており、映画というより舞台に近い感覚。そして暗いシーンの多い映画では舞台より映像の広がりが感じられ、いつでも何回でも楽しめるDVDがあってよかったとつくづく思う。
初めて本物のミュージカルを見たのは、30歳頃。「コーラスライン」を舞台で。早朝に並んで買ったシューベルト劇場(42nd,N.Y)の当日券の半額チケットは最前列の右から2番目。踏み鳴らす舞台の床から舞い上がる埃も、舞台の下の幕間からオーケストラの熱演も見えた。そのあとも何度か海外で見たのだがが、言葉のハンディを超えられず、字幕つきの日本公演や劇団四季や映画に頼るようになった。最初は舞台じゃなければと、高いお金を払い、良い席にもこだわったのだが、CDに置き換えられたクラッシックコンサートと同じ。入場券を手に入れる手間、バカ高い値段、劇場への往復のわずらわしさ、前に座ったひとのアタマの影やとなりでおしゃべりをするカップル、声の調子の悪い歌手にお目当ての歌手が体調不良とかで、嫌いな代役・・・と、不便と不運に苛まれることが続き、DVDやネット動画に落ち着いた。もっとも、近年は、特に冬場は劇場や映画館でトイレや咳をガマンしながら長時間座っていることが辛いというのが本当の理由。