2018年5月4日金曜日

ロバの耳通信「春の庭」

「春の庭」(柴崎友香 14年 文芸春秋社)

自分に残された時間を考えると、本も「片っ端から」読むのでは到底時間が足りないということを認識しているから、勢い賞を取った作品、好きな作家、好みの舞台設定を選んでいる。
本作は、芥川賞を取り選考者の評も、また読書メーターの評も良かったから期待して読み始めたが、まったくイケナイ。貸家に住む住人が、貸家裏にある古い家に興味を持って調べまわるといミステリーじみた舞台設定はヨシ。「春の庭」はその古い家を題材にした写真集の名前。

見知らぬ家を訪れるという設定は、ネコを探しに知らない家に入り込み、奇妙な体験をするという、村上春樹の「ねじ巻き鳥クロニクル」(97年 新潮文庫)にちょっと似ている気もするし、近くにあるのに知らなかった場所での冒険というようなところが、「ねじ巻き鳥・・」とはえらい違いで、ワクワク感や驚きもなく失望した。

知らないところの町歩きが趣味のワタシの好みだったのだが、柴崎の冒険物語は芥川賞では新鮮な技法として好支持を得ていた「視点の変更」、つまりはたかだか140ページのハードカバーで何度も主役が入れ替わること、に私は最後までなじめず、消化不良を起こしてしまった。賞を獲るということは大変なことなのだろうが、柴崎の文章は脈絡がなく、やはり読書メーターなどでも好評であった情景描写が、私には不自然で共感を得なかった。

この本を読む直前まで読んでいた「スコーレ No.4」(宮下奈都 09年 光文社文庫)の自然で丁寧な情景描写に強く共感していて、そのせいで柴崎に厳しくなりすぎたのだろうか。いずれにせよ、代表作に失望してしまったから、もはや柴崎の作品を手に取ることはないと思う。

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