「比ぶ者なき」(馳星周 16年 中央公論社)
馳といえば「不夜城」(98年 角川文庫)、「夜光虫」(01年 同)、「漂流街」(00年 徳間文庫)からスタートして、ハードボイルドファンとしては新刊が出たら読まずにはいられない作家のひとり。
この「比ぶ者なき」は過去の作品と違い、飛鳥時代(西暦600-700年頃)の官僚であった藤原不比等(ふじわらのふひと)が知恵と謀略を巡らし、相続問題で悩んでいた当時の天皇たちに取り入り、自らをブレインとして売り込むことで出世し藤原氏の祖を作るというノワール物語である。史実との差異はあろうがこの時代のこと、何が事実で何が虚実かを検証するより、これを壮大なエンターテインメントに仕上げた馳の作家力を感じる作品。
ページの始めに登場人物系図があり、歴史で名前だけでも知ってる人が殆んどいなく、名前だってちゃんと読めないから、これは難解かもと覚悟して読み始めたら、そこは馳作品のいつもらしくグイグイと引き寄せられ、いつの間にかハマってしまい、ワクワク感にページをめくるもどかしさに寝食を疎かにし、一気に読み上げた。
天皇の扱いや日本書記の編纂については天皇学者やら歴史学者から異論も出たに「ちがいない」のだが、ノンフィクション風の映画の先頭に現れる「これはフィクションです」と書く必要のないのがなんともウレシイ小説本なのである。薦めたい一冊。
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