2016年10月20日木曜日

ロバの耳通信「天国の扉をたたくとき」

「天国の扉をたたくとき 穏やかな最期のためにわたしたちができること」(ケイティ・バトラー 16年 亜紀書房)

ジャーナリストである著者が、過剰医療に苦しめられた終末期の父親と、朽ちてゆく夫を支えながらも夫の死にざまに納得できず自らは終末医療を拒否した母の姿をこれでもかこれでもかと、メスで刻むように生々しく描いたノンフィクション作品。法外な医療費や医療保険が高度医療器メーカーや専門医の報酬へ吸い込まれてゆくアメリカの医療制度にダメ出しをしながらもそこから一歩も出ることができなかった家族のジレンマが伝わってくる。疾病、排泄障害、認知などに一気に襲われた老人とその家族の彷徨の末は戦うことも逃げることもできない暗黒の深い穴。
救いのように散りばめられた愛の物語は、戦争で片腕を失った若者が妻と出会い、幼子を連れて南アから新天地ニューイングランドに移住し家を買い家族で内装を楽しむというアメリカンドリームのよう。ただ三人の子供たちは家を出てそれぞれの暮らし。
南アを田舎に、新天地ニューイングランドを都会と置き換え、老老介護、健保制度崩壊など、どこかの国と問題は似ているが、同じように答えがないことに気付く憂鬱。

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