2017年1月13日金曜日

ロバの耳通信「左岸」


「左岸」(江國香織 08年集英社)

「右岸」(辻仁成 12年集英社文庫)に次いで、コラボ小説の片割れの「左岸」を。

「右岸」でストーリと登場人物を知っていたせいか、すんなり入って行けたかわりに「右岸」の次はどうなるのドキドキの期待感はなかった。「左岸」では女主人公茉莉の半生にスポットがあたっていいて、東京生まれの江國に、九州オンナをこうステレオタイプに描かれてしまったかと、悔しくなるくらいうまく描かれている。

「右岸」の九の哀しさは「左岸」の茉莉の逞しさと対比されよう。とにかく、「左岸」も、苦しくなるくらい切ないラブストーリーが博多弁で語られるのが、浸みた。

過去を拭いされず、ふとした瞬間に、失ったものたちのことを思い出し、壊れそうになります。”(「左岸」p544)とあった。自分もいつか、死んでしまうのであろうがこうして誰かの記憶の中に生きていけるとしたら、いいと思う。

若い頃は、何もない死後の世界が怖くて近寄ることも出来なかった。中年になって三途の河の手前で引き返したときは、家族や住宅ローンや、ほんの少しだけれど仕掛り中の仕事が気になっていて、これらを投げ出さずに済んだことに救急病院のベッドでホッとしたものだった。

「これまで」より、「これから」がずっと短くなって、やりたいこともあまりなくなった今、なにかあっても、誰かの記憶の中にしばらく残るならまあ、いいか、と。弱気になっているのは体調が良くないせいか、続く寒さのせいか。

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