2017年3月4日土曜日

ロバの耳通信「白き瓶 小説・長塚節」

「白き瓶 小説・長塚節」(藤沢周平10年 文春文庫)

藤沢周平は「蝉しぐれ」(88年 文藝春秋社)など時代小説でかなりの作品に触れてはいたが、この「白き瓶(かめ)」は、ほかの創作作品とは異なり膨大な文献により裏付けられた明治後期~大正初期の歌人、小説家である長塚節(たかし)の日々の暮らしや、歌人としての葛藤、友人との交流生活を、これでもかこれでもかと、細かく綴っている。豪農の子として生まれ才能にも教育にも恵まれていた筈なのだが、その短い一生は性格破綻者といってもよいくらい野放図で破滅へまっしぐらである。

藤沢は長塚を丁寧に描いてはいるが、決して愛情を持っては見ていない。咽頭結核の病と正面から戦うこともせず、自分の都合よく診断してくれる著名医を追い求め、借金と不義理を重ね、片思いを膨らませ、気ままな放浪の旅で体を壊してゆく長塚を蔑んでさえいるように思える。長塚の歌でさえ、解説以上のことをしてもいない。藤沢は自らと同じ胸の病で夭逝した長塚の一生に、なぜもっと自らを律して、歌や創作や暮らしを豊かなものにしなかったのかと、同情と怒りを持ってこの小説を書いている。
病は自らの業(ごう)だとしても、それに甘えてしまう傲慢さは人の道から外れること
と、自戒しつつ読んだ。

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