2017年12月11日月曜日

ロバの耳通信「恥辱」

「恥辱」(07年 カーリン・アルヴテーゲン 小学館文庫) 

なんだかイヤらしい名前の本で図書館の貸出申込みの際ちょっと気になったが、図書館のオジサンはいつものようにシレっと貸してくれた。当たり前か。直訳は「恥」だが、同名で有名な本がある(89年 サラマン・ラシュディ 早川ノベルズ)からか。「隠し事」くらいにしてほしかった。

カーリン・アルヴテーゲンはスウェーデン版「パトリシア・ハイスミス」といったところか。うん、もっと怖いが。
「喪失」(04年 同 シリーズ2作)が私にとっての初見。暗い物語で、奥に行けばゆくほど恐ろしいものが出てきて、帰りの道も分からなくなり途方に暮れてしまって、この一作でオシマイにしていたのが約10年前。まだ、自分に力が漲っていて、怖いもの見たさを探さなくても十分怖いことが溢れていたから、それ以上を求めなかったのだろう。先がそう長くなくなった今、畏れや、もろもろへの躊躇がなくなってきたのは良いことか、悪いことか。

「恥辱」(シリーズ3作)は兄の死に囚われた完璧主義者の女医がオカシクなってゆくメインストーリーに加え、肥満のためヘルパーの力を借りなければ暮らせなくなった女の物語で共通する「孤独」が限りなくて怖い。著者も若いころに兄を事故で亡くし鬱に苦しんだというから、感情描写は真に迫る。

「裏切り」(06年 同 シリーズ4作)の主題は表題そのもの。2組のカップルが不倫の疑いで憎しみ合うという出口のない物語。圧巻は夫の妻への一言「きみといても楽しくない」、こう言われたら確かに返す言葉はないであろうし、私なら途方にくれるに違いない。シリーズ1作の「罪」(05年)、シリーズ5作の「影」(9年)があるし、ほかにも何作かあるらしいが、読んでゆくほど棘(トゲ)が刺さってゆくような物語は疲れるから、しばらくお休み。このシリーズを訳している柳沢由美子の訳のうまさには感心。女性原作+女性翻訳の組み合わせは、私にとっては鬼門なのだが、アルヴテーゲンと柳沢は相性も良いらしい。

柳沢の翻訳で秀逸だと思うのは「笑う男」(05年 ヘニング・マンケル 創元推理文庫)。下手な翻訳のために面白い作品がワヤになった作品を知っているが、柳沢は実にうまい。ベストセラーになった「笑う警官」(13年 角川文庫)など「マルティン・ベックシリーズ」「ロセアンナ」から「テロリスト」まで マイ・シューヴァル&ペール・ヴァールー 共著)も柳沢の翻訳。

ずいぶん昔の話だが、このマルティン・ベックシリーズ」の英語版の何冊かを辞書片手に苦労して読んだ覚えがあり、当時仕事で付き合いのあったスウェーデンの人にマイ・シューヴァル&ペール・ヴァールーという作家を知っているかと尋ねたら、破顔一笑、スウェーデンではとても有名な作家で、日本人がなんで知っているんだと、ハグされるほど喜んでもらえたのを思い出した。
 

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