「人生フルーツ」(17年 邦画)
庭に雑木林と畑をつくり、木の家に暮らす老夫婦の毎日。少ない会話に満ち足りた暮らしが、樹木希林の語りとともに紹介される。筍や野菜など季節ごとの収穫があり、品数こそ多いものの質素な食卓も紹介される。都市計画が専門だった夫と作り酒屋のひとり娘だった妻が築いて手に入れた終の暮らしは、穏やか。夫が遠方の病院の再建デザインを生涯最後の奉仕としながらも、老妻を残して先立つ。夫のいない暮らしも、落ち葉を腐葉土にし、畑を耕すような穏やかなものに見える。タイトルバックのあとに、風にゆれる木々や草や水場に来て水を飲む小鳥などの風景のまま、不意に映画が終わった。放映後に非常灯だけの暗い通路をゾロゾロと出口に向かい、明るいホールに出たときの解放感はいい映画を見たという満足感もあったのだが、時間がたってくると少し違う気持ちになった。
彼らには、貧乏や介護、子供たちの非行や災害、諍いや疾病など穏やかな暮らしを煩わせることがどれくらいあったのだろうかと。恵まれていたかもしれない人たちの暮らしと比べみてもしょうがないのだが、閉じ込められてしまった暗いほうから、自分たちには決して行くことができないであろう明るいほうを見たような気持ちになった。年老いて僻みが多くなった。
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