2019年4月15日月曜日

ロバの耳通信「FOR RENTー空室ありー」「霞町物語」

「FOR RENTー空室ありー」(12年 森谷明子 幻冬舎文庫)

表紙のデザインは好きだ。題もいい。少年の肩についていた痣の謎解きから始まる、いい出だし。ただ連作の形を意識しすぎたせいか、各話の視点がコロコロ変わる。登場人物の数は多くはないのに、セリフに年齢差も男女差もないためこれって誰が誰と話してるのかとか、混乱する。ヒトの名前を憶えるのが不得意なワタシは、よくメモ用紙に登場人物の名前と関係などの図を書いて整理しながら読み解いていったのだが、これに時代が加わるから年表まで必要となった。
複雑な家庭環境とそのために起きた悲劇を解き明かすというスジなのだが、読者にソレを解かせるのでなく、登場人物たちがとんでもないくらい冴えた推理力で解き明かすという形をとっている。だから解説ばかりになっていてダレる。ダレてくクドクなっているから最後に明かされるナゾの部分に感動がこない。作られすぎた感動物語を細かに説明されても共感できないのだ。
映画にしたらいいと思う、ただし練り直した脚本付きで。初めての森谷明子のこの作品だけで何かを言うのはイケナイとは思うが、ミステリー作家には向いてない。読者は真実に自分で近づく快感や、騙されて悔しがることを望んでいるのだ。最初からイカサマの手口を丁寧に説明しながら見せてくれる手品師を面白いとは思わない。

「霞町物語」(00年 浅田次郎 講談社文庫)

写真屋の息子が高校の友人たち、家族そして恋の思い出を語る。8編の連作はそのひとつひとつが珠玉である。作者とほぼ同じ頃の青春を送ったワタシには、すべてが自分の思い出とつながり、甘酸っぱい。深窓の令嬢との恋物語もなかなか良かったが、元芸者の祖母、頑固一徹の祖父を語る浅田が彼らを惜しむ思いがワタシにも伝わってきて涙を堪えて読んだ。裏表紙の解説には、著者が初めて書いた自身の思い出だと。
一度しか読まないのはもったいない気がする、そんなお気に入りの本になった。

0 件のコメント:

コメントを投稿