2018年3月24日土曜日

ロバの耳通信「4TEEN フォーティーン」

「4TEEN フォーティーン」(05年 石田衣良 新潮文庫)

代表作といわれる「池袋ウエストゲートパーク」(01年 文春文庫)がなんだか合わなくて、テレビや雑誌などで見かけた著者のイメージがやっぱり合わなくて敬遠していたが、図書館の新刊の棚に十刷版があって手に取ったのがキッカケ。

なんだ、こりゃという面白さ、うん、懐かしさか。8つの短編の主人公は4人は14歳。ああ、自分にもこういう仲間が欲しかった。スティーブン・キングの「スタンドバイ・ミー」の世界。

青春にはまだ届かない「大人になりかけのままだけど、まだ子供」(境界はどこにあるのだろう)の彼らの純粋な喜びや悲しみが、大人になってしまった自分にもよくわかるのは、少し違った環境で育ったけれど自分もこの時代があったという証。

懐かしくも、悔しい。ワタシは受験の準備のために始めた勉強が少し面白くなりかけていて、机にかじりついて勉強に明け暮れていた。過ぎてから思う、過去は取り戻せない。泣いても叫んでも戻らない。


2018年3月19日月曜日

ロバの耳通信「ザ・サークル」

「ザ・サークル」(17年 米)

「ハリー・ポッター」シリーズ(01年 英)ハーマイオニーを演じたエマ・ワトソンが主役で、トム・ハンクスも出てると。エマ・ワトソンには食指がわかないが、トム・ハンクスに失敗はないからなと思っていたのに。コールセンターの担当から、友人のツテでサークルというGoogleとFacebookを足したような巨大IT企業に転職した主人公が、知らない間にというと聞こえは悪くないが、まあ、悪意のない熱心さでこの巨大企業の片棒を担ぐようになるという物語。エマ・ワトソンの能天気なプロジェクトリーダーぶりがピッタリ。

個人情報はおろか人生のすべてを晒してしまうことで無数の友人もどきの励ましを得ることができるようになってゆき、最初はプライバシーの浸食に恐れていた主人公が、ゆけゆけドンドンの会社人間に変わってゆく様子が怖い。ITやSNSがすべてという現代にありがちなネット社会への警鐘なのだが、不安や怖さを自分でうまく消化できないうちに映画が終わったから、痛くはないがいつまでも消えないオナカの不調のように不安がしこりになって残ってしまった。トム・ハンクス演じる巨大企業の創設者が、スティーブ・ジョブスやザッカーバーグを彷彿とさせる語りで理想を語る姿にだまされそうにになった。のの巨大企業のオープンな仕事場や親しく話しかけてくるスタッフたちや恵まれた職場環境に惹かれつつも、映画を見ながらずっと感じていた胡散臭さのようなものの正体は何だったのだろう。

世の中はたぶんこうなるんじゃないかと気味悪さを感じるので、また見ようという気にはなれない。ITやSNSの色付けがされているが、オバケが出そうで出ない、まごうことなき怪談映画。

2018年3月12日月曜日

ロバの耳通信「シェイプ・オブ・ウォーター」

「シェイプ・オブ・ウォーター」(18年 米)

アカデミー賞のノミネート作品ということで期待。YouTubeの予告編、wikiをチェックし動画サイトのアップロードを待っていた。この季節、まだインフルエンザは怖いから人混みの中には行きたくない。近年、新作の動画サイトへのアップロードも早いし、もともと混んでいるところが嫌いということで、動画サイトでチェックして気に入ったら映画館へという習慣になっているから、あれほど足繁く通っていた映画館もこのところずっとご無沙汰。

「シェイプ・オブ・ウォーター」は口コミサイトで星4つ。期待はさらに高まった。予告でも暗い、照明が暗いのとストーリーも、というのがわかっていたから、週末の遅い時間にテレビも消して照明も落として見たのに、だ。

なんだコレ。おかしな中年女と半魚人のラブストーリー。この中年女が口がきけないちょっと気の毒な人、半魚人は軍事に利用され迫害されるというこれも可哀そう設定なのだが、必然性のないイヤラシイシーンやストーリー展開のいいかげんさに途中から辟易。さらに揚げ足取りをすれば、画面が暗い(ホラーじゃあるまいし、まあ、半魚人が出るからホラーともいえるのか)、主人公役のサリー・ホーキンスなんて一番キライなタイプだし(まあ、個人的な趣味ではあるが)、半魚人も昔のB級映画のソレだし(なんとかならなかったのかぁ)などなど。キライだと思うと次から次に気に入らないところが思い出される。好きな女性は髪から足の先まで好きになってしまうような、そんなことか。

監督が自分で原作を書き、社会的弱者への差別など多くの社会問題の提起をした作品だと。ふーん、オスカーもこんなものか。

2018年3月9日金曜日

ロバの耳通信「エンド・オブ・キングダム」「ザ・バンク 堕ちた虚像」

「エンド・オブ・キングダム」(16年 米)

原題は London Has Fallen まあ意味は合ってるけれど「ロンドン壊滅」のほうがよかったんじゃないかな。イスラミックステートが米軍からミサイルで攻撃された仕返しにロンドンに英首相の葬儀にきた米大統領を誘拐し、結局奪還されて米軍にミサイル攻撃されるというステレオタイプのシナリオのなかで米大統領補佐官が大活躍し、大統領を守るという物語。この補佐官がめっちゃ強くて、マーシャルアーツも銃器の扱いもスーパーマン並み。テキの撃ったタマは当たらないし、ハッピーエンドもなんとなくわかっていたから、ハラハラドキドキのシーンも安心して楽しめた。この映画の見どころはロンドン市内の有名建造物が爆破され、崩れ落ちるCG。そう何度も訪れたわけでもないが、見覚えのある建物が次々に崩壊するのを見るのは妙な気持だ。本作の前編のホワイトハウスが北朝鮮に占拠され、シークレット・サービス(主演は本作と同じジェラルド・バトラー)が活躍する「エンド・オブ・ホワイトハウス」(13年 米 Olympus Has Fallen)も面白かった。続編は「邦題未定 Angel Has Fallen」だと。もっとすごいCGが見られそうで、楽しみにしている。

よくできた映画ということで思い出したのが「ザ・バンク 堕ちた巨像」(09年 米独英 原題The International)。こっちは国際メガバンクの陰謀を暴く。ノンフィクション風ミステリー映画として悪いのは誰だとか推理しながら楽しんでいたら、後半突然始まった派手なドンパチ。こちらも不死身のインターポル捜査官の活躍を描いたもので、あの白亜のグッゲンハイム美術館(映画ポスターのウズマキ模様はグッゲンハイム美術館の特徴ある通路)が銃撃戦で穴だらけにされる。よくできたCGだと思っていたら、こっちは巨大なレプリカだという。こっちも迫力ある銃撃戦と勧善懲悪のハッピーエンドが楽しめた。

映画はエンターテインメント。

2018年3月5日月曜日

ロバの耳通信「肩ごしの恋人」「55歳からのスローライフ」

「肩ごしの恋人」(04年 唯川恵 集英社文庫)

裏表紙カバーのウリ文句に「圧倒的な共感を集めた直木賞受賞作」とあり手に取ったが、どうしても相いれない。これが直木賞かと首をかしげながらも、読書メーターをチェックしたら女性読者の支持を集めて星4コ。ドラマ化もされて韓国映画でも好評だと。所詮、本は好き嫌いか。嫌いだ、これは。グダグダ書くのはやめよう、この作家の本を読まなくても、読みたい本は山のようにあるのだから。


「55歳からのハローライフ」(14年 村上龍 幻冬舎文庫)

村上を見直してしまった。長編恋愛小説もどきの「心はあなたのもとに」(13年 文春文庫)ではあんなに鼻もちならなかった「こだわり」がこの中編集では、老いの入り口に立ち「再出発」を願う主人公たちの矜持となって読者に直接訴えてきた。まいった、村上はすごい。

やっぱり、似た名前の「13歳のハローワーク」というのがあるらしい。やっぱり、としたのはずいぶん前に話題になったからで、結局読まず仕舞いだった。コンド読んでみよう。うーん、でもね。「心はあなたのもとにみたいに、また裏切られるのも嫌だなー。

2018年3月1日木曜日

ロバの耳通信「旅に出た」

「旅に出た」

気づいたら電車に乗っていた。止まった駅の表示は、全く知らない駅名。車窓からかいま見た改札口はどこかの駅に似ている気もしたが、思い出せない。そうだ、自動改札ではなくて、紺色の制服を着た駅員が切符を集めていたから、ずっと田舎のほうなのか、ずっと昔の風景なのか。改札の向こうには、駅からまっすぐに伸びた白っぽく光る通りが見えた。

対面座席の車内は昔の鶴見線のように薄汚れた古い電車だがずっと幅が狭く、右側が通路、左側に1列の座席は水色のビニール。その車両には私と、ずっと向こうに対面で座ってひそひそ話をしているふたりだけ。男だったか女だったか。子供ではなかったような気がするがボンヤリした印象しかない。

誰も乗ってこない電車は不意にゴトンと動き出したが、そこがどこで、何線かも上りかも下りかも、つまりは何処を何処に向かっているかもわからない。不安を感じながらも、じっとしていることが辛くなって、たまたま電車が止まったのを幸いに、車両の仕切りのドアを手で開け、外のドアを手前に開いて、右手のバーをつかんでステップを踏んでホームに降りた。そのとき、乗っていたのが汽車、つまりは蒸気機関車が引っ張る昔のアレだということに気付いた。

降りた駅の改札も有人改札で、私が差し出した硬券と呼ばれる厚紙を切ったような切符をちらりと見た若い駅員は、「あ、途中下車ですね」とそのまま切符を返してくれた。うん、昔は途中下車の時は、小さなゴム印を押してくれたのだがと思いつつ切符をポケットに戻した。

駅前はずっと先のほうまで開けていて、トラックやブルトーザーが遠くに見えるだけで、有刺鉄線が巻かれた杭や、雑草の空き地以外は何もない。コーヒーでもと思って降りたのだが、何にもなかったことで落胆し、また駅に戻った。駅構内でポスター貼りをしていた老年の駅員に「何もない駅前ですね」と話しかけて、この町が再開発中で、これからパチンコ屋とか、ファミレスとかができると聞いた。

また、電車に乗ったが、知らないうちに薄暗い川崎駅に着いた。なぜ川崎駅かもわからないが、南武線と京浜東北線の乗り換えの少し広くなっている人混みの中で、これから帰ると会社に電話しなければとポケットの携帯(なぜかスマホではない)を出したが、どうしても会社の席の電話番号が思い出せない。あてずっぽにかけると隣の課の・・とまだまだ、「夢の旅の話」は続くのだがキリがないのでやめる。