2022年7月25日月曜日

ロバの耳通信「笹の舟で海をわたる」「余命10年」「生きてさえいれば」「作らなかった少女」

 新型コロナ肺炎ウイルスに満たされているような映画館が怖くて、映画を動画サイトでしか見なくなった根性なしのワタシ。2年以上我慢したのだから、根拠もないがいろんなことを再開しても、当分大丈夫な気がする。

本は禁断症状が出てきた。手持ちの本は読み尽くし、本屋や図書館も怖くて行けない。幸い電子図書は多少蓄えがあるから、当分コレに頼るしかないが、やっぱり「紙の本」が恋しい。

「笹の舟で海をわたる」(14年 角田光代 Kindle版)

疎開先で一緒だったという風美子(ふみこ)に、街で声をかけられた主人公左織(さおり)。佐織は大学講師の夫と平凡な家庭を持ち、奔放な風美子は佐織の夫の弟と結婚。二人はやがて義姉妹に。こう書いてしまえば、ちょっと変わってはいるが、ありそうなハナシかとも思うが、なんでもできる風美子、なんにもできない左織の暮らしが入り混じり、思ってもみない方向に。

この作品、14年『本の雑誌』で読者が選ぶ第1位だったと(wiki)。納得のできる面白さ。哀しさといってもいいか。角田光代の本は朗読をYouTubeやオーディオブックで聞くことが多かったが、こうやって文字を追いかけ、気に入ったところを何度も読み直せるというのは、やっぱり「本」の強みか。今回も電子図書だったが、やっぱり「紙の本」が恋しい。

Kindle版とはいえ、久しぶりの「本」に感動が強かったようで、その夜とっくに亡くなった祖母を思い出し夢の中で大泣きし、朝、マブタが くっついていた。「笹の舟で海をわたる」も家族の話で、ウチとはあまり共通点もなかったけれど、哀しさはなんだか伝わった。

「余命10年」(17年)・「生きてさえいれば」(18年 小坂流加 文芸社文庫NEO)

35歳という若さで亡くなり、この2作だけを残した小坂流加。長年難病と戦い、結局亡くなった著者が夢に見たであろう青春の喜びや儚さに鼻が詰まった。映画化の話が進んでいるというが、こんなに可愛くて、儚い主人公たちを生半可なアイドルなんかに演じてほしくないな。誰もいないよ、そんな俳優。

小坂流加がまさに命をかけて、描いた主人公や家族、友人たちの夢のようなハナシ。めいっぱいの空想の世界で共感できた。ジジイが何をと笑われそうだけれども、ジジイにも青春はあったのだ。



「作らなかった少女」(20年 北山遠後 Kindle版)

少女が作らなかったのは「雪だるま」。溶けてしまうことが分かっている雪だるまが可愛そうだから。イマドキそんな純粋なコがいるわけないじゃないかと思う。夢物語と割り切ってしまえばいいのだろうけれど、北山が書いた追憶の世界に、浸れた。

2022年7月20日水曜日

ロバの耳通信 「ファースト・マン」「マネー・ショート 華麗なる大逆転」

 「ファースト・マン」(18年 米)原題: First Man

アポロ計画で初めて月面を踏んだアームストロング船長の伝記映画。たまたまAmazonPrimeで発見。まあ、視聴契約中だから見るかと軽い気持ちでみ始めたら、完全にハマった。こんな名作を見ていなかったことに驚きと後悔。

主役のニール・アームストロングを演じたのがライアン・ゴズリング。アカデミー賞受賞作品「ラ・ラ・ランド」(16年 米)で期待はずれに終わり、ソレ以来オモシロクナイという偏見で見ていた俳優だったが、その妻を演じたクレア・フォイとともに最高の演技だったと思う。

この作品、アカデミー賞で視覚効果賞を受賞を撮ったのだが、宇宙船の中から見る宇宙や月面は目を瞠る美しさ。いちばん感動したところは、アームストロングが脳腫瘍で亡くした幼い娘の埋葬場面。棺を墓穴に降ろすラチェットの音。この音で病に苦しんでいた娘が死んだことを観客は初めて知る。すごいとしか言いようのない演出。埋葬、友人や近所の人を集めてのお別れ会のときのゴズリングの表情。そんな、沈んだ場面があちこちにでてくる。

後で知ったがスティーヴン・スピルバーグが製作総指揮を務めたと、なんとなく納得。

いい作品は何度でも見たい。Amazonの視聴契約期間が残っているからまた見よう。


「マネー・ショート 華麗なる大逆転」(15年 米)原題:The Big Short

マイケル・ルイスのノンフィクション「世紀の空売り 世界経済の破綻に賭けた男たち」が原作。

サブプライム問題(08年頃~)とか、リーマン・ブラザーズの倒産(09年)、世界大恐慌とかよく理解できていない事件の真相みたいなものが頭の中でつながった。”真相みたいなもの”と断ったのは、いまだにキチンと理解できていない事が多いからであるが、とにかく”風が吹けば桶屋が儲かる”くらいのリーマン・ショックのイキサツが多少なりとも理解できたのが収穫。脚本のデキが良いのだろうが、娯楽映画としても充分楽しめた。

主な配役のクリスチャン・ベール、スティーヴ・カレル、ライアン・ゴズリング、ブラッド・ピットなどにはそれぞれモデルがいたのだろうが、多くの芸達者の俳優のおかげて生き生きとした人物像が(多分)デフォルメされて描かれていて実に面白かった。史実に忠実であろうとしてつまらなくなってしまったノンフィクション映画とは一線を画して、知っている結末なのに、結構手に汗握る展開はやっぱり映画の面白さだ。

2022年7月15日金曜日

ロバの耳通信「女王トミュリス 史上最強の戦士」「ピアノ・レッスン」

 「女王トミュリス 史上最強の戦士」(19年 カザフスタン)原題:Tomiris

紀元前550年頃の中央アジアの草原に住むマッサゲタイ族の長の父と家族を殺された少女トミュリスが復讐を果たすという復讐の物語。スジはいたって平凡なのだが、主演のカザフ女優アルミラ・ターシン(Almira Tursyn)の眼力鋭い表情に参った。見どころは迫力ある白兵戦。CGではこうは行かないだろうと思いつつも、もしかしたらと。とにかく、2時間強を飽かせず見せてくれたこの作品。メジャーじゃないから、なんだか得した気分。


「ピアノ・レッスン」(93年 仏・豪・ニュージーランド)原題:The Piano

普段ほとんど見ることのない恋愛モノと気付いたのは中盤以降。この美しさや残酷さはハリウッドじゃ作れないだろう。19世紀のニュージーランドが舞台。スコットランドから娘とピアノを携えてニュージーランドの夫に嫁いだ失語症の女性の物語。

主演のホリー・ハンターが美しい。当初はシガニー・ウィーバーがこの役を務める予定だったとwikiにあったが、気性はとにかく、あの美しさと情熱的な役はホリー・ハンターじゃなかったら成り立たなかったと思う。夫役のサム・ニールも、恋人役のハーヴェイ・カイテルも良かったが、当時11歳の娘役アンナ・パキンがめっちゃ可愛くて主役を食ってたかな。彼女はこの年のアカデミー助演女優賞を獲っている。作品そのものもカンヌ国際映画祭でパルム・ドールを受賞。

マイケル・ナイマンの音楽がいい。気に入って、このところずっとサウンド・トラックを聞いている。ピアノ曲ってこんなに快いものだったのかと、再認識。


2022年7月10日日曜日

ロバの耳通信「355」「ブラックライト」うーん、ハズレが多いなぁ。

 「355」(22年 米)原題:The 355

やみくもに新作漁りをしているととんでもないハズレを引いてしまうことがある。映画も結局、好き嫌いだからワタシがハズレとおもっているだけなのだが、動画サイトでハズレがわかって良かった。映画館でこういうのにあたると、ショックはもっと酷いものになっただろう。コロナ禍で映画館に行くなんて、それだけで命がけなのだから。


映画紹介では、スパイもの、アクション、美女勢ぞろいーとかの気を引く文句を並べてあったから、期待してみたのに(ブツブツ・・)。原作ナシ(脚本家が共同執筆だから、スジもオチもなし)、主演女優を5人(ジェシカ・チャステイン、ペネロペ・クルス、ファン・ビンビン、ダイアン・クルーガー、ルピタ・ニョンゴ)も並べたからメリもハリもなし。何人かは見た顔だけど、名前と顔が一致するのがベネロペ姉さんだけ。みんな、アクションなのにヨタヨタじゃないか。

原題は18世紀のアメリカ独立戦争時代に実在したパトリオット側の女性スパイエージェント355にちなむ(wiki)と。


「ブラックライト」(22年 米ほか)原題:Blacklight

これもハズレ。ヨレヨレのFBIの偉いやつ(リーアム・ニーソン、捜査官でもないらしい、なんとも正体不明・・)が、旧友のFBI長官の悪行(これもどんな悪行かほとんどわからない・・)を暴くという物語。wikiによれば脚本、監督も大物らしいのだが、こんな酷い映画ひさしぶり。だって、半分過ぎても何の映画かわからないなんて。カースタントやラスト近くのドンパチもあるから、アクション映画なんだろうけど。リーアム・ニーソン好きなんだけど、こういうC級映画で老体鞭打っているのを見ると、なんだか気の毒。

2022年7月5日火曜日

ロバの耳通信「オペレーション・クロマイト」「ラスト・ウイッチハンター」

「オペレーション・クロマイト」(16年 韓国)

朝鮮戦争の連合軍(ほぼ米軍)の仁川上陸作戦の際の防諜戦を描いている。全く役に合ってなかったのがマッカーサー役のリーアム・ニーソン。北アイルランド生まれのカギ鼻の痩せ男にコーンパイプとサングラスは似合わない。グレゴリーペックのマッカーサー(77年米)の印象が強く残っているせいでそう思ったのかもしれないが。

南(韓国)のスパイのリーダー役で主役のイ・ジョンジェは格好良すぎ。同じ年に韓国映画「暗殺」では日本のクールなスパイを演じるなど日本ファンを増やしたあのイケメンのイ・ジョンジェだ。一方、北(朝鮮)の親玉イ・ボムスの、憎らしいほどの存在感がすごかった。広い額にややどんぐりマナコは忘れられない顔、「総理と私」( 13年~ 韓国KBSドラマ)での落ち着いた「偉い人」感が印象深い。

マッカーサーが成功率5000分の一といわれるオペレーション・クロマイト(仁川上陸作戦)にこだわったのは、大統領選のための米国民の点稼ぎ、つまりはノルマンディー作戦よもう一度の目論見があったとこの映画の中でも示唆されているが、うーん、そういうのもアリなのか。

「ラスト・ウイッチハンター」(15年 米)

「いつもの」ヴィン・ディーゼル大活躍のひとり芝居みたいだし、公開時の評判もイマイチだったのだが、このところ面白い映画に恵まれていないし、読書もちょっと一休み。朝から雨模様で出かけるのも大儀、カミさんは凝った料理に取り組んでいる様子でかまってくれそうもない。薄暗いリビングですることもなく、ネット動画でも覗いてみるかで「ラスト・ウイッチハンター」を早送りで見ていたら、映像がキレイ。で、最初からちゃんと見ることにした、ひとり映画会。魔女と魔女狩りハンターの戦いという、まあアホらしいストーリーなのだが、すばらしく良くできたCGと音楽。ヘッドフォンの音量を上げすぎて、見終わったあとに耳鳴りがするほど。結構ハマり込んでいたらしい。

機会があれば映画館の大画面と大音響で見たい。うん、最後にはヴィン・ディーゼルが格好いい車に乗って走り去るという「いつもの」ラストが変わることもないのだから、再見だからドキドキももはやないが、昔、何度も見てスジも結末もわかっている「エイリアン」「バイオハザード」をまた見たがったそんな気分か。