「旅に出た」
気づいたら電車に乗っていた。止まった駅の表示は、全く知らない駅名。車窓からかいま見た改札口はどこかの駅に似ている気もしたが、思い出せない。そうだ、自動改札ではなくて、紺色の制服を着た駅員が切符を集めていたから、ずっと田舎のほうなのか、ずっと昔の風景なのか。改札の向こうには、駅からまっすぐに伸びた白っぽく光る通りが見えた。
対面座席の車内は昔の鶴見線のように薄汚れた古い電車だがずっと幅が狭く、右側が通路、左側に1列の座席は水色のビニール。その車両には私と、ずっと向こうに対面で座ってひそひそ話をしているふたりだけ。男だったか女だったか。子供ではなかったような気がするがボンヤリした印象しかない。
誰も乗ってこない電車は不意にゴトンと動き出したが、そこがどこで、何線かも上りかも下りかも、つまりは何処を何処に向かっているかもわからない。不安を感じながらも、じっとしていることが辛くなって、たまたま電車が止まったのを幸いに、車両の仕切りのドアを手で開け、外のドアを手前に開いて、右手のバーをつかんでステップを踏んでホームに降りた。そのとき、乗っていたのが汽車、つまりは蒸気機関車が引っ張る昔のアレだということに気付いた。
降りた駅の改札も有人改札で、私が差し出した硬券と呼ばれる厚紙を切ったような切符をちらりと見た若い駅員は、「あ、途中下車ですね」とそのまま切符を返してくれた。うん、昔は途中下車の時は、小さなゴム印を押してくれたのだがと思いつつ切符をポケットに戻した。
駅前はずっと先のほうまで開けていて、トラックやブルトーザーが遠くに見えるだけで、有刺鉄線が巻かれた杭や、雑草の空き地以外は何もない。コーヒーでもと思って降りたのだが、何にもなかったことで落胆し、また駅に戻った。駅構内でポスター貼りをしていた老年の駅員に「何もない駅前ですね」と話しかけて、この町が再開発中で、これからパチンコ屋とか、ファミレスとかができると聞いた。
また、電車に乗ったが、知らないうちに薄暗い川崎駅に着いた。なぜ川崎駅かもわからないが、南武線と京浜東北線の乗り換えの少し広くなっている人混みの中で、これから帰ると会社に電話しなければとポケットの携帯(なぜかスマホではない)を出したが、どうしても会社の席の電話番号が思い出せない。あてずっぽにかけると隣の課の・・とまだまだ、「夢の旅の話」は続くのだがキリがないのでやめる。
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