「紙の月」(角田光代 12年 ハルキ文庫)
先に見たのは宮沢りえ主演の同名の映画(14年 邦画)。国内の映画賞を総ナメにした話題作だったが、私には宮沢の透きとおるようなキレイさ以外に印象に残ったところはなかった。シナリオも配役もなんだか「軽く」て、女性銀行員が大金を横領し、若い男に入れあげたというメインのストーリーも、ミッションスクール時代の女行員が善意の多額の寄付をシスターにとがめられるシーン、横領が露見したあと銀行の先輩になぜ横領したかを語るところなど原作とはかなり違っていて、原作で角田が書きたかった(と思われる)「一番思いを込めたこと」が忘れられているような気がした。
原作を読んだあと、また映画を見たのだが、原作で語られる主人公が感じた快感と不安、たとえばカードで大きな買い物を続ける快感やたよりなさ、大きな借金を繰り返しているかもしれないという底知れない後ろめたさと不安にココロが暗い闇に落ち込んでゆくような気分は、「弱気の蟲」(松本清張 77年 文春文庫)で負けるとわかっていても勝負事をやめらない主人公が、身の置きどころがない焦燥感に脂汗をかきながら、ズルズルと蟻地獄に落ちてゆく怖さと通じるものがあった。
原作では多く語られる、買い物依存症の学生時代からの友人や主人公の元カレとその妻の夫婦関係などのサブストーリーは映画とちがってメインのストーリーを補完するものになっていて、小説の深さを楽しめる。そこが私が映画に感じた不満かもしれない。
wikiで調べたらテレビドラマ10でこの「紙の月」(14年 NHK)をやったと。こちらの主演は原田知世。原田のオットリ、にこやかの普段からは考えられない演技で、女優の好き嫌いは別にして、映画の宮沢りえを凌いでいる。YouTubeにアップロードされていたドラマは著作権回避のためか、画像は落ちていたが、出来はさすがNHKだけあって、ワキも錚々たる配役で固め、時間の長さだけではないと思うが、120分強の映画のおおよそ倍の200分(40分x5回)を使っての丁寧な仕上がりで、映画よりずっと楽しめた。エンディングに流れる「子守歌」(マイヤ・ヒラサワ)がよかった。
角田の小説で、これも映画を先に見て満足感がなかった「八日目の蝉」(11年 中公文庫)を読んでみようと思っている。映画が先か原作が先かは悩むところだが、どちらが作者の意図を正しく反映、いや、結局、どちらが面白いか・・なのだが。
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