「癌は呪いだ」と、医者の言うことよりずっと説得力があった。持病のせいで普段から医者との付き合いもあるし、多くの情報にも触れていて「肝心なところでは全くアテにならない医者の言うこと」に辟易しているからか、田口がシャーマンのケのある主人公の斐川医師の口を通して言う、ガンについての説明は何より丁寧でよくわかった。医者による治療(ケア)が経済の上に成り立っていて、救い(キュア)は自らの節制にしか見いだせない(というようなこと)も自分なりに理解できた。世の中の半分のひとがガンで死ぬというし、たぶんワタシや家族もガンで死ぬだろう。そんなことを思って、ガンがすごく怖い時期があった。

「キュア」の中でも精進したり、信心をしていても結局は死ぬ、まさに呪いだ。砂糖の摂取がよくないとか、玄米食が良いとか色々な知見も紹介されるが呪いからは逃げられないようだ。
倫理学者の竹内誠一が解説を書いていて田口の勉強熱心を誉め、その中に田口が自分の父親のガンの発見から看取りまでやったと。また、巻末の参考文献の層の厚さにも田口がこの作品にどれだけ力を入れたかがよくわかる。ただ、田口は何を言いたくてこの作品を書いたのだろう。
「冷たい夏、熱い夏」(90年 吉村昭 新潮文庫)

たまたま、体調が悪いときにこの小説を開いていたら、そういう暗いの読んでると”うつる”からヤメロとカミさんに窘(たしな)められた。”深淵をのぞく時、深淵もまたお前をのぞいているのだ”(ニーチェ)ということか。
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