「追憶」(17年 邦画)
不幸な育ちの3人の幼友達が、刑事、被害者、容疑者(岡田准一、柄本佑、小栗旬)として邂逅する。青島武のオリジナル脚本だという。そうか、脚本先にありきのせいだったのか、原作のないストーリー展開のあちこちの綻びが気になった。主人公は刑事役の岡田なのだが、その心情を描きだすサブストーリーに、岡田の妻役で流産の罪悪感を引きずる長澤まさみ、岡田の母役でアルコール中毒のりりィ、幼い3人の世話をした喫茶店の女主人の安藤サクラなどなど、多くの芸達者に役を持たせたために、饒舌な脚本になったのかもしれない。ただ、監督降旗康男、撮影大村大作、音楽千住明というこれ以上ない組み合わせのおかげで、いい作品に仕上がっている。
題の「追憶」は恋愛映画「追憶」(73年 米)やバーブラ・ストライサンドの歌を思い出してしまう。なんだ甘すぎるようで、そぐわない。やはり「記憶」のほうがいいような気がする。抒情に走りすぎ「ゆきわり草」(3人が育った喫茶店の名前)にしなかったのはいいと思うが。
不幸な育ちの3人が成長して犯罪に絡むというストーリーはいかにも韓国映画にありそうで、韓国映画なら主人公に思い切りスポットを当てニヒルな辣腕刑事、幼友達は極悪犯罪人という設定か。陰湿で暗めのクライム作品にしてくれそうな気がする。もちろん、邦画のハッピーエンドはナシだ。
「追憶」の3人の子役たちの演技が良かったよかったので、この映画を見る少し前に読んでいた本の3人姉妹の物語のつまらなかったことを思い出してしまった。
「思いわずらうことなく愉しく生きよ」(07年 江國香織 光文社文庫)。3人姉妹をステレオタイプに描きすぎたために、どの女性にも魅力や共感を覚えず、読み進めるうちに情景や時間の流れまでもが曖昧になり、半分も行かず投げ出してしまった。カミさんに言わせれば「女の」流行作家なんてそんなもの。男の感覚では受け入れられないのでは、と。うん、そういう十把一絡げで説明されると納得しにくいが、当たっているかもしれない。しばらくは江國を遠ざけるだろう。
人は皆違うけれど、人は皆似ている。ソレを書いてほしいと思う。
「細雪」(55年 谷崎潤一郎 新潮文庫)は4人姉妹の物語だが、こちらも性格の異なる4人がそれぞれに魅力的に描かれ、多感な学生時代によくあんな長い本を読んだものだと。最初に読んだのは「谷崎潤一郎全集」(58年 中央公論社)の函入りだった。学校のある地方都市の大きな書店は、入って右奥に全集モノの棚がありほぼ毎日そこに通い立ち読みしていた記憶があり、そのあと文庫本を持っていた記憶もあるから、谷崎がお気に入りの作家であったに違いない。カミさんに言わせると谷崎の作品は「アヤシイ」と。うん、「春琴抄」「刺青」「卍」などいわゆる耽溺モノで面白かった。だからこそ、毎日の立ち読みを続けられたのだ。
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