2017年3月24日金曜日

ロバの耳通信「パッセンジャー」

「パッセンジャー」(16年 米)
「乗客5000人 目的地まで120年 90年も早く 2人だけが目覚めた 理由は1つ」がこの映画のキャッチコピー。

5000人乗りの移民用宇宙船で、睡眠ポッドの故障から90年早く目覚めたジム(クリス・ブラッド)とオーロラ(ジェニファー・ローレンス)の物語。宇宙船は、未来の暮らしのようで興味深い。ボタンを押すだけで、和食もコーヒーもいつでも。私はナマケモノだから、ほぼなにもしないで暮らせる全自動の未来にはあこがれる。

危機、また危機で手に汗握るストーリーだから原作も読んでみたいのだが調べてもわからない。主役のひとりクリス・ブラッド、どこかで見た顔というか誰かにとても似ているのだがどうしても思い出せない、パトリック・スウェイジ(「ゴースト/ニューヨークの幻」(90年 米)だったか、うーん、もっとほかの誰だったか、甘い顔でいい演技をしていた。

ジェニファー・ローレンスは「ハンガーゲーム」シリーズ(12年~15年 米)や「X-MEN」シリーズ(11年~15年 米)ですっかりおなじみなので、この映画を見ている間にも「ハンガーゲーム」の役名カットニス・エヴァディーンと混同してしまった。個性的ではるが、好みではない。

ジェニファー・ローレンスの代表作「ウィンターズ・ボーン」は、アカデミー賞各賞はもらわなかったがノミネートされ、全米ほか数多くの映画批評家協会賞をとっているので見たいとは思っているのだが、機会がない、というか女優が気に入らないと、どうしても遠ざかるかな。まあ、死ぬまであと映画を何本見れるかわからないからね。

2017年3月20日月曜日

ロバの耳通信「リトルフォレスト」

「リトルフォレスト」(邦画 14年 夏・秋編、15年 冬・春編)
年末か年始に、あわせて4時間を一挙放送したものを録画。カミさんと一緒に、雨の日の映画会で小出しに楽しめた。よかった。

描いたのは田舎で一人暮らしをするいち子の食生活・・のはずだったのだが、四季にメリハリをつけられた田舎の風景に負けた。田んぼや森がこんなに美しかったのだとあらためて気付く。

五十嵐大介の同名の原作(02年~講談社漫画雑誌に連載)では、味わい深いイラストと洒脱な文章がが楽しかったのだが、この映画ではいち子(橋本愛)の表情が暗すぎ。田舎で一緒に暮らしていた母親に出て行かれ、一人暮らしを余儀なくされるというスジだから、いつも思い詰めているような表情の橋本愛は適役なのだろうが、おいしいものを口にしたとき、ホッカリするような表情くらいしてほしい。個人的にはいち子の友人キッコ役の松岡茉優のほうが良かったかな。

ラストのいち子が神楽を一心に舞うところで、なぜか涙が出そうになった。なぜだろう。

2017年3月14日火曜日

ロバの耳通信「フォーエバーランド」

「フォーエバーランド」(01年カナダ)

バンクーバーに住む嚢胞性線維症(CF症)という難病の青年が、先に亡くなった同郷の闘病仲間の散骨のために、遺言で指定されたメキシコの聖地デル・ソルを訪れる。

奇跡求めて2000マイルという副題がついていたので、もしかしたら旅の終点で病気の消失とか、奇跡がおきるのかとも思っていたのだけれども、そんな安っぽい終わり方ではなかった。青年は死んでしまったけれど、ハッピーエンドだったので少し救われた。

たくさんの抗生物質や吸入器で体調を維持していても30歳くらいまでに、「ゆっくり」と、しかし、確実に死ぬ病気らしい。気管支疾病を持つ私は、これほどの難病ではないけれども、時々呼吸器がくるしくなり、この「ゆっくり」死ぬというのが、実感としてわかる。

後半のメキシコの山岳地帯を歩くシーンに心惹かれた。

私は砂を踏む感触が好きで、よく底の硬い革靴で海岸を歩いた。踏みしめた乾いた砂は頼りなく足の下で崩れてゆくが、埋まってしまうわけではなく、靴底に接する砂が平(たいら)に私の体重を受け止めてくれるところに、なにか地球との一体感のようなものを感じたものだが、気が付いて見ればずいぶんそういう経験から遠ざかっている。

メキシコには行けないから、すこし、暖かくなったら、海に行こう。一番お気に入りの革靴で。

2017年3月6日月曜日

ロバの耳通信「イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密」

「イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密」(14年 英米)


第二次世界大戦時にエニグマ(ドイツの暗号発生器)を解読したイギリスの暗号解読者アラン・チューリングの伝記映画。主演のベネディクト・カンバーバッチが、”怪物”天才数学者を演じたが、私には映画ポスターでおなじみの顔。ほかの作品ではBBCで放映された量子宇宙論のスティーヴン・ホーキングの半生を描いた「ホーキング」(04年 英)くらいしか知らなかったが、「普通じゃないヒト」にピッタリの配役。
「イミテーション・ゲーム」には私の好きな英俳優が続々で、たとえばキーラ・ナイトレイ(「パイレーツ・オブ・カリビアン」シリーズ)、マーク・ストロング(「記憶探偵と鍵のかかった少女」(13年 英)、チャールズ・ダンス(「エイリアン3」(92年 米)、「チャイルド44 森に消えた子供たち」15年米)、ロニー・キニア(「007」シリーズ)など、英国映画らしい存在感のある役で頑張っていた。
3月に入ってすぐの出かけなくていい寒い雨の月曜日。

2017年3月4日土曜日

ロバの耳通信「白き瓶 小説・長塚節」

「白き瓶 小説・長塚節」(藤沢周平10年 文春文庫)

藤沢周平は「蝉しぐれ」(88年 文藝春秋社)など時代小説でかなりの作品に触れてはいたが、この「白き瓶(かめ)」は、ほかの創作作品とは異なり膨大な文献により裏付けられた明治後期~大正初期の歌人、小説家である長塚節(たかし)の日々の暮らしや、歌人としての葛藤、友人との交流生活を、これでもかこれでもかと、細かく綴っている。豪農の子として生まれ才能にも教育にも恵まれていた筈なのだが、その短い一生は性格破綻者といってもよいくらい野放図で破滅へまっしぐらである。

藤沢は長塚を丁寧に描いてはいるが、決して愛情を持っては見ていない。咽頭結核の病と正面から戦うこともせず、自分の都合よく診断してくれる著名医を追い求め、借金と不義理を重ね、片思いを膨らませ、気ままな放浪の旅で体を壊してゆく長塚を蔑んでさえいるように思える。長塚の歌でさえ、解説以上のことをしてもいない。藤沢は自らと同じ胸の病で夭逝した長塚の一生に、なぜもっと自らを律して、歌や創作や暮らしを豊かなものにしなかったのかと、同情と怒りを持ってこの小説を書いている。
病は自らの業(ごう)だとしても、それに甘えてしまう傲慢さは人の道から外れること
と、自戒しつつ読んだ。

2017年3月1日水曜日

ロバの耳通信「私の男」

「私の男」(桜庭一樹 10年 文春文庫)

禁忌の血生臭さが最後まで読ませるが、読んだあとの爽快感はない。桜庭では先に「赤朽葉家の伝説」(10年 創元社推理文庫)を読んだことがあり、名前から男性作家と勘違いしていたが、この「私の男」を読んで、あまりの女らしさ(うむ、良い意味ではないほう)に著者来歴を調べて、作者が女性だと判明。その際、よく知ったいくつかの作品がこの作家によるものと判明。

「少女には向かない職業」(07年 創元社推理文庫)「GOSICK -ゴシック-シリーズ」(03年~富士見ミステリー文庫)など、いずれもドラマやアニメ化されているが、非日常の残酷、禁忌など、刹那に時間を忘れたい今の若者に受けているように見える。
深淵を覗いて、地獄に落ちてみたい気もする。