2021年8月29日日曜日

ロバの耳通信 「ラース・オブ・マン」「アメリカン・サイコパス」

 「ラース・オブ・マン」(21年 米)原題:Wrath of Man

怒れる男と訳すればいいのだろうか。英監督ガイ・リッチーとジェイソン・ステーサムの組み合わせだから派手なアクションを期待していたが、息子を傭兵あがりの強盗団に殺されたジェイソンが、湧き上がる怒りを抑えて犯人を探し、息子の復讐を果たすという、まあ単純なスジ。「ブルー・レクイエム」(03年 仏)のリメイクで脚本もガイ・リッチーだと。

息子を殺されたギャングの親玉が、犯人探しのために経歴を偽り、現金輸送の警備会社で働くーなんて、スジの不自然さは否めないが、まあ、面白かったし、久しぶりの新作だから、いいか。

「アメリカン・サイコパス」(19年 米)原題:Chance Has No Empathy/American Psychopath

似た名前の映画、ムカシ見たクリスチャン・ベール主演の「アメリカン・サイコ」(00年 米)が期待外れだったし、口コミの評点も低かったので、”期待せず”見始めたのだが、なかなか良かった。

自分探しを続けている画家が、絵のモデルやその恋人など知り合いになった人々を次々に殺すという連続殺人犯を描いた静かな秀作(だと思う)。キーピックを使いアパートに侵入、ハサミやワイヤで殺人繰り返し、ペンダントなどの”戦利品”を蒐集するから、サイコパスと言えばそうなんだろうが、血なまぐさいシーンもほとんどなく、あんまり特別な感じがしなかったのは、主役の画家(ウィル・ロスハー)の抑えた、自然な演技のせいか。

ムカシ海外で仕事をしたときに、趣味がジョギングと社会活動という静かなアメリカ人と一緒に仕事をして、何度も一緒にメシを食いに行ったりして親しくなったが。彼の静かなしゃべり方や仕草が、この映画のサイコキラーに感じが似ていて、今頃どうしているだろうかと、思い出したりした。


2021年8月24日火曜日

ロバの耳通信「シャドー・オブ・ナイト」「マンディ 地獄のロード・ウォリアー」


「シャドー・オブ・ナイト」(18年 インドネシア)THE NIGHT COMES TO US

インドネシア映画といえばホラーと格闘技。最近ホラーは下火らしく、もっぱらバイオレンスものになってきていて、NETFLEXが世界配信に力を入れ売れているらしい。そういえば、「ザ・レイド」(11年)も、日本語の副題のついた続編「ザ・レイド GOKUDO」(14年)、「ヘッド・ショット」(17年)もメイッパイのバイオレンス・アクション。こじ付けの簡単なストーリーはあるが、ほぼ全編が血まみれの格闘技で、すごいとは思うが何も残らない。昔よく見ていたインドネシアのホラーは、日本と同じでジワジワとオバケが観客を怖がらせるものでソコソコ情緒もあったのだが。

「マンディ 地獄のロード・ウォリアー」(18年 米)

安っぽい副題をつけられた映画はニコラス・ケイジ得意の復讐モノ。前作も題名は忘れてしまったけれど娘を助けるために悪と戦う、だったが今回はカルト集団に焼き殺された妻の復讐劇。訳ありの男が平穏な暮らしをしているがあることからブチ切れて戦いにというワンパターン。オリジナルの武器でスプラッタ満載の戦い。まあB級映画でただただド派手な演出ばかりでなにも残るものはないけれど、これはこれでいいのだろう。チェックしたら今月初めに封切りで、もう動画サイトに出ている。メジャーな作品だと、動画サイトと配給元のイタチごっこでなかなかネットで新作を見ることもできないのだが、動画サイトは広告のつもりかも。とはいえ、大画面、ド迫力の音響でもまた見たいと思うような映画じゃない。

2021年8月19日木曜日

ロバの耳通信「その時までサヨナラ」「不死症」

「その時までサヨナラ」(12年 山田悠介 文芸社文庫)

文庫本のカバーの印象から青春モノかと思い手に取って、著者紹介をチェックしたら「リアル鬼ごっこ」の作者だという。漫画版(04年 幻冬舎コミックス)を見ていて、学生たちを主人公とした奇妙なスジだったからこれもそのクチかと興味半分で読み始めたら、これが予想外の面白さだった。読み終わって、やっぱり作家ってすごい、ストーリーテラーとはこういうことかと。「ありえない物語」だから、落としどころの不自然さなどストーリーに無理もあるが、前半の編集者としてのワーカホリック、中盤の妻を失いさらに仕事でミスをして閑職に追いやられ、また残された息子との暮らしで戸惑う部分、後半の息子との暮らしを再建すべく生まれ変わるところまで、ハッピーエンドとまでは行かないにしろ、哀しい話をそのままで終わらせなかった作者に脱帽。山田のほかの作品も読んでみたいと、強く思った。
WowWowでテレビドラマ化(10年)されたということでチェック。キャスティング見てやめた。いい原作なのだから、映像で台無しにしてもしょうがない


「不死症」(16年 周木律 実業之日本社文庫)

”常識を揺るがす究極のバイオホラーXミステリー”が裏表紙の釣り。バイオテクで生まれたバケモノとの戦いなんて、「パラサイト・イブ」(07年 瀬名秀明 新潮文庫)や「バイオハザード」シリーズ(02年~ 米)の二番煎じじゃないか。まあ、それは許せるとしても、セリフを並べれば小説になると思っているのかこの作家。映像世代なのだろうか、ナカミのない映画をダラ見させられるような退屈な時間。バイオとか不老不死とかを題材に書くのなら、多少は科学的な色付けをしてくださいよ。題名と表紙イラストに惹かれて、ホイホイと捕まってしまったワタシの失敗。どこかで面白くなるだろうとガマンにガマンしたけれど半分くらいで挫折。もしかしたら、めっちゃ面白いラストが待ってたのかも。最後まで読まなくちゃ作者に失礼だよと誰かに諭されそうだけど、時間はワタシのものだからね。この作家、初めてだったがここまで酷い目にあうと、この作家しばらくパス。山のような読みたい本がワタシを待っているからね。完全に偏見だとわかっているが、なんだこの作家の名前”周木律”だと。名前で遊んでいる作家で許せるのは、江戸川乱歩くらいだよ(八つ当たり)。

2021年8月14日土曜日

ロバの耳通信「女神の見えざる手」「野火」

 新作映画がすべて面白いわけではない。コロナのせいで全く映画館にゆけなくなったし、動画サイトで見られる新作も限られている。ワタシの好みもあるし、面白い映画に出会うことはもはや稀といってもいい。この「女神の見えざる手」はそうして出会った久しぶりの面白い映画だ。

「女神の見えざる手」(16年 米)原題:Miss Sloane

アメリカの銃規制法案で名前をあげようとしたロビイスト(そういう職業があるらしい)の女性と彼らを利用して利権を得ようとする政治家たちの物語。こういう社会派ドキュメント風映画には珍しく、銃は悪だとかいう理想論をぶちかまされ辟易させられることがなかったのが良かった。

エリザベス・スローン(原題はココから)役のジェシカ・チャステインが良かった。弁が立つ、毒々しい口紅の美女。ゼンゼン好みじゃなく、惹かれることもなかったが、とにかく格好良かった。 サム・ウォーターストン、ジョン・リスゴーほか周りを固める政治家たちの配役もこれ以上ない芸達者たち。原作を読んで見たいと思い探しているがドキュメンタリーだから難しい気がする。この作品の強みは脚本(ジョナサン・ペレラ)だと思い、wikiを逆引きしてもこの作品しかでてこない。残念。

とにかく、近年「掘り出した」面白かった作品。どんでん返しの繰り返しを体験してなお、最初からもう一度見たいと思った作品。字幕版だから、ヘッドフォンつけて大音量でナマのセリフを楽しみながら夜中また見よう。

「野火」(14年 邦画)

敗戦記念日が近いせいなのだろうか、どこかでリバイバル上映中だと。コロナ騒ぎの最中じゃなくても映画館で見たい作品ではない。

フィリピン・レイテ島の敗残兵田村一等兵の彷徨を描いている。原作(大岡昇平)の一部を中学(多分)の教科書で見、触発されて本も読んだ記憶がある。同名の映画(59年 市川崑監督)も見た記憶があったが、本作ほど衝撃的ではなかった。

うん、この「衝撃的」は、いい意味ではない。本作(14年)は、血まみれの内蔵、傷口、湧き出すウジなどのグロ要素が強すぎ、原作や前作(59年)で終始つきまとう、飢餓、持って行き場のない不条理などからくる厭世感・厭戦感がなかったかな。リリー・フランキー、中村達也ほか、サブキャスティングが良かった。この作品で初めて知った森優作は最高。芸達者の配役のせいか主人公田村一等兵役の塚本晋也が霞んでしまったのが残念。グロのせいで、再見もごめんだ。


2021年8月8日日曜日

ロバの耳通信「アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場」「エクスティンクション 地球奪還」

「アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場」(15年 英)

タイトルバックのすぐあとの警句が”戦争の最初の犠牲者は真実である”。うーん、映画を最後まで見ても得心できない言葉だった。
ドローンを使った現代の戦争を皮肉たっぷりに描いている。舞台はケニア。米側と英側の両方を描いた英国映画では能天気の米側、保守的な英側を描くのが普通なのだろうが、さらにこの映画では、自分で決められず責任をなすり合う政治家を強く批判し、ルール第一でキレイゴトに終始する政務次官も現場で指揮を執る強面大佐も、ともに女性に設定して、バランスをとろうとしているのが興味深い。ほぼ全編がドローン画像だったが手に汗握る脚本・撮影は秀逸。スジがわかっていても、もう一度見てもいい。

「ハリー・ポッター」シリーズ(01年~英)で魔法使いのスネイプ役をやったアラン・リックマンが、いつもの渋い声<吹き替えは「笑うセールスマン」のあの土師孝也>で英軍中将で出ていたが、この映画のあとに亡くなったと。残念。


「エクスティンクション 地球奪還」(18年 独)

ポスターもなかなか、さらにNetflix配給ということで期待してみたのだが。異星人の侵略とか、誰かに襲われる夢とか、まあ、ありえないようなハナシを主題にしたら、段取りをキチンとしておいて混乱させないようにシナリオ書いてくれないと、デジャブ感いっぱいのシーンの繰り返しだと飽きる。結末の持って行き方もおーい、こんなのないよと言いたいほどの凡庸さ。

父親役のマイケル・ペーニャががイケてない。母親役のリジー・キャプランとの相性も悪いようで、とても夫婦には見えない。マイケルはトボケたいい味があって脇役はいいんだけどね。やっぱり、ドイツ映画はメジャーになれないのかなぁ。良かったのはポスターだけの新作。

2021年8月4日水曜日

ロバの耳通信 「活きる」「ブリムストーン」主題は理不尽。

 「活(い)きる」(94年 中国)原題:活着

懐かしくて、また見てしまった。賭博好きの放蕩息子福貴(グォ・ヨウ)とその妻家珍(コン・リー)が文革前後の動乱の歴史のなかでたくましく生きてゆくというストーリー。約30年の夫婦の歴史を2時間で見せてくれ、最初にこの映画を見たときには、大変な時代に浮き沈みの激しい暮らしを見ながら「よく生きてきたな」と驚きと感動を憶えたものだ。こうやって落ち着いて見直した抒情詩のような夫婦の暮らしは、時代背景から歴史小説を読んでいるよう。理不尽の連続に、長く中国で公開されなかったのがわかる気がした。

なにより懐かしかったのがコン・リー(巩俐)。最初に見たのが図書館の視聴覚ブースで「紅いコーリャン」(87年  紅高粱)それ以来、すっかりコン・リーにはまり、ずいぶんビデオ屋さんのお世話になった。「紅いコーリャン」の時は二十歳を越えたばかりの頃だったが、無垢な少女のような面影にまいった。たくさんの映画に出演しているが、またというか何度も見たいと思っているのが「さらば、わが愛/覇王別姫」(93年)。

「ブリムストーン」(16年 オランダ、仏、英、米ほか)原題:Brimstone

原題は灼熱の業火とか避けられない運命とかいろんな意味があるらしいのだが、ワタシには結局意味不明。舞台はアメリカ西部劇の時代(らしい)。牧師による悪行、売春宿、近親相姦、暴力などなどどうしようもない男たちの悪行の連鎖にうんざり。こんな理不尽で脈絡のない映画なのにダコタ・ファニング、ガイ・ピアース、エミリア・ジョーンズほか錚々たる配役を揃えたのはすごいと思うが。娯楽でもミステリーでもない、強いて言えば恐怖映画か。いちばんの極悪が牧師だったというのが、なにかへのあてつけか。

2時間の残酷シーンの連続のあと、とってつけたような主人公の自死のエンディングで救済のつもりなのか。終わってからの後味の悪さがいつまでも消えなかった。