2018年2月18日日曜日

ロバの耳通信 花粉の日の「オイアウエ漂流記」「あなたが愛した記憶」「星への旅」

乱読ではあるが好みに合わない本は最初から避けるから、大きな失敗をすることは少ないが、どしても好きな作家で本を選ぶ傾向にある。面白くない本に時間を遣ってしまうとなんだか損をした気がするから。で、花粉が飛び出して出かけたくない今週のために荻原浩、誉田哲也、吉村昭を選んだ。

「オイアウエ漂流記」(02年 荻原浩 新潮文庫)

若年性アルツハイマーを扱い渡辺謙主演で映画化された「明日の記憶」(07年 光文社文庫)、クレーマー対策室に左遷された会社員の物語「神様からひと言」(05年 光文社文庫)、ほんわか家族を描いた「愛しの座敷わらし」(11年 朝日文庫)など、いつも違う切り口で「本を読む喜び」を感じさせてくれた荻原だから、普段はあまり読むこともないユーモア小説らしかったが、大好きな「無人島サバイバル」を題材としていたので読んでみた。登場人物の多彩なキャラや、コミックのようなストーリー展開が面白かった。なにより、「サバイバル」について、まあそんな機会もないだろうが風雨のしのぎ方やら椰子の実の汁を飲む方法とか、使えそうで面白かった。

「あなたが愛した記憶」(15年 誉田哲也 集英社文庫)

警察小説第一人者の本田(姫川玲子シリーズ「ストロベリーナイト」(08年 光文社文庫)ほか)だが、この「あなたが愛した記憶」を読むと、ホラー作家としても一流であると強く感じる。興信所を営む男が殺人罪で逮捕され、弁護人から真実を明かせと詰め寄られるシーンから始まる。映画だと〇年前と字幕が入るように時間がさかのぼり、男が男の実の娘だと称する女子高生から人探しの仕事を受けるところから謎解き。
親の遺伝子がそのまま子供に伝わり、性格や好みなどの先天的なものだけでなく、体験や記憶などの後天的なものも引き継がれるため、男が悪の種子ともいえる1歳児を殺すーという結末は最後近くまで明かされない。シナリオの展開が面白いから、これは映画になってるなと思っていたら、まだのようだ、多分。連続殺人とか、両手の親指を切断とか血生臭いところがたくさんあるから、韓国映画に合うか、な。

「星への旅」(73年 吉村昭 新潮文庫)

短編集。表題になっている「星への旅」は太宰治賞を獲っているということで期待をしていたが、吉村らしくない気がした。発表が65年(「展望」)だから、初期の作品か。偏った私見ではあるが、語り手が定まらず登場人物の特徴付けも十分ではなく、ほかの5作も得るところがなく期待外れであった。記録文学の雄とされる吉村作品では「ふぉん・しいほるとの娘」(93年)やら「破船」(85年)、「破獄」(86年)、「仮釈放」(91年 以上 いずれも新潮文庫)など、「どれも」緻密かつ骨太の文章がワタシを決して欲求不満にさせることはなかったのに。ちと、残念。

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