寒い夜、早めに布団に入り枕にLEDライトを置いて冷たくなった手を替えながら初めての作家たちを読んでいる。
「モルヒネ」(06年 安達千夏 祥伝社文庫)
入院してきた末期がん患者はホスピスの勤務医の元恋人。死にゆく元恋人に心が揺れるという、筋を書き出せば少女漫画にも出てきそうな展開なのだが、安達にかかると息が詰まりそうになるくらいやるせない。そう、全編やるせないのだ。暗いところから明るいところを覗き見するが、片足が踏み出せずにいる安達の臆病さが伝わってくる。ほかの作品も読んでみたい。デビュー作「あなたがほしい」ではすばる文学賞を受けているという。ますます、読みたい。
あとがきを作家の島田雅彦が安達への私信の形で書いていて、”あなたの小説は乾いた悲しみや思わずため息が漏れるようなやるせなさに満ちている”と。近年、安倍首相を批判したりで物議をかもしている島田雅彦だが、こんなに共感できるあとがきを書ける作家なら島田の作品も読んでみたい。
「青い約束」(12年 田村優之 ポプラ文庫)
文庫化にあたって「夏の光」を改題したという。なんてことをするのだ。「夏の光」だったほうが、ラストも輝くのに。
証券アナリストと新聞記者として20年ぶりに出会った親友の二人。高校生の二人を引き裂いたのは共通の恋人の事故死。過去の事実を明かした新聞記者は末期がんで死ぬのだが、青春ものを得意とするポプラ社らしく、明るく終わっている。残ったほうはいいのだろうが、亡くなったほうは明るくなんか死ねないんじゃないか。痛いだろうし、苦しいだろうし。アナリストが日本経済について語る部分、新聞記者である著者の持論なのだろうが正論を語り過ぎ。経済小説ではないのだし、ソコは主題じゃないだろうと、イライラが募った。
加筆訂正したために、ひどい作品になってしまったが、加筆訂正前の「夏の光」を探して読むほどの時間は自分には残されていない。
「陽だまりの偽り」(08年 長岡弘樹 双葉文庫)
ハラハラ、ドキドキの短編が5つ。表題作となった「陽だまりの偽り」はボケが始まった初老の男が嫁から預かった孫への仕送りのお金を紛失し、つじつま合わせのためにひったくりにあったと装い、「淡い青のなかに」では、交通事故を起こした管理職手前の母親が息子に罪を背負ってもらおうとするなど、推理作家らしいヒネリと落ちがあるが、うーん、月間ナントカ小説の読切特集とかにでてきそうなエンターテインメント。まあ、面白かったけれど、後先短い自分にはこういうの、いらないかな。
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