2016年4月24日日曜日

ロバの耳通信「君が元気な頃に、絞るような声で歌っていた「ミスサイゴン」の舞台をボクは忘れない」

「舟を編む」(13年邦画)
2012年本屋大賞を獲得した原作は三浦しをん。いちばん良かったと思うシーンは。恩師の死に目に間に合わなかった主人公マジメ(松田龍平)が自宅に戻り、妻カグヤ(宮崎あおい)と差向いで遅い夕食を食べるところ。蕎麦を食べ始めるも悲しさと悔しさにすすり上げるマジメの背中をカグヤが黙ってさする。
小津安二郎監督の「晩春」(49年邦画)の紀子役の原節子とその父親役の笠智衆の間で交わされるセリフは少ないが情感がジワリと伝わってくるモノクロシーンを彷彿とさせる。
映画を先に見てしまったが、原作を読みたい。今年の秋からテレビアニメも放映されるとのことだが、さてさて。

「愛の選択」(91年米)
原題は、Dying Young (The Choice of Love)とあり、若くして死ぬこと(副題は邦題とおなじく、愛の選択)で、白血病で苦しむ青年キャンベル・スコットと臨時雇いの看護婦(実は看護婦ではないのだが、どうでもよいー)ジュリア・ロバーツの恋愛映画。難病ものなので、ハッピーエンドとはいかないが、落としどころをわきまえているノー天気ハリウッド映画。最後まで安心して見れる。同じくノー天気のジュリア・ロバーツは天真爛漫なキャラで意外性もなくこれも安心して見れたが、役名が予備選でトランプと戦っているヒラリーだったのがちょっと興ざめ。キャンベル・スコットが迫真の演技でなりきった末期の白血病の青年が、同じ病気で亡くなった本田美奈子に重なってしまい涙が出た。君が元気な頃に、絞るような声で歌っていた「ミスサイゴン」(92年が初演)の舞台をボクは忘れない。

中学一年の同じクラスの双子の女の子の片方が白血病で亡くなって、しばらく空席となり教室にポッカリ穴が開いていたのを思い出す。残った子と印象がごちゃ混ぜになっており、50年以上前のことなのだから曖昧な記憶もしょうがないと思うが、赤い髪の色だけは覚えている。色の白さやおとなしい印象は、ずっとあとになってワタシが勝手に作り出した虚像なのかもしてない。残った片方はいま、どうしているだろうか。

「オペラ座の怪人」(04米)
同題の映画はほぼすべて、劇場ミュージカルは一度。映画では、エンリオ・モリコーネが音楽監督をやった98年版を凌いで、最新のこの作品が最高だと思う。主役、準主役の男優はミュージカルらしい大振りな演技。とにかくクリスティーヌ役の女優エミー・ロッサムが素晴らしい。撮影当時16歳だったとのことだが、可憐な歌の間に(演技か本質的なものかは不明ですが)女の本性が垣間見える表情もあり、ふたりの男を天秤にかけるこの役は適役。この映画は歌唱シーンが多く、歌唱もほとんどが本人がやっており、映画というより舞台に近い感覚。そして暗いシーンの多い映画では舞台より映像の広がりが感じられ、いつでも何回でも楽しめるDVDがあってよかったとつくづく思う。

初めて本物のミュージカルを見たのは、30歳頃。「コーラスライン」を舞台で。早朝に並んで買ったシューベルト劇場(42nd,N.Y)の当日券の半額チケットは最前列の右から2番目。踏み鳴らす舞台の床から舞い上がる埃も、舞台の下の幕間からオーケストラの熱演も見えた。そのあとも何度か海外で見たのだがが、言葉のハンディを超えられず、字幕つきの日本公演や劇団四季や映画に頼るようになった。最初は舞台じゃなければと、高いお金を払い、良い席にもこだわったのだが、CDに置き換えられたクラッシックコンサートと同じ。入場券を手に入れる手間、バカ高い値段、劇場への往復のわずらわしさ、前に座ったひとのアタマの影やとなりでおしゃべりをするカップル、声の調子の悪い歌手にお目当ての歌手が体調不良とかで、嫌いな代役・・・と、不便と不運に苛まれることが続き、DVDやネット動画に落ち着いた。もっとも、近年は、特に冬場は劇場や映画館でトイレや咳をガマンしながら長時間座っていることが辛いというのが本当の理由。

2016年4月18日月曜日

ロバの耳通信「アウトロー」

面白い映画にめぐり会えずちょっとイライラ。こういうときはとっておきの「私設映像バンク」を使うしかない。そのためにほんの10年ほど前にはメダマが飛び出す価格だった外付けの500ギガのハードディスクを買ったのだから。

「アウトロー」(Jack Reacher 12米)、トム・クルーズの主演というだけで面白いに決まってるのに、映画の原作(One Shot)がベストセラー作家のリー・チャイルドのジャック・リーチャーシリーズものなのだから、何度見ても飽きることがない。脇役だがロバート・デュバル、リチャード・ジェンキンスほかの名優が出ているとか、まあ、話しのネタは色々あるが、ワタシにとっての不幸はどうしても好きになれない英女優ロザムンド・パイクが主役級で出ていたことか。ロザムンドは「ゴーン・ガール」(Gone Girl 04米)でア
カデミー主演女優賞ほか世界中の映画賞をかっさらったほどだから、世間はワタシの好みとはかなり違うようだ。「ゴーン・ガール」も確かに面白かったが、この女優じゃない方がずっと良かったのではないかと今でも思っている。

「アウトロー」のヒーローである元米軍憲兵隊捜査官ジャック・リーチャーはなんといっても強く、カシコイ。原作も何度か読んでいるから、映画のなかでもゼッタイに死なないこともわかっているから安心して見ていられる。バスに乗ってどこかに去ってゆくところなんか、(高倉)健さんが寂しい背中を見せて去ってゆくシーンにも似て、実に格好いいのだ。

ロバの耳通信「他人がどう思うか気にしなければ良かった」

偶然見つけたサイトに、人が人生を終える時に後悔する20の項目というのがあって、そのいちばんに「他人がどう思うか気にしなければ良かった」とありハゲシク共感してしまった。
http://frieheit.com/home/2016/02/08/america80/

アメリカで80歳以上の老人を対象としたアンケートで「人生で最も後悔していること」は何ですか?の問いに対し、7割が「チャレンジしなかったこと」だと答えたと。うん、うん、そうだね。

勝手気ままに生きてきたように見えるらしいワタシだが、カミサンやムスメからは、KY、普通は危険予知なのだがここでは「空気を読めない」ヒトと、言われ続けてきた。ジブンではそれなりに、世間にも諂(へつら)い、言いたいことの半分も言えず、我慢の人生を歩んできたつもりなのである。最も気にしていたのが他人の目であり、それがワタシの行動のブレーキになっていたのではないかと。ブレーキがなかったら多分、犯罪者にでもなっていたのではなかろうか。ワタシの欲望には限りがなく、だいたいは反社会的であったような気がする。20の項目のほとんどに共感し、そうだ、その通りだと手をたたきたくなる。

あと、13-4年で、このアンケートの歳になるが、あと13-4年経っても、そうだそうだと共感しつつ、自分を少しも変えられずにいる自分を想像してしまう。

2016年4月12日火曜日

ロバの耳通信「채식주의자(菜食主義者)」



書評には「衝撃のために手で口をふさいで読まなければならない本」(オプラ・マガジン)とある「菜食主義者」(韓江 株式会社クオン 新しい韓国の文学 01 )。韓国の文学を読む機会は少ない。梁 石日や柳美里の作品はハナから日本語で書き下ろされたものだから韓国人の著作ではあっても、ちょっと違う。

とにかく怖い。平凡だったはずの妻が突然に菜食主義者になり狂ってしまうというだけのスジなのだが、その妻の変貌してゆく様が「ありそうで」怖い。元となった「蒙古斑」という作品では菜食主義者になった妻が植物になるというだけの展開が、この連作では妻の蒙古斑が義兄による性の対象となり狂気の世界に引き込まれてしまう。とても女性作家が書いたとは思われない生々しさだ。翻訳も韓国女性だが邦文がとても自然だから、怖さが行間のすこし黄味がかった紙から本を持つ手に這い上がってくる。映画化され「花を宿す女」という邦題で公開、DVD化されたようだが本と映画の両方を経験した方々からは「映画は(つまらないから)見ないほうが良い」と。

原作と映画の両方を見た岩井志麻子の「ぼっけえきょうてい」は本の方が格段に怖かった。映像は醜さを押し付けてくるから目をつぶれば良いが、本は自分を際限ない想像の世界に押しこめてしまうから、簡単には抜けられない。

最近読んだ本で最も怖かったのは「残穢」(新潮社 小野不由美)だが、こちらは小説の禁じ手である超常現象、つまりはオバケだったから信じるかどうかは本人次第ということで、せいぜい夜中にお便所の電気を点けるときの気味悪さくらいだったが、「菜食主義者」の怖さは日常に潜む狂気がすぐにでも「おきそう」なのだ。

2016年4月5日火曜日

ロバの耳通信「BABYMETAL」

BABYMETALのアルバム「METAL RESISTANCE」を入手できたので報告。

16-18歳の3人娘グループがヘビメタ風(・・ヘビメタじゃなくて、この風というのがいい)のバックバンドを従え、踊って、歌ってというなんともジジイには似合わないし、朝霞市の女子中学生誘拐事件の犯人が捕まったばかりのタイミングだから、ちょっとこの系統にはいるかとの誤解を受けそうだが、ワタシは決して(!)そうではない。とはいえBABYMETALはアイドルグループさくら学院(2010年~女子小中学生の集団)の卒業生だから、限りなくアヤシク見えるのだろうね。

スタジオアルバムの収録曲は「Road of Resistance、KARATE、THE ONE」など、新しめの曲は一通りそろっているから、ベストヒットの「イジメ、ダメ、ゼッタイ、メギツネ、ド・キ・ド・キ☆モーニング、ギミ・チョコ」を加えてマイアルバムを作ることに。

メギツネ
https://www.youtube.com/watch?v=cK3NMZAUKGw


バックバンドのBABYBONE(骨バンド)は当て振りだけだが、ライブの際の神バンドは白装束でビジュアルの印象が強いが、特にギターとベースは世界でも通用するレベル。ライブに行ってみたいが、ジジイが行ったらやっぱ、オカシイだろうな。

2016年4月1日金曜日

ロバの耳通信「レヴェナント 甦りし者」「スポットライト 世紀のスクープ」

「レヴェナント 甦りし者」(05米)
ワタシの予想に反して、アカデミー賞をもらったと。見どころは自然。登場人物の全員が暗く、映像もずっと暗いまま。差別、親子の絆、憎しみ、自然の厳しさなどなど伝えたいことは沢山あるのだろうが、太目で仏頂面のディカプリオは「ギルバート・ブレイク」(93米)で見せた繊細さも、「タイタニック」(97米)の溌剌さも、「ディパーテッド」「ブラッド・ダイヤモンド」(06米)の男らしさもこのレヴェナントでは見せてくれなかった。ディカプリオを好きな理由は端正な顔立ちの中にある気の弱さやあきらめ、ときどき覗かせる傲慢さといった、人がみんな半分は持っている「陰」のためなのだが、今回は全部押しこめたまま。チカラ入りすぎじゃないのかな。

サバイバル映画ではインデアンの女が極地をさまよう・・みたいな映画があって、どうしても題名を思い出せないから紹介できないのが口惜しいが、そちらのほうがずっと良かった。

レヴェナントの原作は「蘇った亡霊:ある復讐の物語」(マイケル・パンク The Revenant: A Novel of Revenge)とある(wiki)。読みたいが邦訳がない。誰か翻訳してくれないかな。

「スポットライト 世紀のスクープ」(05米)
こっちは予想通りのアカデミー賞。蔓延したカトリック司祭の性的虐待(実話)を題材にしたボストングローブの記者たちの物語で、タブーを正面から描いた作品はアカデミー賞好みか。

主役級で出演のリーヴ・シュレイバー(ナオミ・ワッツのダンナ)が良かった。個性のあるマスクなのに「ラスト・デイズ・オン・マーズ」(03米)以来いい役に恵まれていないのが残念。マイケル・キートンはいつも通りいい演技だが、「バットマンシリーズ」の印象が強くバッドマンのイメージと重なってしまう。昨年のアカデミー賞など映画賞総なめの「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」(14米)も元スーパーヒーローの役。悪役のほうが合いそうな顔をしていると、ワタシは思う。うん、悪役は好きだよ。

権力を持つものを新聞記者が追い詰めるという作品では「大統領の陰謀」(76米)、「スクープ 悪意の不在」(81米)、「ペリカン白書」(93米)などなど名作が多い。勧善懲悪が市井の人々の願いなのだから日本の新聞にももっと頑張ってもらいたいと思うこの頃。