2018年6月10日日曜日

ロバの耳通信「神の火」

「神の火」(高村薫 95年 新潮文庫)

高村薫を初めて読んだのが「李歐」(99年 講談社文庫)。男らしい(後で、女性の作家と知る)硬い文章のハードボイルドが気に入ってその後いくつかチャレンジしたのだが、読み出しの数ページで挫折し、最後まで「なんとか読んだ」のは直木賞をもらった「マークスの山」(11年 新潮文庫)くらいか。

「神の火」も、出だしのとっつきにくさで挫折しそうになったが、裏表紙に原発テロを主題としているとあったのでかなり我慢して読み進めるうちに、主人公の元原子力技術者がロシアのスリーパーという設定が面白く、どんどん嵌っていった。下巻の半分を過ぎた頃からは、公安やCIAとの駆け引きや、時系列に進む原発テロが「怒涛の如き」展開でラストまで一気に突っ走れた。

スパイミステリーは本も多く、元外交官の佐藤優著作を読むことで想像がつくし、本当のところは知りようがないからどうとも書けるのだろうが、原子炉の構造設計やら原子力発電設備のディテールやらは、どうやってこんなに細かなところまで書けるのだろうか。判断はつかないが、実にそれらしく真に迫ってくるのは著者の努力によるものではないか。

昔この分野で仕事をしたこともある元技術者の私も脱帽。

高村薫の再チャレンジを決意。

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