2021年1月27日水曜日

ロバの耳通信「ミッドナイト・スカイ」「ウインド・リバー」

 「ミッドナイト・スカイ」(20年 米)原題:The Midnight Sky


ジョージ・クルーニー監督・製作・主演のSF映画。原作(「世界の終わりの天文台」リリー・ブルックス=ダルトン)も良いのだろうが、とにかく映像が美しい。宇宙や宇宙船の内外の映像がホンモノのようだ。最もホンモノをみたことがないのだが、画像の広がりに奥行が感じられ、ネット動画でも全く違和感がない。音楽がフランスの巨匠アレクサンドル・デスプラ。長いタイトルバックの間、ひとりコンサートのように楽しめた。

ストーリーは2050年頃、大気汚染で人々が地下やほかの星に避難する中で、重い疾病のため北極の天文台に一人残った科学者が、地球に帰還する宇宙船に地球の危機を知らせるというもの。登場人物が少なく、セリフも抑え気味。ハリウッド大作とは趣きが違うが、感動のNetflixオリジナル。

役者としてのジョージ・クルーニーを見直したよ、格好いいプレイボーイだとおもっていたけど。


「ウインド・リバー」(17年 米)原題:Wind River


銃撃シーンが有名で、ソコは何度も動画サイトで見ていた有名な作品のだが、通しで見たことはなかった。コロナのせいですっかり毎日が土砂降りの日曜日状態になってしまい、今日はゆっくり見ることができた。

舞台はワイオミング州ウインド・リバーというインディアン居留地。主演のハンター役のジェレミー・レナーが良かった。雪以外は静けさしかないという極寒の山岳地帯のトレーラーハウスに暮らす季節労働者やインデアンの暮らし。

監督・脚本は「ボーダーライン」シリーズ(Sicario15年~ 米)で国境警備官の追われる越境メキシコ人たちの貧しさと哀しさを見せてくれたテイラー・シェリダン。抑えたセリフ、哀しみを映した瞳、唇だけで悲しみを表現して見せた助演の新人FBI捜査官役のエリザベス・オルセン。まいった。コマ切れショットと画面から飛び出すくらいの音楽で勝手に観客の頭の中に侵入することが多い、昨今のはやり映画には見られない奥ゆかしさ。とはいえ、感情の波風は充分に立たせてくれるのがこの映画だ。コロナが落ち着いたら、DVD借りてきて、ウチの大きなテレビで見ることにしよう。


2021年1月23日土曜日

ロバの耳通信「スマホを落としただけなのに」 「プロメテウス・トラップ」

コロナのせいで出かけることが少なくなり、本と動画浸け。うー、いかん、いかん、オタク生活。カラダを動かさねば。
雨が降っている。天気予報によると、明日は雪だろうと。うー、出かけられないストレス。

「スマホを落としただけなのに」
(17年 志駕晃 宝島社文庫)

彼氏が落としたスマホから恋人のSNSが乗っ取られニセ情報で自分の忌まわしい過去まで明かされてしまうハメにというのがこの小説の本ストーリー。ニセ情報で騙され殺された女性たちを殺した連続殺人犯を捜査するというのが副ストーリー。副ストーリーの雑さはきにかかったものの、拾ったスマホのパスワード解除方法をはじめ、乗っ取りの方法など具体的で本ストーリーは興味深く読めた。すでに映画化(18年。続編も)されており、続々編が近く公開されると。

すこし心配、SNS乗っ取りの方法などについて、具体的に手口が紹介されたりすると、悪用されそうかな。

「プロメテウス・トラップ」(17年 福田和代 ハヤカワ文庫)

同じタイミングで読んでいた「スマホを落としただけなのに」のスマホ情報やSNS乗っ取りの手口が具体的なのに対し、凄腕のハッカーがFBIの捜査に協力するというストーリーなのに手口の説明が抽象的な説明ばかり、著者にはシステムエンジニアというから期待していたのに。システムエンジニアといっても、範囲広いからしょうがないかとも思うけれども、ハッキングについてもう少しシロートわかりする説明してくれたら盛り上がったのにと思う。

日本人がアメリカで暮らすというところばかりにイロがつきすぎて、さらに臨場感なくしたかな。面白そうなスジ立てなのに、進行のつまらなさに半分も行かないうちに挫折。

2021年1月18日月曜日

ロバの耳通信「太田漢方胃腸薬と韓国映画」新型コロナ肺炎まっただなか

「韓国映画」
体調が優れないときは太田漢方胃腸薬を飲む。安中散加茯苓末という成分が入っていて、これが気を静める働きがあるとカミさんが言う。イライラするとき、胃の調子が悪いとき、血圧が上がり不安を感じるときとか、何にでも太田漢方が我が家のルールになっている。

いい映画に当たらなくて、欲求不満になったときは「韓国映画」がいいと信じている。昔ならDVD屋に走ったのだろうが、今はほとんどの作品がネット動画サイトで見れる。かなりマイナーな作品でも、韓国の動画共通サイトにはいれば字幕は英語や中国語が多いのだけれども普通に見ることができる。


便利な時代になったのは嬉しい。そうして、散々見てきた韓国映画だが、寒い日が続き暖房をつけた部屋でまったりしたい時に最適。韓国映画に共感を憶えることが多いのは、遠い祖先が多分一緒で、琴線というか心情の奥みたいなところが同じDNAで構成されているせいに違いない。
で、とりあえずマイベスト、聞いてくれ。

「わたしの中の消しゴム」(04年)韓国映画にハマった最初がコレ。若年性アルツハイマーにかかったソン・イェジンがキレイで哀しかった。
「コインロッカーの女」(15年)キム・ゴウンが演じる捨て子のイリョンの不幸な生い立ちに衝撃。韓国の裏社会を「感じる」ことができるノエル作品。
「アジョシ」(10年)アジョシはおじさんの意。寂しい少女ソミ(キム・セロン)と元諜報員のテシク(ウォンビン)の交流は暗闇の中で輝くマッチの火。
「シルミド」(03年)金日成暗殺作戦を担い厳しい訓練を受けながらも、作戦中止のため悲劇の最後を遂げる韓国特殊部隊を描いた歴史映画。
「ハイヒールの男」(14年)性同一性障害者の刑事ジウク役のチャ・スンウォンがタフでニヒルで優しくて良かった。
「泣く男」(10年)誤って少女を殺してしまった殺し屋ゴン(チャン・ドンゴン)のアクション映画
と、ここまで書いてきて、ああ、アレがリストに入っていない、コレを忘れてはならないと今まで見た多くの作品が次々に浮かび収拾がつかなくなったのでやめることにした。

思い出した、「わたしの中の消しゴム」の頃に同じくハマったのが韓国ドラマ「冬のソナタ」(02年~、日本公開は03年~)あの頃のチェ・ジウはキレイだった。ドキドキするほど可憐に見えた。私がただの韓ドラミーハーだった時代。

2021年1月14日木曜日

ロバの耳通信「37seconds」「惡の華」

「37seconds」(20年 日米)

題名は主人公のユマが誕生の際37秒間呼吸停止した影響で脳性まひになったということから。
車いすが離せない23歳のユマは人気漫画家のゴーストライターとして母親の力を借りて生きている。ゴーストライターに満足せず、アダルト漫画出版社に原稿を持ち込んだが”(性の)経験がない漫画では伝わらない”と指摘され、”経験”を積もうと努力するが失敗。ユマから子離れできない母親を重く感じたユマは父親を頼るが、すでに父親は亡くなっていていて叔父からユマには双子の姉が居てタイで教師をしていることを知らされ、タイに旅立つ。
主演は自らも障がい者の佳山明が明るく頑張っていて、余計に泣けるが、お涙頂戴の映画ではない。

「惡の華」(19年 邦画)

原作は漫画<別冊少年マガジン>(09年~14年 講談社)だと。主人公の男子中学生が同級の美少女の体操服を盗み、それを同級生の女子中学生(仲村:玉城ティナ)に変態だ、ドクムシだと脅され、ドレイのような扱いを受けるが高校に進学しても忘れられず、地方に住む仲村を訪ねる。
映画評では、中学生から高校生まで演じた主人公役の伊藤健太郎が良かったとあったが、主人公を罵り倒す玉城ティナの強烈な存在感に完全にまいってしまった。主役を張った「地獄少女」「Diner ダイナー」(ともに19年)も好評とのことで、これも見たい。うーん、マゾの気があるのだろうか、サドの美少女に弱い。ただの変態ジジイか。

2021年1月11日月曜日

ロバの耳通信「灰の男」今日は早く休もう。

新型コロナとの付き合いも凡そ一年となる。毎日増え続ける感染者数の発表をスマホで追い、一喜一憂しながら暮らしてきた。この数カ月、感染者数は途方もない数字になっているが、息をひそめていること以外、なすすべもない。恐怖や閉塞感からウツになっている人が多いとの報道に、そりゃそうだろうと。ワタシもそうだよ。
具体的な提言は何もなく、いつも語尾が小さくなって、結局何を伝えたいのかもわからない日本のトップのテレビ会見を見ても、最近は腹も立たなくなった。

ただ、家族や親しい人たちの無事を祈ることぐらいしかできない自分が悲しい。明日も寒いそうだ。早めに暖かな布団にはいり、悪い夢を見ないで眠りたい。


「灰の男」
(04年 小杉健治 講談社文庫)

600ページを超す大作である。講談社文庫だから活字も印刷もキレイだし文章も自然で衒ったところがないからそう、負担にもならないし、近年読んだ本のなかでは一番の量と「質」であった。登場人物も多く、とても覚えられないが主軸となる何人かがキッチリ描き分けられているから混乱は少ない。結局キーになる何人かの人名をポストイットに書き込むことでメモリーを補完。彼らを中心にしたいくつかの物語が並行して語られ、中盤からそれらの人たちが段々つながってゆき、最後はひとりの哀しい物語として語られる。

舞台は東京大空襲とその後。東京大空襲の悲惨な姿をこれでもか、これでもかと繰り返し描きながら(1)東京大空襲は昭和20年3月10日というのが常識となっているが、そうではなかった。(2)なぜ下町が標的になったか。(3)なぜ空襲警報が遅れ、多くの人が亡くなったかーの3つの謎解きを読者は迫られるのだが、私には著者が答えを教えてくれるまでわからなかった。あぁ、そうだったのか。

これが当時の誰かと誰かの謀略として語られ、そのため誰かへの誰かの忖度のせいでこの優れた小説は、いかなる賞も獲ることができなかったのではなかろうか。

ここまで書いてきて少し反省。気が滅入っているときは、少しでも明るい題材を選ばなければいけないよね。うん、うん。

2021年1月3日日曜日

ロバの耳通信「天国旅行」「シンメトリー」「草原からの使者」

年末から正月、毎日いい天気が続いたにもかかわらず、コロナを言い訳にしてにどこにも出かけず。正月料理も、初詣出も、年賀状も全部やめて、規則正しい早寝遅起きで睡眠時間もたっぷり。いつもならこの時期には暴れ出す持病にも、愛想を言っておとなしくしてもらった。うん、こんなに安らかな正月は初めてじゃないかな、とか思いながらカミさんとテレビの前に並んで座って箱根駅伝を見ている。
漠然とではあるが、こんな静かな日々を永く待ってたような気がする。

今年の目標。急がず、怒らず、食べ過ぎを避け、体をよく動かすこと。小さなことにくよくよしないこと。考えすぎないこと。カミさんを大切にすること。

「天国旅行」
(13年 三浦しをん 新潮文庫)

心中を題材にした短編集。裏表紙の”すべての心に希望が灯る短編集”の釣りに惹かれて読み始めたら、どれも切ない、哀しい物語だった。温かいつもりで手を入れたら、結構冷たくて、いつまでも温かくならないそんな物語。三浦しおんだから、みんなオバケが出てくる。怖くはないが、ついて行きたくはない。7編、終わって、もう一度読んで、やっぱりどれも良かった。

昔、坂の上の安アパートに住んでいた。入口のドアはふたつしかなかったから、たぶん2部屋だけだったのだろう、2年くらい住んでいて、朝は早く、帰りは暗くなってだし、休みの日は寝てるか出かけているかだったから、お隣の人と顔を合わせたのも、2、3回だったか。陰気な表情のワタシよりずっと上に見える女性が住んでいたようだ。とにかく、街から外れたえらいキツイ坂の上で周りには何もない寂しいところ。ある夜、目をさまして台所の外のガラス戸に映った光が見え、結構長い時間ゆらゆら浮かんでいた気がして、あああれがヒトダマかなと。存外、遅く帰ってきて、鍵穴を探すお姉さんの懐中電灯の灯りだったのかもと、後から思ったのだが、その時はすっかりヒトダマだと信じてしまって、亡くなったばあちゃんが、都会でひとりで暮らしのワタシの様子をみにきたのかもと。怖がりのワタシがその時怖く感じなかったのはなぜだったのだろうか。


「シンメトリー」(11年 誉田哲也 光文社文庫)

姫川玲子シリーズ第3作の短編集。月間雑誌に掲載の短編を集めたもので、玉石混交。姫川シリーズ第1作でベストセラーになった「ストロベリーナイト」(08年 同文庫)には比べるべきもないか。巻頭の「東京」と巻末の「手紙」は良かった。男の誉田が描く、生身の女姫川。本田哲也はスゴイと思った瞬間。

「草原からの使者」(12年 浅田次郎 文春文庫)

副題に沙高楼奇譚とあって、これが本題の本もあるらしい。架空の会員制高級クラブに集った年寄がとっておきの話を披露するとい設定で明かされる5編の短編集。小心の宰相が出馬を祈祷師に伺いを立てる話やらロンドンの超高級ホテルの会員になってカジノで破産してしまう話やら、さすが名ストーリーテラーだと伺わせる話だった。解説で有川浩に”いちばん好きな”と言わせた最終話「星条旗よ永遠なれ」という下ネタ話が最悪。4勝1敗だから許そう。
文春文庫の良いところは、巻末に100字ほどの釣りが書かれた本の紹介が数ページがついていて、おお、こういう本があるのかと、まあどうでもいいことだが。