2022年5月5日木曜日

ロバの耳通信「トイレのピエタ」「誰も知らない」

「トイレのピエタ」(15年 邦画)

まいった。こんなにいい映画を見てなかったとは、と見終わったときに悔しかったが、見ることができてよかった。タイトルだけは映画雑誌か何かで見覚えがあったのだが、動画サイトの中に偶然見つけ、連休の最終日、出かけたくない日の午後のプライベート映画会になった。

題名は、手塚治虫が亡くなる前に書いたという日記の”トイレのピエタのアイデア。癌の宣告を受けた患者が、何一つやれないままに死んで行くのはばかげていると、入院室のトイレに天井画を描き出す・・”。だと。

主人公のステルス性胃がんで死んでゆく元美大生のフリーター役をロックバンドRADWIMPSの野田洋次郎が演じていて、そちらはセリフも少なく、もともとそういう感じのヒトらしく自然な寡黙さも伝わってきて、役にピッタリだったが、なによりこの映画で圧倒的な存在感があったのが女子高生役の杉咲花。テレビドラマなんかでたまに顔をくらいで、ほとんど知らなかったのだが、この映画のために生まれたのではないかと思えるくらい、演技もセリフも光っていてた。病院で主人公の同室のがん患者の役のリリー・フランキーが、いつもの飄々とした感じが適役。音楽も控え目のピアノ曲がセリフのジャマをすることなく好感。エンド近くでタテ字幕とともに流れ出す主題歌(「ピクニック」)も良かった。

wikiで手塚治虫の娘さんがこの映画を試写会で見て、手塚の胃がんの苦しみが描かれていないと、タイトル名にクレームをつけたとあった。映画の中で主人公が病に苦しむところは確かにほとんど見なかったが、治る見込みがないと医師に告げられ故郷の草むらに立ち、いろいろな思いの中に咆哮するシーン、そのあと主人公にアパートのトイレの壁にペンキでピエタを描かせ「生を感じた」と言わせたところ、女子高生に「生きろ」と叫ばせたことに、この映画の強い意志を感じた。

「誰も知らない」(04年 邦画)

実際にあった「巣鴨子供置き去り事件」(88年)を題材に、いま流行りの是枝裕和監督が作ったと(wiki)。母親(YOU)に捨てられた4人の子供たちの最年長の柳楽優弥が都会で子供たちを率い、生きてゆく。本当は悲惨な出来事を、淡々と描いているのは、同じ是枝監督による「万引き家族」(18年)の感覚と似ている。是枝監督のほかの多くの作品と同じく、家族に焦点をおいている。ただ、悲惨な家族を描きながらも、泣きに訴えることはない。
この「誰も知らない」では、長男と心を通わせる少女役の韓英恵を私は初めて知った。この映画では暗い表情の不良中学生を演じていて、こういう役に私は弱い。いっぺんにファンになった。

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