「マネーロンダリング」(03年 橘玲 幻冬舎文庫)
うーん、面白い本だったなと背表紙を見ると水色にマンモスマークの幻冬舎文庫。ハズレないな。一時は図書館の文庫本の棚はこの水色とマンモスマークを探して借り出していたから、新刊以外はだいたい読み通したつもりでいたが、たまにこうして網の目から落ちていたらしい未読の本を見つける。「マネーロンダリング」は、最初のところは見覚えがあったから、何かの事情で途中放棄していたのかもしれない。今回は一日で読んでしまった。
香港を舞台にした金融コンサルの物語。金融コンサルといっても実際は脱税相談にくる金持ち日本人相手のゴロみたいなものか。香港での口座開設や法人登録、タックスヘブンを活用した税金回避の方法など、その方面に全く明るくないワタシに真偽の判断はできないまでも、よくこれだけのことをかけるものだと驚き。ワタシも仕事ではあるが香港を何度も訪れていたから、橘の描く猥雑で暑い香港の描写を懐かしく感じたりした。
主人公のほかに、謎の美女、興信所の腕利き、ヤクザ、元自衛隊員のチンピラ、私書箱会社のオヤジ、フィクサーなどなど多彩の人々がその道の「プロ」として、丁寧に描かれ、いつのまにかこの世界に違和感を感じなくなってしまうのが不思議。脱法や脱税ばかりでなく二重国籍やらパスポート認証やらの知識はどこかで役立つかもしれないと、著者が登場人物の話として語ってくれる金融ウンチクもシッカリ頭に入れてみるが、金額もスケールもおおきすぎて市井のワレワレに実際役立つとも思われない。が、とにかく面白かった。
「ロスト・ケア」(15年 葉真中顕 光文社文庫)
介護の問題を取り上げ、日本の介護の実態を社会の穴と言い切ってしまっている。その穴に落ちてしまい、老人介護に追われ自らもが困窮者になってしまった多くの人たちのために<彼>が始めたのが<喪失の介護>(ロスト・ケア)。つまりは、手に負えなくなった被介護の老人たちを毒殺することで、残された家族を救おうとする。そうして殺した老人は42人。検事である主人公ともう一人の主人公<彼>が語る介護の実態は生々しい。延々と語られる日本の老人介護制度の矛盾や個人の事情にウンザリしてしまう。もちろんここに答えがないからだ。だから、どうしようもない無力感に拉がれる。多用される聖書の引用文が空しい。なにもできていない神を呪っているのかとも思う。考えさせられる作品ではあるが、カケラの希望もないから、読んだあとの行き場のない不満と不安のせいで暗くなる。
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