2017年11月26日日曜日

ロバの耳通信「猿の惑星:聖戦記」

「猿の惑星: 聖戦記」(グレート・ウォー 17年 米)

猿の惑星シリーズでは9作目になるらしいが、第1作「猿の惑星」(68年 米)のラストで宇宙飛行士テイラー(チャールトンヘストン)が猿に支配された惑星だと思っていた海岸で自由の女神像を発見してそこが変わり果てた地球だと知り絶望するシーンは半世紀たった今でも忘れることができない。以降、シリーズ作品を何作かみたがどれも「イマイチ」の感があった、それは「猿」の特殊メイクの拙さか、「猿対人間」のステレオタイプ・ストーリーの稚拙さか。

「聖戦記」の主役は前作品と違い「猿」。主人公シーザー役のアンディー・サーキスとその特殊メイクが素晴らしかった。

アンディー・サーキスは俳優というより、「ロードオブザリング/ホビット」シリーズ(01年~ ニュージーランド・米)のゴラム、「キングコング」(05年 ニュージーランド・米)など今やモーションアクターで有名になったが私の好きな役者。あたりまえだが、「聖戦記」シーザーの目はアンディーのものだった・・ような気がする。それにしても、昨今の特殊メイクはすごい。

2017年11月22日水曜日

ロバの耳通信「スコーレ No.4」

宮下奈都「スコーレ No.4」(09年 光文社文庫)

「羊と鋼の森」(15年 文芸春秋社)で宮下の本を初めて読んでマイってしまい、この作家の本を読みたいと思っていていたら、カミさんが図書館に予約していたこの「スコーレ No.4」を読むハメになってしまった。「ハメ」としたのは、カタカナに加えNo.4と数字付きの名前の本で、しかも(偏見だがあまり、いい本に当たっていない)光文社ということで、とっかかりに悩んでいたが、読み始めたらすっかり魅入られてしまった。

巻末の解説を文学評論家の北上次郎が解説の半分を引用に費やし、”文章を味わいたい”(北上)と書いているが、本当に、この本のどこをとっても、丁寧で優しい。一人の女性が中学、高校、大学、就職と4つのステージを経ながら、家族や友人との優しい関係のなかで育ちながら、少し離れたところから冷静に、自らの心情を記録している。山も谷も、憎しみや嫉妬もないが、悩んでいたいつかの自分もこうだったんだと、いたく共感。手許において、何度も読みたくなるほどお気に入りとなった。


2017年11月21日火曜日

ロバの耳通信「ミッドナイト・エクスプレス」

「ミッドナイト・エクスプレス」(78年 米)

ハシシの持ち出しのためトルコの刑務所に入れられた主人公が劣悪な環境の檻の中でイジメにあい、はてはあやしげな裁判のやり直しでさらに30年の刑を宣告され、ミッドナイト・エクスプレス(脱獄)を試みるという物語。たくさん出てくるステレオタイプのトルコ人が皆、一様に太っていて、残酷で、強欲で意地がわるい。ハシシの持ち出しなんかするからだとも思うが、なんでもありの不条理な檻で一生を過ごすなんて考えただけでも恐ろしい。
トルコ当局がこの映画のトルコ人の描きかたに抗議したとのことだが、ガイジンなんてそんなものだろう。理解できないものは怖いのだ。日本に住むガイジンも日本と日本人に同様の気持ちを持っているだろう。
中国の仕事を始めたときに、言葉のわからない群衆の中に放り出され途方にくれる夢をよく見た。大声で罵られ、指さされて汗びっしょりで起きた布団のなかで、我が家にいることに安堵のため息をついたものだ。

オリバー・ストーンの脚本だから容赦ない。ただ、ノンフィクション小説の映画化といいつつ、脱獄はこんなのアリかよというあっけなさ。うーん。

2017年11月13日月曜日

ロバの耳通信「グランドマスター」「フラッシュバック」

「グランドマスター」(13年 香港)

予告編を見て以来、ずっと動画を探して やっと見つけた日本語字幕版、一度に見るのが惜しくて少しずつ楽しんでいる。ひと月前に中国サイトで見つけた中国語とスペイン語の字幕つきでは、大好きな トニー・レオンとチャン・ツイーの意味不明のやり取りの意味が分からずもどかしい思いをしていた。オープニングのトニー・レオンの格闘シーンは土砂降りの 雨の中。高速カメラで捕らえた雨粒が美しく、ここはセリフもなく楽しめる。PCだけれども画像はキレイで、重低音仕様のJVCのイヤフォンで、暗い部屋で見れば映画館。使い勝手の良い動画アプリのおかげで、いい所を何度でも楽しめる。格闘シーンをスローにしたりして、牛のように反芻しながら見ている。

当時34歳のチャン・ツイーは十分に妖艶 で、いくつも違わないはずの韓国女優ソン・ヘギョの気高さと競っていて魅力的。私のチャン・ツイー好きはチャン・イーモウ監督の映画「初恋のきた道」(99年 中国)以来 のスジガネ入りなのだが、韓ドラ「その冬、風が吹く」(13年)で好演したソン・ヘギョにもちょっとまいってる。

「フラッシュバック」(08年 英)

007 のダニエル・クレイグが自分のために作った映画。ダニエルは落ち目の男優の役。「CSIニューヨーク」(04年~ 米TV)に出ていたクレア・フォーラニやオリヴィア・ウィリアムズなど など、魅力的な英女優がワキを固めていて楽しめた。英映画らしく、ロングショットの海辺や古い家が美しく、海の近くで育ったわけでもないのになぜか郷愁をそそられた。青春の苦い思い出の回想シーンもなんだかなつかしい。秋の夜じっくり楽しむ映画か、涼しくなったらまた見よう。

2017年11月8日水曜日

ロバの耳通信「さよなら、海の女たち」

「さよなら、海の女たち」(88年 椎名誠 集英社)

海のそばで生まれ(と、聞いた)、海のそばで子育てをし(カミさんが)、早朝には遠い汽笛が聞こえるところに住んでいる私には、海には強い思いがある。

図書館の棚の青い背表紙とタイトル、著者名をみて「発作的」に借り出してしまった。

いつものシイナの本は寝っ転がって読むにに最適。

どれも、伝えられない思いがありもどかしく感じながらもそのままにして、いつまでも気にしてしまったり、ずっとあとになって思い出しすこし辛くなる、そんな短編集だった。もっとも印象に残ったのが、最終話の「三分間のサヨウナラ」。女のコと付き合いたくて、映画を撮るという口実で誘い失敗。ずっとあとにそのコからの手紙が来るというだけなのだが、自分にもそんな経験があってシミジミ思い出してしまった。

雨の日のウインカーの動きを、カマキリの腕に例えたところもよかった。シイナの物語にはよく昆虫とか魚の話がでてきて、「秘密宅急便」では”坂道を真面目な昆虫のように一歩一歩真剣にのぼっていった”とか、なんだか和む。

シイナの本は体調がイマイチだったり、ちょっと不安があったりしたときに「第3類医薬品」くらいの役に立ちます。

2017年11月3日金曜日

ロバの耳通信「her/世界でひとつの彼女」

「her/世界でひとつの彼女」(13年 米)

手紙の代書屋を職業とする寂しい男とオペレーティングシステムサマンサの恋物語。耳に突っ込んだイヤフォンの中から聞こえる彼女は、人工知能のOS。実態はないから、キスもセックスもなし。字幕版の彼女の声はすこしハスキーで馬鹿笑いも大声もださないスカーレット・ヨハンソン、とてもセクシー。なんでも話せて、いつでも相手をしてくれる。まいったなー、これはワタシの理想じゃないか。

理想の彼女は何でも言うことを聞く女でも、いつでもサセてくれる女でもない。エッチな関係がないのだから、彼女を友人と置き換えても同じだ。背負うべき義務もどんなメンドウな責任もない。

恋に落ちたサマンサのことを打ち明けられたガールフレンドは、彼の新しい恋を狂気と言う、離婚手続き中の妻も。うん、こういうのって女にはわからないだろう、ゼッタイ。とにもかくにもこの映画は恋愛映画だから、理不尽な別れが突然やってきて、寂しい男はまたひとりに戻る。結局、理想の恋なんてないってことか。

あ、それとこの映画の声だけのサマンサが、ワタシも好きになった。サマンサが恋しい。