「マイ・ボディガード」(04年 米)
A.J.クイネルの原作「燃える男 Man on Fire」では、少女誘拐を生業とするイタリアンマフィアとボディガードの戦いだが、映画ではメキシコの誘拐ビジネスとデンゼル・ワシントン演ずるボディガードとの闘いを描いている。
メキシコの情景はみな貧しくて哀しい。主題歌 Carlos Varela - Una Palabra ( A
word does not say anything)がいい。メキシコといえば踊りだすような明るい音楽ばかりだと思っていたら、こんな曲もあったのかと。豊かな国ではないのだと改めて思う。タイトルエンドとともに流れる Man on fire Soundtrack ((CLAIM NO RIGHTS))もいい。これもいつまでも痛む傷跡のように辛くて哀しい。
当時10歳の少女役のダコタ・ファニングが何とも可愛い。「アイ・アム・サム」(01年 米)では知的障害を持つ父親ショーン・ペンの娘役(当時7歳)を、「宇宙戦争」(05年 米)では、トム・クルーズの娘役を好演。殺伐とした復讐劇のずっと哀しいこの映画のたった一つの救いである。
2017年5月28日日曜日
2017年5月22日月曜日
ロバの耳通信「冷たい熱帯魚」「かくれんぼ」
「冷たい熱帯魚」(10年 邦画)
5月だというのに高温注意報が出ていて、カンカン照りに散歩に行く気もならずいつか見たいと思っていたコレを見た。いつもなら昼食後の眠くなる時間なのに、すっかり見入ってしまった。少し期待していた18禁の意味はむしろソッチだったのか。気弱の熱帯魚店主の父親役がラストでブチ切れ、娘に「人生って痛いものなんだ」と叫びながら、自分の首を切り、それを見ていたフテクサレ娘が「やっと死んだか」と死んだ父親にケリを入れる。なんとも、壮絶なシーンなのだが、映画後半の風呂場で死体を解体のスプラッタの連続を見ているから、視覚は鈍感になっていて効果音とセリフが観客の頭に直接書き込まれる。ヤバイなー、こんな映画があったんだ。
監督(園子音)は有名らしいのだが、この映画で各賞を総ナメにしたもとお笑い芸人のでんでんにしても顔はわかるが作品を思い出せないくらい。配役は主役を含め錚々たる俳優連らしいのだが私にはほとんど馴染みがない。ドラムの音が腹まで響くメリハリの聞いた音楽のせいか、実話だというストーリーのせいか146分を長く感じさせることはなかった。見た後の何とも言えない不快感は食あたりの予感に似ていて、誰かと一緒に見たい映画ではない。それくらい、面白い映画だ。
「かくれんぼ」(13年 韓国)
正統派の怖さと言っていいのではないかと思う。幽霊や超常現象でオチをつけることなく、ジワジワと迫ってくる恐怖と謎解きの楽しさ。カメラワークも「凝ってなくて」ふつうに怖い。韓国映画は怖いのが多いが、コイツはその中でも秀逸。映画に限らず、韓国で一番怖いのは火病の(ファビョる)女。顔立ちの良い静かな女性がトツゼン狂気となって叫びだすと、画面のこちらにいても思わずたじろぐ。
2作とも女優たちがいい。こういうキレイな女たちは遠くから見てる分には楽しいが、そばにいると怖いだろうと、心底思う。
5月だというのに高温注意報が出ていて、カンカン照りに散歩に行く気もならずいつか見たいと思っていたコレを見た。いつもなら昼食後の眠くなる時間なのに、すっかり見入ってしまった。少し期待していた18禁の意味はむしろソッチだったのか。気弱の熱帯魚店主の父親役がラストでブチ切れ、娘に「人生って痛いものなんだ」と叫びながら、自分の首を切り、それを見ていたフテクサレ娘が「やっと死んだか」と死んだ父親にケリを入れる。なんとも、壮絶なシーンなのだが、映画後半の風呂場で死体を解体のスプラッタの連続を見ているから、視覚は鈍感になっていて効果音とセリフが観客の頭に直接書き込まれる。ヤバイなー、こんな映画があったんだ。
監督(園子音)は有名らしいのだが、この映画で各賞を総ナメにしたもとお笑い芸人のでんでんにしても顔はわかるが作品を思い出せないくらい。配役は主役を含め錚々たる俳優連らしいのだが私にはほとんど馴染みがない。ドラムの音が腹まで響くメリハリの聞いた音楽のせいか、実話だというストーリーのせいか146分を長く感じさせることはなかった。見た後の何とも言えない不快感は食あたりの予感に似ていて、誰かと一緒に見たい映画ではない。それくらい、面白い映画だ。
「かくれんぼ」(13年 韓国)
正統派の怖さと言っていいのではないかと思う。幽霊や超常現象でオチをつけることなく、ジワジワと迫ってくる恐怖と謎解きの楽しさ。カメラワークも「凝ってなくて」ふつうに怖い。韓国映画は怖いのが多いが、コイツはその中でも秀逸。映画に限らず、韓国で一番怖いのは火病の(ファビョる)女。顔立ちの良い静かな女性がトツゼン狂気となって叫びだすと、画面のこちらにいても思わずたじろぐ。
2作とも女優たちがいい。こういうキレイな女たちは遠くから見てる分には楽しいが、そばにいると怖いだろうと、心底思う。
2017年5月15日月曜日
ロバの耳通信「紙の月」
「紙の月」(角田光代 12年 ハルキ文庫)
先に見たのは宮沢りえ主演の同名の映画(14年 邦画)。国内の映画賞を総ナメにした話題作だったが、私には宮沢の透きとおるようなキレイさ以外に印象に残ったところはなかった。シナリオも配役もなんだか「軽く」て、女性銀行員が大金を横領し、若い男に入れあげたというメインのストーリーも、ミッションスクール時代の女行員が善意の多額の寄付をシスターにとがめられるシーン、横領が露見したあと銀行の先輩になぜ横領したかを語るところなど原作とはかなり違っていて、原作で角田が書きたかった(と思われる)「一番思いを込めたこと」が忘れられているような気がした。
原作を読んだあと、また映画を見たのだが、原作で語られる主人公が感じた快感と不安、たとえばカードで大きな買い物を続ける快感やたよりなさ、大きな借金を繰り返しているかもしれないという底知れない後ろめたさと不安にココロが暗い闇に落ち込んでゆくような気分は、「弱気の蟲」(松本清張 77年 文春文庫)で負けるとわかっていても勝負事をやめらない主人公が、身の置きどころがない焦燥感に脂汗をかきながら、ズルズルと蟻地獄に落ちてゆく怖さと通じるものがあった。
原作では多く語られる、買い物依存症の学生時代からの友人や主人公の元カレとその妻の夫婦関係などのサブストーリーは映画とちがってメインのストーリーを補完するものになっていて、小説の深さを楽しめる。そこが私が映画に感じた不満かもしれない。
wikiで調べたらテレビドラマ10でこの「紙の月」(14年 NHK)をやったと。こちらの主演は原田知世。原田のオットリ、にこやかの普段からは考えられない演技で、女優の好き嫌いは別にして、映画の宮沢りえを凌いでいる。YouTubeにアップロードされていたドラマは著作権回避のためか、画像は落ちていたが、出来はさすがNHKだけあって、ワキも錚々たる配役で固め、時間の長さだけではないと思うが、120分強の映画のおおよそ倍の200分(40分x5回)を使っての丁寧な仕上がりで、映画よりずっと楽しめた。エンディングに流れる「子守歌」(マイヤ・ヒラサワ)がよかった。
角田の小説で、これも映画を先に見て満足感がなかった「八日目の蝉」(11年 中公文庫)を読んでみようと思っている。映画が先か原作が先かは悩むところだが、どちらが作者の意図を正しく反映、いや、結局、どちらが面白いか・・なのだが。
先に見たのは宮沢りえ主演の同名の映画(14年 邦画)。国内の映画賞を総ナメにした話題作だったが、私には宮沢の透きとおるようなキレイさ以外に印象に残ったところはなかった。シナリオも配役もなんだか「軽く」て、女性銀行員が大金を横領し、若い男に入れあげたというメインのストーリーも、ミッションスクール時代の女行員が善意の多額の寄付をシスターにとがめられるシーン、横領が露見したあと銀行の先輩になぜ横領したかを語るところなど原作とはかなり違っていて、原作で角田が書きたかった(と思われる)「一番思いを込めたこと」が忘れられているような気がした。
原作を読んだあと、また映画を見たのだが、原作で語られる主人公が感じた快感と不安、たとえばカードで大きな買い物を続ける快感やたよりなさ、大きな借金を繰り返しているかもしれないという底知れない後ろめたさと不安にココロが暗い闇に落ち込んでゆくような気分は、「弱気の蟲」(松本清張 77年 文春文庫)で負けるとわかっていても勝負事をやめらない主人公が、身の置きどころがない焦燥感に脂汗をかきながら、ズルズルと蟻地獄に落ちてゆく怖さと通じるものがあった。
原作では多く語られる、買い物依存症の学生時代からの友人や主人公の元カレとその妻の夫婦関係などのサブストーリーは映画とちがってメインのストーリーを補完するものになっていて、小説の深さを楽しめる。そこが私が映画に感じた不満かもしれない。
wikiで調べたらテレビドラマ10でこの「紙の月」(14年 NHK)をやったと。こちらの主演は原田知世。原田のオットリ、にこやかの普段からは考えられない演技で、女優の好き嫌いは別にして、映画の宮沢りえを凌いでいる。YouTubeにアップロードされていたドラマは著作権回避のためか、画像は落ちていたが、出来はさすがNHKだけあって、ワキも錚々たる配役で固め、時間の長さだけではないと思うが、120分強の映画のおおよそ倍の200分(40分x5回)を使っての丁寧な仕上がりで、映画よりずっと楽しめた。エンディングに流れる「子守歌」(マイヤ・ヒラサワ)がよかった。
角田の小説で、これも映画を先に見て満足感がなかった「八日目の蝉」(11年 中公文庫)を読んでみようと思っている。映画が先か原作が先かは悩むところだが、どちらが作者の意図を正しく反映、いや、結局、どちらが面白いか・・なのだが。
2017年5月10日水曜日
ロバの耳通信「ゴースト・イン・ザ・シェル」
「ゴースト・イン・ザ・シェル」(17年 米)
原作はマンガ「攻殻機動隊」(士郎正宗)。少佐役のスカーレット・ヨハンソンががんばっていたが、原作のイメージとはかなり違う。少佐は<原作ではまもってあげたいタイプの>草薙素子より脳を引き継いだロボットだったと明かされるシーンや、桃井かおり演じる素子の母親役との邂逅では、まるっきりソース顔でスーパーボディーのヨハンソンはかなり違和感を覚えてしまう。ただワキは髪型と義眼の表情がいいバトー役のオランダのピルー・アスペック、荒巻にビートたけしなど素晴らしい配役でヨハンソンを盛り立てている。「イングリッシュ・ペイシェント」(96年 米)でハナを演じて私が大フアンである仏女優ジュリエット・ビノシュが、「また」涙を誘った。
未来都市は、ホログラムや漢字のネオンなど「ブレードランナー」(82年 米)を彷彿させる。都市のイメージは電飾と人で溢れる香港。欧米から見ればステレオタイプの芸者ロボットや道路の意味不明の「禁」の文字などくすぐったさも感じるが、画像も音楽も一流だから、今のうちに映画館の大きなスクリーンで見ることをすすめたい。
原作はマンガ「攻殻機動隊」(士郎正宗)。少佐役のスカーレット・ヨハンソンががんばっていたが、原作のイメージとはかなり違う。少佐は<原作ではまもってあげたいタイプの>草薙素子より脳を引き継いだロボットだったと明かされるシーンや、桃井かおり演じる素子の母親役との邂逅では、まるっきりソース顔でスーパーボディーのヨハンソンはかなり違和感を覚えてしまう。ただワキは髪型と義眼の表情がいいバトー役のオランダのピルー・アスペック、荒巻にビートたけしなど素晴らしい配役でヨハンソンを盛り立てている。「イングリッシュ・ペイシェント」(96年 米)でハナを演じて私が大フアンである仏女優ジュリエット・ビノシュが、「また」涙を誘った。
未来都市は、ホログラムや漢字のネオンなど「ブレードランナー」(82年 米)を彷彿させる。都市のイメージは電飾と人で溢れる香港。欧米から見ればステレオタイプの芸者ロボットや道路の意味不明の「禁」の文字などくすぐったさも感じるが、画像も音楽も一流だから、今のうちに映画館の大きなスクリーンで見ることをすすめたい。
2017年5月8日月曜日
ロバの耳通信「スターリングラード 史上最大の市街戦」
「スターリングラード 史上最大の市街戦」(13年 露)
先の大戦の独ソ戦で最大の戦場となったスターリングラードの戦いを題材にして、小さな町で対峙するドイツ軍とロシア軍の戦いの中で兵士たちと引き裂かれる男女の物語を大音響の爆音、銃撃音と硝煙の中にも淡々と、また愛情深く描いている。登場人物のほとんどが死んでしまうから、ヒーローは出てこず、ロシアの実在狙撃兵をヒーロ仕立てで描いた「スターリングラード」(01年 米英ほか 狙撃兵ザイチェフをジュード・ローが好演し日本でも好評だった)とはえらい違いだが、ずっと味わい深かった。悲惨な戦争を描いた映画で、味わい深いもないものなのだが、ドイツ軍の大尉役のトーマス・クレッチマン(「U-571」00年 米、「戦場のピアニスト」02年 仏独ほか) がいつもらしくなく、よれよれの制服姿で好演しているわ、ロシア側の兵士たちがピヨトル・フヨドロフほか一流どころを揃えているわで、暗いステージでスポットを当てられる舞台俳優のように役者の個性が光る、ロシア映画らしい名作だった。
ロシア映画といえば、「ロシアン・スナーパー」原題はБитва за Севастопольセヴァストポリの戦い(15年 露)が良かった。実在の露狙撃兵リュドミラ・パヴリチェンコを演じた露女優ユリア・ペレシルドの考え込んだ時の眉間に寄るタテ皺と斜視気味の表情が忘れられない。
先の大戦の独ソ戦で最大の戦場となったスターリングラードの戦いを題材にして、小さな町で対峙するドイツ軍とロシア軍の戦いの中で兵士たちと引き裂かれる男女の物語を大音響の爆音、銃撃音と硝煙の中にも淡々と、また愛情深く描いている。登場人物のほとんどが死んでしまうから、ヒーローは出てこず、ロシアの実在狙撃兵をヒーロ仕立てで描いた「スターリングラード」(01年 米英ほか 狙撃兵ザイチェフをジュード・ローが好演し日本でも好評だった)とはえらい違いだが、ずっと味わい深かった。悲惨な戦争を描いた映画で、味わい深いもないものなのだが、ドイツ軍の大尉役のトーマス・クレッチマン(「U-571」00年 米、「戦場のピアニスト」02年 仏独ほか) がいつもらしくなく、よれよれの制服姿で好演しているわ、ロシア側の兵士たちがピヨトル・フヨドロフほか一流どころを揃えているわで、暗いステージでスポットを当てられる舞台俳優のように役者の個性が光る、ロシア映画らしい名作だった。
ロシア映画といえば、「ロシアン・スナーパー」原題はБитва за Севастопольセヴァストポリの戦い(15年 露)が良かった。実在の露狙撃兵リュドミラ・パヴリチェンコを演じた露女優ユリア・ペレシルドの考え込んだ時の眉間に寄るタテ皺と斜視気味の表情が忘れられない。
2017年5月3日水曜日
ロバの耳通信「聖の青春」
「聖(さとし)の青春」(16年 邦画)
テレビのCM以来見たいと思いつつ、映画館に行くのが億劫であきらめかけていたら、中国語字幕付きながらネットに動画が出ていた。若き棋士、村山聖の将棋人生を描いたノンフィクション。村山聖 - 松山ケンイチ、羽生善治 - 東出昌大、森信雄(聖の師匠) - リリー・フランキーの配役がピッタシで、重い腎臓病から膀胱がんを発症する村山を演じた松山ケンイチのムーンフェイスと渾身、というより本人より本人らしいと周りに言わせたほどの役作りはすごい。村山と羽生の最後の局となった対局シーンの東出の表情もいい。
原作(大崎善生)やテレビドラマ(01年 村山役は藤原竜也)はもちろん、村上聖という棋士がいたことも知らなかったし、将棋といえば会社員時代にお昼休みに誰かが指しているのを見たくらいしか知らなかったが、映画の中の静かな対局シーンの中でパチッと指される駒の音が新鮮。松山の口を開けないセリフ言いのせいか、聞き取りにくい音声や効果音、表情を大写しにするカメラワークなど、昔の日本映画を見ているようななつかしさを感じた。主題歌(秦基博「終わりのない空」)も良かった。DVDも出たらしいから、雨の日に落ち着いて見たい。
テレビのCM以来見たいと思いつつ、映画館に行くのが億劫であきらめかけていたら、中国語字幕付きながらネットに動画が出ていた。若き棋士、村山聖の将棋人生を描いたノンフィクション。村山聖 - 松山ケンイチ、羽生善治 - 東出昌大、森信雄(聖の師匠) - リリー・フランキーの配役がピッタシで、重い腎臓病から膀胱がんを発症する村山を演じた松山ケンイチのムーンフェイスと渾身、というより本人より本人らしいと周りに言わせたほどの役作りはすごい。村山と羽生の最後の局となった対局シーンの東出の表情もいい。
原作(大崎善生)やテレビドラマ(01年 村山役は藤原竜也)はもちろん、村上聖という棋士がいたことも知らなかったし、将棋といえば会社員時代にお昼休みに誰かが指しているのを見たくらいしか知らなかったが、映画の中の静かな対局シーンの中でパチッと指される駒の音が新鮮。松山の口を開けないセリフ言いのせいか、聞き取りにくい音声や効果音、表情を大写しにするカメラワークなど、昔の日本映画を見ているようななつかしさを感じた。主題歌(秦基博「終わりのない空」)も良かった。DVDも出たらしいから、雨の日に落ち着いて見たい。
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