「虐殺器官」(10年 伊藤計劃 ハヤカワ文庫)
何度この本を買ったことか。挫折しては、友人にあげたり、本棚の整理の際に捨ててしまったり。コロナ騒ぎで、図書館もBook Offも使えず、近年は新本を買うこともほとんどなくなっていたから、本棚はみるみるスキマだらけ。富にある電子書籍も旧式のタブレットでは読む気にもなれない。で、また「虐殺器官」に何度か目のチャレンジ。
高いハードルだった書き出しを過ぎてしまうと、一気に読み進んだ。手許にある「虐殺器官」は7刷(10)年。初刊は07年というから、書かれてから10年をとっくに過ぎているのだが、書かれている世界は最新のIT本にも引けをとらない。面白さに一気に読んでしまい、味わうヒマもなかったから、落ち着いて再読することにした。
物語は米の情報軍に所属するクラヴィス・シェパード大尉が、テロリストと戦うというだけの話なのだが同僚や敵と交わす会話が啓示的で深みがある。インテリジェンスにあふれるそれらを反芻しながら読み進める楽しさにハマった。
映画にしたら面白いだろうと、wikiをチェックしたら米国や韓国で実写版で映画化が検討されている(16年)との書き込みがあったが、反米思想たっぷりだから米国での映画化は無理だろう。韓国に期待するしかないか。
タイ語字幕付きの劇場版アニメ(邦画)をYoutubeで見ることができたが、ゼンゼンつまらなかった。インテリジェンスあふれる会話をじっくり楽しむには手抜きだらけの脚本で作られたストリーミング動画は似合わないし、主語が自分か他人でかなり違った定義になる思想や概念みたいなものを、ヤングアダルト向けのアニメで表現することの難しさを想像してしまった。オトナの小説ですよ、これは。
<追記>本文を読み終えて体の力が抜けてしまって、飛ばしてしまっていた大森望(翻訳家)による解説文があり、伊藤の母親が息子の臨終の様子を少し書いている。死ぬ前に大好きなカレーを少し食べた話、泣いてしまった。もう、伊藤計劃の本が読めないのが悲しい。悔しい。2020/05/10
0 件のコメント:
コメントを投稿