書評には「衝撃のために手で口をふさいで読まなければならない本」(オプラ・マガジン)とある「菜食主義者」(韓江 株式会社クオン 新しい韓国の文学 01 )。韓国の文学を読む機会は少ない。梁 石日や柳美里の作品はハナから日本語で書き下ろされたものだから韓国人の著作ではあっても、ちょっと違う。
とにかく怖い。平凡だったはずの妻が突然に菜食主義者になり狂ってしまうというだけのスジなのだが、その妻の変貌してゆく様が「ありそうで」怖い。元となった「蒙古斑」という作品では菜食主義者になった妻が植物になるというだけの展開が、この連作では妻の蒙古斑が義兄による性の対象となり狂気の世界に引き込まれてしまう。とても女性作家が書いたとは思われない生々しさだ。翻訳も韓国女性だが邦文がとても自然だから、怖さが行間のすこし黄味がかった紙から本を持つ手に這い上がってくる。映画化され「花を宿す女」という邦題で公開、DVD化されたようだが本と映画の両方を経験した方々からは「映画は(つまらないから)見ないほうが良い」と。
原作と映画の両方を見た岩井志麻子の「ぼっけえきょうてい」は本の方が格段に怖かった。映像は醜さを押し付けてくるから目をつぶれば良いが、本は自分を際限ない想像の世界に押しこめてしまうから、簡単には抜けられない。
最近読んだ本で最も怖かったのは「残穢」(新潮社 小野不由美)だが、こちらは小説の禁じ手である超常現象、つまりはオバケだったから信じるかどうかは本人次第ということで、せいぜい夜中にお便所の電気を点けるときの気味悪さくらいだったが、「菜食主義者」の怖さは日常に潜む狂気がすぐにでも「おきそう」なのだ。
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